牛の電車でこどもの国へ

 

こどもの国駅で出発を待つ長津田行き「うしでんしゃ」

 【汐留鉄道俱楽部】東京都、神奈川県に広大な鉄道ネットワークを誇る東急の中で、他の路線とちょっと毛色の違うのが「こどもの国線」だ。

 こどもの国は1965年に開園、東京都町田市と横浜市青葉区にまたがる広大な緑地に、牧場や動物園、プール、サッカーグラウンドなど、さまざまな施設が点在する、いわば子どもの「楽園」。最寄り駅はその名もこどもの国駅で、田園都市線の長津田とこの駅を結ぶ、わずか3.4キロの路線がこどもの国線だ。

 長津田のこどもの国線乗り場は、10両編成の電車がひっきりなしに発着する田園都市線のホームと跨線橋で結ばれた、1線1面の小さなホーム。橋上の自動改札機を抜け、階段を下りればそこがホームなのだが、なんとそのまま外の道路にも出てしまう構造になっている。乗り継ぎ専用だと思っていた橋上の改札は、実は出口だったのだ。こどもの国線の運賃は東急の他線とは別建てになっていて、長津田で無改札で入った乗客も、降りるときに改札を通るので問題はないのだろう。

 時刻表を見ると、日曜日の日中は20分間隔で運行されていた。家族連れと一緒に待っていると、黒と白で大胆にラッピングされた2両編成の電車が入線。前面は牛の顔が描かれ、側面には平仮名で「うしでんしゃ」と書かれている。

 車内に入ると、床は緑色、窓から上は水色と、青空が広がる牧場の内装になっている。床には牛の足跡なんかもあって、子どもだけでなく大人も結構楽しんでいる。各地でいろいろなラッピング電車を見てきたが、ここまで凝るとは、なかなかあっぱれだ。後で調べたら、もう1編成「ひつじでんしゃ」というのもあって、こちらも秀逸なラッピング電車だ。 

うしでんしゃの車内。ドアも大胆な配色になっている

途中駅の恩田は上下線の行き違いができる構造なのだが、この時間帯は1編成が全線単線を往復するだけのダイヤになっている。たった7分で終点に到着。ホームに降り立った子どもたちは一目散にこどもの国のゲートへ向かい、しげしげ車両を眺めているのは僕だけだった。

 こどもの国線が東急の他線と違うのは、この線だけ会社の所有形態が異なるからだ。実は線路や車両は、みなとみらい線を持つ横浜高速鉄道のもので、東急は電車の運行を担っていて、つまりは所有者と運営者が別々なのだ。運賃体系が別になっているのもこういう背景があるからだろう。とはいえ線路はちゃんとつながっていて、途中にある車両工場には東急のいろいろな車両も入ってくるので、東急一家の一員であることに変わりはない。

 車中からは、専用駐車場にびっしり車がとまっているのが見えた。家族連れが多く、新型コロナウイルス感染防止という理由もあるのだろうが、鉄道ファンとしては「うしでんしゃ」「ひつじでんしゃ」で訪れてほしいというのが正直な気持ちなのだった。

 八代 到(やしろ・いたる)1964年東京都生まれ。共同通信社勤務。こどもの国は小学校の遠足で行った記憶があるような、ないような…。何せ半世紀前の話です。

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