【追う!マイ・カナガワ】エスカレーターなぜ歩く?(下)マナー向上はどの国も難航

2列でのエスカレーター利用を呼び掛けるステッカー

 「エスカレーターはどうしていつまでたっても片側空けのままなのでしょうか」。「エスカレーターの2列乗りが叫ばれているのに浸透していません」─。こうした疑問の声が神奈川新聞社の「追う! マイ・カナガワ」取材班に相次ぎ寄せられている。

■埼玉の条例に注目

 左側に大きな負荷がかかることでエスカレーターが故障するのでは─と心配する声も取材班には届いた。

 業界大手の東芝エレベータ(川崎市幸区)の担当者は「エスカレーターは丈夫な構造体で、片側に負荷がかかっても大丈夫」と否定した。一方、あるメーカーからは「影響は当然ある。片側にだけ負荷がかかることで部品の劣化が早まり、交換のタイミングが左右でずれる」との指摘もあった。機器への影響も否定はできないのかもしれない。

 そうした中で、今後の試金石となりそうなのが、今年3月にエスカレーターを立ち止まって利用することを求める条例を制定した埼玉県議会だ。

 条例案を提案した埼玉県議会自民党議員団の中屋敷慎一政調会長は「子連れの利用者や高齢者からは『本当に危ない思いをした』と寄せられている。長い慣習に挑むことは難しく、歩行しないよう市民に意識付けする根拠となる条例が必要と考えた」と説明。違反しても罰則はないが、10月の施行が注目される。

■メーカーは発想の転換を

 エスカレーターが誕生して1世紀余り。江戸川大名誉教授の斗鬼(とき)正一さん(70)によると、世界で初めて片側空けが呼び掛けられたのは1944年ごろのロンドンのようだ。その文化はその後、欧米各国やアジアで広がった。近年では日本と同様に是正しようとする動きはあるが、どの国も難航しているという。

 この問題と長年向き合ってきた斗鬼さんは、呼び掛けだけで人々の意識を変えられるとは思っていない。

 「例えば横浜のランドマークプラザの『スパイラルエスカレーター』は曲線なので歩きづらく、歩行者が生じづらい。メーカーはイノベーションを試みてほしい」。斗鬼さんは、長年エスカレーターの形状が変わっていないことにも触れ、歩きにくい構造を発明するなど「発想の転換も必要だ」と訴えている。

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