九州では福岡県に次いで2番目に私立高校が多い長崎県(22校、通信制を除く)。少子化や中学生の県外流出もあり、各校は特色を打ち出しながら、生徒数確保やブランド向上に努めている。スポーツの分野でも都市部に負けない実力や人材の育成を進めようと、新たに専門コースを設けた私立校も相次ぐ。特に大きな動きを見せる学校に焦点を当て、現状や展望を探った。
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長崎市の瓊浦高は普通科の体育総合コースが設立4年目を迎えた。週2回、午後は実技授業に取り組むバドミントン部員をはじめ、運動部の主力となる生徒が各学年に約40人在籍。実力者が1クラスにまとまった「日本一を目指すコース」として躍進を続けている。
昨季は男子バドミントンで日本一ペアが誕生したほか、男子ハンドボールは国内最高レベルの日本選手権に出場して大学生チームを撃破。この二つの部を筆頭に県内上位の運動部が数多くある。本年度は「もう1クラスつくろうと思えばつくれた」ほどで、問い合わせが相次いでいるという。
「トップアスリートをつくりたかった。各クラブの優秀な子を集めるワクワク感があった」。男子バドミントン部監督の林貴昭(48)はコース設立時を振り返る。部活だけではなく、学業や生活面でも他競技の生徒と競い、協力し合う雰囲気が教室内外で出来上がり、専門授業では体づくりから栄養、メンタル面まで豊富な知識を養う。
□特色を出す
同コースを担当する教諭の結束も固い。各競技の指導に行き詰まった際は互いの練習場に足を運び、授業では細かなカリキュラムを基に他競技の生徒が強くなるために全力を傾ける。男子ハンドボール部監督の末岡政広(53)のクラスで、今春の全国高校選抜バドミントン大会個人シングルスで準優勝した田中市之介(18)は、その象徴的な存在だった。
林が強調するのは、末岡が担当するメンタル面。バドミントン以外の映像も活用しながら、入念に精神面を鍛えてもらった。林が「現地でも悪いことを忘れさせるクリアリングを実践して、うまくコントロールできた」と言えば、末岡は「日常生活から与えられた課題もしっかりこなす。今回の結果も別に不思議じゃない」と言う。
最近は公立をはじめとする中学、高校の教職員が、専門外の部活の顧問を受け持つ現状や働き方改革も議論に上がる。少子化が進む地方でトップアスリートを育てるという点では難しい課題だ。だが、だからこそ、末岡は各校の特色の必要性を説く。「生徒たちはそこでしか学べないと思って来てくれている」
□受け皿不足
競技によっては県外の大学に進んだ後も「ふるさと選手」として長崎代表で国体に出場したり、教諭になって長崎へのUターンを希望したりする卒業生も多い。「それは大きな活力になるし、県のレベルアップにもつながる。(教え子が指導者で戻ってきたら)うれしいライバル。可能性は十分にある」。林はそんな好循環も楽しみに待っている。
一方で長崎はジュニア育成が盛んな半面、都市部に比べて大学や企業のスポーツでの受け皿が少なく、成年種別で苦戦している現状もある。自らも社会人までトップレベルで活躍してきた末岡や林は、もう一つ、夢を描いている。
「若者の県外流出を考えるならば、県内トップ企業が一つずつ競技を選んで、実業団チームをつくってくれないかな…」
(敬称略)