八十八夜の頃

 どなたもご存じの歌だろう。〈♪夏も近づく八十八夜 野にも山にも若葉が茂る…〉。「茶摘み」は明治時代の文部省唱歌らしい。八十八夜とは立春から数えて88日目、今年はきょう5月1日がその日に当たる▲「夏も近づく」は、今年は5日に巡ってくる「立夏」が近いことを指すのだろう。茶どころの東彼杵町では「そのぎ茶」の一番茶の初摘みが4月上旬に始まり、八十八夜の今どき、作業はピークを迎える▲お茶の日本一を決める品評会の「蒸し製玉緑茶(たまりょくちゃ)」部門では、そのぎ茶の生産者が4年連続で頂点に立った。知名度も人気もぐんぐん上がっている▲長崎市外との往来自粛が要請される前のこと-と、おことわりしておくが、先ごろ東彼杵町の古い米倉庫を改装した店を訪ねると、これまでの「受賞茶」などがおしゃれなパッケージで並び、心弾んだ▲迷いに迷っていくつかを手に入れたが、そばでは若い人もまた、熱心にお茶を選んでいる。「そのぎ茶って、まろやかでおいしいね」。こんな会話が若者の間で交わされるのかな…と想像して、少しばかり時代の変化を思い、産地の努力の成果を思う▲〈茶を摘むや胸のうちまでうすみどり〉本宮鼎三(ていぞう)。「自粛」「時短」の文字が重く、息の詰まるような日々、胸いっぱいに新緑の空気を運び込む深呼吸を忘れまい。(徹)

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