4月から定年70歳延長に改正、社会保険や公的年金、お金の面で生活に影響する?

2021年4月からの改正高年齢者雇用安定法の施行を受けて、企業には従業員に70歳まで働く機会を確保する努力義務が生じることになりました。この改正で定年廃止や、70歳までの定年引上げ、再雇用を拡大するなど、上場会社でも「生涯現役」へと舵を切りはじめました。改正法では、少子高齢化で人口が減少していく中、働く意欲がある高齢者に活躍できる環境を整備することを目的としています。

いったい改正高年齢者雇用安定法の施行で、私たちの生活にどのような影響があるのでしょうか。働き方が変わることによって、他の社会保険の制度や公的年金にどのような関わりが出てくるのか見ていきます。


改正法は「生涯現役社会」の構築に向けた環境づくり

日本の人口は、少子高齢化により減少傾向にあります。2065年には総人口が9,000万人を割り込み、65歳以上の人口の割合は、38.4%になると推計されています(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」平成29年推計)。実に2.6人に1人が高齢者となる計算です。これによって、働く人の人口も減ってくることは避けられません。これでは日本の経済社会の活力は維持できないため、年齢に関わりなく働くことができる「生涯現役社会」を目指す必要が出てきたのです。

幸いなことに高齢者の7割弱が、65歳を超えても働きたいと考えており、豊富な経験や知識を持った高齢者はたくさんいます。しかし、希望者が65歳まで働けるところまでしか環境が整備されていませんでした。そこで、高年齢者雇用安定法を改正することによって、65歳以降も従業員が安心して働くことができるように、社内制度を整備する後押しを国が行っているのです。企業では、現在雇用している従業員の70歳までの就業を支援する努力義務が課せられています。

高年齢者雇用安定法の一部改正内容
・70歳までの定年の引き上げ
・70歳までの継続雇用制度の導入
・定年の定めの廃止
・業務委託契約の導入
・社会貢献活動に継続的に従事できる制度の導入

改正法のメリットとは?

年齢にかかわりなく高齢者を雇用していく社会の実現に向けて、高年齢者雇用安定法が改正されましたが、どんなメリットがあるのでしょうか。企業側と従業員側とに分けて解説します。

会社側のメリット
■人手不足の解消・人材採用コストの削減
新卒者などの若い人の採用が難しくなり、人材の確保が課題になりつつあります。高齢者を活用することで人手不足問題がクリアでき、採用にかかる費用を抑えることができます。

■職場への定着や職場の活性化
年齢に関係なく活躍できる環境で雇用が確保されれば、従業員の職場定着が期待でき、職場の活性化につながります。

■人材育成ができる
高齢者の業務に関するスキルを活かせるので、技術を伝承することで人材育成につながります。

■働きやすい職場づくり
多様な働き方ができることによって、高齢者以外の従業員にとっても、働きやすい職場になります。

従業員側のメリット
■年齢を気にせず働くことができる
今までは年齢にしばられて、やる気や能力があっても働くことができずに埋もれてしまう環境でした。希望をすれば、65歳を超えても働きたいと考えている人が活躍できます。

■将来への不安が減る
長く働き続けられると老後資金の不足など将来への不安が減り、若い世代が将来像を描きやすくなります。

改正法のデメリット

会社側のデメリット
■従業員の世代交代が進みにくくなる
今までの従業員の平均年齢よりも高くなるため、新しいアイデアの発案がしにくく、社内改革のスピードがダウンする可能性があります。

■労務管理の手間が増える
労働時間や雇用区分の細分化によって、労務管理の手間が増えます。また新たな評価制度が必要になるため、人事制度の設計も加わります。

■人件費がかさむ可能性がある
正社員として雇用する場合には、賃金を大幅に削減することが難しく、結果的に人件費が増えてしまう可能性があります。

従業員側のデメリット
■年金の受け取り開始時期が遅くなる可能性がある
改正法では、70歳までの雇用確保は努力義務ですが、これから70歳まで働くことが当たり前になれば、将来的には年金の受け取り開始が遅くなっていく可能性も否定できません。

改正高年齢者雇用安定法による生活面での影響範囲は?

高年齢者雇用安定法の改正は、社会保険制度のうちの雇用保険の分野に属しています。長く働く制度を生かすために、雇用保険や年金などでも改正が相次いでいます。新制度の内容を知って、今後の働き方やライフプランを考える参考にしましょう。

雇用保険
新規加入が以前は65歳未満でしたが、2017年1月から65歳以上も可能になっています。2022年1月からは、65歳以上で複数の会社における労働時間が週20時間以上(1つの会社では20時間未満、かつ5時間以上)である場合には、高年齢被保険者となります。

高年齢雇用継続給付
高齢労働者の職業生活の円滑な継続を援助するための給付金です。支給対象は、60~64歳で失業給付を受けることなく、60歳以降も継続して雇用される人が対象です。現在は60歳以後の賃金が60歳時点の75%未満に下がった場合に60歳以後の賃金の15%を上限に支給しています。これが2025年4月に10%に縮小、その後は段階的に縮小・廃止が予定されています。

労災保険
仕事中や通勤途中の病気やケガした場合を補償する労災保険は、2020年9月から複数の会社で働く場合、すべての勤務先の賃金を合算して算定するように改正されています。副業や兼業する人にとって、万一の場合には給付額が増えます。この改正は、高齢者に限らず全世代が対象になっています。

これから年金はどう変わる?

年金制度も高齢者の経済基盤を充実させるために改正が予定されています。

公的年金
■在職中の年金受給の見直し
60歳を過ぎて働く会社員は、老齢厚生年金が減ることがあり、この年金が減るしくみを「在職老齢年金」といいます。年金と賃金の合計額によって、減額の有無やいくらになるかが決まります。現在、65歳未満の在職老齢年金の支給停止基準額は28万円ですが、2022年4月から47万円に引き上げされます。65歳以上で働く人の場合には、現行と同じで年金と賃金の合計が月47万円以下であれば、老齢厚生年金は全額受け取ることができます。

■繰下げ受給の上限見直し
年金は受け取る時期によって、年金額が変わるしくみになっています。受け取り開始を先に延ばすことを「繰下げ」といいます。2022年4月から老齢基礎年金、老齢厚生年金の繰下げ受給の上限を70歳から75歳に引き上げます。1か月繰下げるごとに受取額が0.7%増加しますので、70歳まで繰下げると受取額が42%増え、75歳まで繰下げると受取額が84%増えます。これに合わせて繰上げ受給(年金を早めに受け取ること)の年金の減額率が1か月あたりマイナス0.5%からマイナス0.4%に緩和されます。

私的年金
■企業型確定拠出年金、iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)の見直し
2022年4月から受給開始時期の上限が企業型、iDeCoともに70歳から75歳に上がります。2022年5月から加入できる年齢が企業型では60歳未満から70歳未満に、iDeCoが60歳から65歳未満になります。企業型では、「60歳以降は、60歳前と同一事業所で継続して使用される者に限られる」という制限が外されます。

給付金を知って老後の生活に活用

雇用の機会が70歳に延長されることによって、「自分はいつまで働きたいのか」を考える必要が出てきました。今まで以上に柔軟な働き方ができるようになりそうですね。働くこと以外にも会社で雇用されることによって、雇用保険の被保険者の要件を満たせば、受給できる給付金があります。

家族に介護が必要であれば、「介護休業給付金」が利用できますし、スキルアップを目的にすれば「教育訓練給付金」も活用できます。雇用が延長されたことを機会に、会社員が利用できる制度にも目を向けて、老後の生活に活かしましょう。

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