目配せの後は

 テーブルで向かい合った2人が、笑顔を交わす。足元では、すねを蹴り合っている。外交とは、そういうもんだよ。若い頃、先輩記者にそう教わったことがある▲友人と呼び合いながら、テーブルの下では「おい、分かってるよな」と時に厳しい要求をして、自国に有利な方へと持っていく。イメージは実直で誠実そうなバイデン米大統領だが、外交の手並みに「したたかさ」を見る▲菅義偉首相と会談し、台湾海峡の「平和と安定」が重要だと確認し合った。言うまでもなく、台湾を抑え込もうとする中国に、日米ががっちり肩を組む姿を見せつけている▲分かってるよな。うん、分かってるよ。2人が目配せを交わすさまを、つい想像する。足並みをそろえた菅氏にも目算があるに違いない。バイデン氏と会い、同盟を確かめ合う。それだけで外交の成果となり、私の点数にもなる、と▲高齢者への新型コロナのワクチン接種も始まったし、このまま支持率がぐんと上がれば…。皮算用は尽きないはずだが、実際はどうだろう。感染が急拡大するタイミングでの渡米は、点数になったか。米国と肩を組みつつ、では中国とどう向き合うか▲うん、分かってるよ。バイデン氏に目配せしたあと、目線はどこに向けられるのだろう。首相の外交の手並みはまだ見定めようがない。(徹)

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