メダルラッシュならず 空手・組手勢が「銅1個」にとどまった〝三つの理由〟

予選敗退に終わった植草歩

【東京五輪 祭典の舞台裏(2)】まさかの結末に終わった理由とは――。東京五輪で初採用となった空手競技は、メダルラッシュを期待されながら、組手は男女合わせて6階級のうち男子75キロ超級の荒賀龍太郎(30=荒賀道場)の銅メダル1個にとどまった。形は男子・喜友名諒(31=劉衛流龍鳳会)が金メダル、女子・清水希容(27=ミキハウス)が銀メダルに輝いた一方で組手勢が苦戦を強いられた裏には、海外の選手たちとの明確な差が隠されていた。

全日本空手道連盟(全空連)は「金メダル3個」を一つの目標としていた中、2016年世界選手権覇者で女子61キロ超級の植草歩(29=JAL)ら組手勢に関しては世界の実力を痛感する結果となった。

宇佐美里香強化委員長は「海外の選手は闘争心や躍動感、何が何でも勝ちたいって気持ちが伝わってきた。海外の選手の方が厳しい練習をしてきたのではと思えた。そういうものが結果に表れた。私自身、責任を感じている」と肩を落としたが、不発に終わった原因はどこにあるのか。空手関係者からは〝三つの理由〟を指摘する声が目立つ。

一つ目は精神面の差だ。ある空手指導者は「海外の選手は、メダルを取って国に帰ったら英雄。生活も保障される。しかも、パリ五輪では空手がなく、一生に一度のチャンスだから命がけで戦いにくる。なのに日本の選手は自信のなさが顔に出ていたし、緊張して顔が真っ赤になっていた。でも、それは厳しい練習を経て超越しないといけなかった」と振り返った上で「監督、コーチ陣に厳しい人がいなかった。ビシッと言える人がいなかった」と苦言を呈した。

二つ目はチーム力の欠如。同じ格闘技の柔道やレスリングは、東京五輪前に代表選手らによる全体合宿を敢行したが、全空連は選手個々による拠点合宿を行うのみだった。元日本代表選手は「柔道やレスリングは全体合宿をやって素晴らしい結果を出したが、空手は一致団結して一丸となる雰囲気がなかった。試合は個人でするが、全空連、日本を代表しているチームとしての団体意識がなかった」と顔をしかめた。

最後は海外選手との対戦不足だ。日本は新型コロナウイルス感染対策として、ほとんど海外遠征を実施しなかった。ある空手関係者は「欧州ではコロナ禍でも大会や練習をしていた。海外のコーチからは『日本は守りに入っていたように感じた』との意見もあった。他国に情報を探られないように気を使いすぎたのでは」と指摘。情報戦も大事だが、ある海外選手は「ここ数年、空手の進化の速さを考えると情報を取りにいかないとトップ争いには絡めない」と断言したほどだ。

パリ五輪で空手は採用されないだけに、今後の競技普及などを踏まえると東京五輪惨敗は大きな痛手となってしまった。

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