「確定拠出年金・つみたてNISA・現金のバランスが知りたい」、資産形成のプロのアドバイスは?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、32歳、会社員の男性。転職先の社員持ち株制度を活用して資産形成していきたいと考えている相談者。確定拠出年金・つみたてNISA・現金との配分のバランスが知りたいといいます。個人が参考にできる指標とは? FPの高山一惠氏がお答えします。

転職に伴い、資産形成の振り分けバランスを相談させてください。

新しい勤め先では社員持株制度の奨励金が15%もあるため、活用したいと考えています。毎月の購入可能金額は基本給の10%までなので最大2万6,000円です。1.5〜2年で単元数100株が貯まりそうで、そのつど引き出して売却するつもりです。

また確定拠出年金も2万6,000円積み立てようかと考えています。さらに、つみたてNISAを継続しているため毎月3万円です。これら積み立て系の引き出せない資産形成を全て行うと、現金で貯金をする余裕がほぼありません。この点に若干の不安を感じます。

家計簿アプリを活用して記録をつけてきたおかげで、家計支出の予測精度は格段に上がりました。今回の転職では、引越しによる生活パターンの変化を織り込んで食費と光熱費に余裕を見ているのと、残業代が1.5万円ほど見込まれるので、赤字にはならずに積立ができると踏んでいます。ただ、余裕の少ない計画に少々不安を感じてもいます。

社員持株・確定拠出年金・つみたてNISA・現金および他の投資の、優先順位とバランスのアドバイスを頂きたいです。

【プロフィール】

・男性、32歳、会社員、独身

・住居の形態:賃貸(神奈川県)

・毎月の世帯の手取り金額:基本給26万円(税引前、残業代別、通勤費等後日精算)

・年間の世帯の手取りボーナス額:転職直後のため不明。2カ月分程度年2回の見込み

・毎月の世帯の支出の目安:13万4,000円(4月以降の予算)

【毎月の支出の内訳】

・住居費:3万円

・食費:2万円

・水道光熱費:2万5,000円

・保険料:3,000円

・通信費:5,000円

・車両費:1万円(駐車場・ガソリン込、税金・保険・車検抜き)

・お小遣い:3万円

・その他:1万1,000円(日用品、交際費、衣類、医療費など)

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:不定(ボーナス等も含めて余裕ができたら10万円単位で証券口座に移動)

・現在の貯蓄総額:60万円

・現在の投資総額:360万円

・現在の負債総額:0


高山:ご相談ありがとうございます。既につみたてNISAも始めていらっしゃって、将来に向けて資産形成に意欲的ですね。転職をきっかけに資産配分などを考えたいとのこと。一般の方が資産運用をする上での基本的な考え方をお伝えしつつ、どのように配分するのが良いのか考えてみましょう。

生活費の6カ月分〜1年分の預貯金の確保を

現在、ご相談者さんの計画通りに投資を行おうとすると、ご相談者さんの懸念通り、貯金する余裕がなくなってしまいますね。

病気やケガ、リストラなどのアクシデントに見舞われたときにも当面心配せずに生活でき、かつ、アクシデントだけでなく、会社を休んで資格を取りたい、留学したいと前向きな決断ができる貯蓄額として、生活費の6カ月分から1年分預貯金で確保しておきたいところです。

今回コロナの影響で、家計が苦しくなってしまった方たちをたくさん見てきましたが、今後、コロナ禍のような、先行きが不透明なことが起こっても、貯金があるのとないのとでは不安の度合いが変わるでしょう。貯金があれば、仕事がなくなったり、転職を考えたりした時に、就職活動の時間を十分に取れるようになるので、職業選択の幅を狭める必要がなくなります。

また、積極的に資産運用をするのは良いのですが、資産運用は元本の保障がありません。増える可能性もあれば、減る可能性もあります。もしも貯蓄が十分にない状態で、運用資産が減ってしまっている時にアクシデントに見舞われてしまったら、せっかくの資産を減っている状態で売却しなければならなくなってしまいます。

ですから、生活費の6カ月分〜1年分程度、ご相談者さんの場合は、1カ月の生活費を15万円程度とすると、90〜120万円程度は預貯金で確保しましょう。

投資は、iDeCo、つみたてNISAを優先!

