<南風>依存症家族のゴールはどこか

 弊社は依存症の当事者や家族を支援しており、家族ケアを目的とした家族教室も開催している。依存症は竜巻のように家族を巻き込んで、疲弊させていく病だ。
 家族は「今すぐ」相手に変わってほしい、依存をやめて良くなってほしい、とやっきになる。またはいったん依存行為が落ち着き、それまでのつらさも喉元を過ぎると「もう大丈夫だろう」とあんどする。
 しかし依存症は一生の病である。いったん依存が止まっても、本人が適切な知識や対応を知り、実践しなければ、つかの間の平穏は次の問題行動までの準備期間となってしまうだけだ。
 ある薬物依存回復者の母親は言った。「最初はまた薬に手を出すんじゃないか、また自殺しようとするんじゃないか、と1日中様子を見張っていました。でも家族教室に通うようになり、同じ境遇の方々と話す中で、飲むときは飲むだろう、死んだらそれがこの子の寿命だと思うようになったんです。そして息子を変えようとすることをやめ、自分の生活を大事にすることにしました」。
 結果、当の本人は「母親の監視がなくなって気が楽になった」と感じ、徐々に薬物をやめるようになったという。
 彼は今、断薬をして5年。依存症者よりも先に家族が支援を探し求め、家族教室につながったことで当事者が回復していったケースだ。これは、夫が飲み続けていたとしても、息子がギャンブルで借金を繰り返していたとしても、「家族のゴールは、自分の人生を取り戻すこと」を意味している。
 依存症者が仲間を必要とするのと同じように、家族も仲間の中で、ともに正しい対応方法を学び、自分自身の人生を歩んでほしい。なぜなら、依存症は家族が依存症者本人を変えることを手放したとき初めて、当の本人が変わり出すという、いじわるな病だからだ。
(上原拓未、レジリエンスラボ代表、精神保健福祉士)

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