では、上記を踏まえてどの金融商品にどのくらい積み立てをすれば良いのかですが、そもそもご相談者さんが毎月どれくらい貯蓄できるのかを考えます。

現在の家計を拝見すると、家計簿アプリの活用の成果もあり、無駄遣いせずに、堅実に暮らしていらっしゃると思います。残業代が支給されるかどうかによっても手取収入は変わってくると思いますが、仮に手取り金額を20〜21万円程度と仮定すると、毎月積立に回せる金額は、7〜8万円ということになります。

資産運用を考える際、優先したいのが、iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)とつみたてNISAです。というのも、運用益に対して約20%の税金はかからずに済みますので、効率よくお金を増やすことができますし、iDeCoは掛け金の全額が所得控除となり、所得税・住民税が減るからです。

ご相談者さんの場合、iDeCoを上限金額までやろうとすると、毎月の積立金額は2万3,000円(企業年金のない会社員の上限金額)です。つみたてNISAは、毎月3万円を積み立てる予定とのこと。となると、iDeCoとつみたてNISAでの毎月の積立金額の合計は5万3,000円となります。iDeCoは、現状、基本的には60歳まで資金を引き出すことはできませんが、つみたてNISAはいつでも引き出すことができるので、組み合わせて運用するとバランスが取れます。

従業員持株制度をどのくらい活用するべき?

その他、従業員持株制度を利用したいとのこと。確かに、会社が株式の購入金額の15%を奨励金として補助してくれるのは魅力ですね。ただし、会社の業績が下がれば株価も下がり、損失が出ることになります。さらに、万が一、会社が倒産したら仕事も資産も同時に失うことになりかねません。また、売却に時間や手間もかかります。ですから、個人的には、持株制度を利用するにしても1万円程度と、少ない金額で利用するのが良いのではないかと思います。

ご相談者さんのライフプランなどの詳細な情報がわからないので、今回いただいた情報のみから判断した提案となりますが、毎月貯蓄に1万円、iDeCoに2万3,000円、つみたてNISAに3万円、持株制度に1万円の配分くらいがちょうど良いのではないかと思います。
ただし、投資商品への積立の比率が多いので、貯蓄の比率を上げることと、臨時出費への備えとして、ボーナスが出たら、半分は貯蓄に回したいところです。

守りつつ増やす「コア・サテライト」戦略の実践を

最後に一般の方が資産運用を考える際の基本的な考え方をお話したいと思います。

資産運用する際には、さまざまな商品で運用すると思いますが、資産全体のポートフォリオを考える際に有効なのが「コア・サテライト戦略」です。機関投資家と呼ばれる銀行や保険会社などが用いる手法ですが、個人でも応用が可能です。

コア・サテライト戦略は、運用資産全体を「コア」と「サテライト」に分け、それぞれの運用商品を変える戦略です。

運用資産の7~9割、大部分はコア資産にします。コア資産は価格変動の少ない安定的な商品で構成します。投資信託ではインデックス型やバランス型のものが該当します。投資信託は、税制優遇の恩恵も享受できる、iDeCo、つみたてNISAを積極的に活用していきたいところです。また、現金、普通預金、定期預金、国内債券、純金積立、不動産投資などもコアに入ります。

それに対し、運用資産の1~3割はサテライト資産です。こちらは多少冒険できる商品を組み入れていきます。投資信託ならアクティブ型が該当します。その他、国内外の株式、FX(外国為替証拠金取引)、暗号資産(仮想通貨)、ソーシャルレンディングなどもあっても良いかもしれません。コア資産の部分で安定運用しているので、サテライト資産では楽しみながら、プラスアルファのリターンを狙った投資をするというスタンスでOKです。コア部分で安定運用をしながら、コア・サテライト部分で大きく増やすことが期待できます。

今回お話しさせていただいたコア・サテライト戦略も参考に、将来の資産形成についてぜひ検討してみてくださいね。

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