初の告白フォトエッセイが話題! 中山咲月さん『無性愛』発売記念インタビュー前編

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『仮面ライダーゼロワン』の亡役であり、モデルとしても活躍する中山咲月さんが9月17日に初のフォトエッセイ『無性愛』を発売。
トランスジェンダーであり、他者に対して恋愛感情や性的欲求を持たないセクシュアリティ「無性愛者(アセクシュアル)」であることを告白した本書の出版に至った胸の内に迫ります!

――中山さんご自身が、「自分は無性愛者だ」と感じるようになったのはいつ頃のことでしょうか?

明確なきっかけは覚えていないのですが、漠然と感じていたのは、本当に小さい頃からだと思います。
学生時代に友達と話していると、恋愛の話題って絶対に出てきますよね。「誰が好きなの?」とか「どういう人が好きなの?」とか、絶対に聞かれる。
小学生から中学生ぐらいの頃は、まだ自分の心も成長していなかったので、無性愛者だと気づいていなくて。そういった質問をされた時も、周りに合わせてなんとなく適当に答えてしまっていたんです。

高校生になってからは、お付き合いをする機会もあったのですが、それは好きだったからではなく、告白されて断れずに付き合ったというか……断る理由がなかったので、という感じでした。
でも、付き合ってはみたものの、心ここにあらずで……。普通、付き合っている相手とスキンシップをする時って、ドキドキしたり、楽しい、嬉しいという気持ちになったりすると思うのですが、自分はなにも感じなかったんです。
手を繋ぐとかも、感情が揺れることなく普通にできてしまう。恋心というか、ときめきを感じない。そこでやっと、「あれ?なんか自分おかしいな」と思うようになりました。

――お付き合いを経験したことで、自分の中の違和感にしっかり気づけたということなのですね。

そうですね。それまでも、例えば少女漫画とかは読んでいたので、恋愛というものを第三者の視点では楽しんで見ていました。でも、いざ自分が当事者になった時に、「これまで自分が見てきた恋愛ができないな」と気づいて。
相手からもらっている恋愛感情を、同じ気持ちで返せない自分が申し訳なくなり、結局、お付き合いは終わりました。その後、人から恋愛感情を告白されると、恐怖心が生まれるようになってしまったんです。
好意を寄せられているのに、なんで怖いのか自分でも理解できなくて……。「恋愛 怖い」などで検索して調べた結果、無性愛という言葉にたどり着きました。

――その恐怖心というのは、自分自身に対して恋愛感情や精的欲求を向けられることが怖かったのでしょうか?それとも、同じ気持ちを返せないことや、その気持ちを理解できないという怖さだったのでしょうか。

理解できないという恐怖ですね。わからないものって、やっぱり怖いじゃないですか。それと同じ感情だったんだと思います。
お化け屋敷に入っている状態じゃないですが、どこからなにがくるかわからない恐怖心みたいなものに近かったと思います。

――自分が感じていた違和感は、無性愛というものなのだ、とわかった時の気持ちはどうでしたか?

自分でも理解できなかった感情に名前がついたことで、居場所を見つけたというか、自分と同じ人がいるという安心感を感じましたね。同時に、無性愛を知ったことで、「自分の中に恋心というものはない」ということがはっきりとわかりました。

――恋愛感情はなくても、親愛の情などはあるのでしょうか?

友達に対しての親愛とか、家族愛はあります。告白していただいた人とお付き合いした時も、その人に対しての愛情はあるんですよ。でもやっぱり、恋愛感情を向けられると、どうしてもダメで……。
正直な話、行為や接触は我慢できるんです。もう無機質ですけど、ある程度は感情がなくてもできる。でも感情的な部分が…。「私のこと好き?」と聞かれるのが一番つらかったですね。嘘をついて答えるしかなかったので。
でも嘘をついてしまう自分も嫌で、感情を偽るしかない関係もつらくて。なので、「このままお付き合いしていたら嫌いになってしまうかもしれない」「あなたのことを嫌いになりたくない」と伝えて、お別れしましたね。

――お相手の方もその時はとてもつらかったと思いますけども、それを伝える中山さんもつらかったということがよくわかります。こういったことは、無性愛者であることの苦しみとも言えると思いますが、逆に、無性愛者でよかったなと感じることはありますか?

ありますね! 自分が恋愛感情を持てないからなのか、誰か人と会う時に、相手のことを男性や女性として認識しません。男性だからこう接しようとか、女性だからこう接しよう、ということができない。性というものを意識できないんです。
だからこそ、その人のことを一人の人間として先入観なく見られるので、その人が持っている良いところが、すごくわかるんですよね。だからなのか、昔から相談相手に選ばれやすいです(笑)。

――なるほど。男性はこうだ、女性はこうだ、というフィルターがないのですね。バイアスがかかっていないというか。

そうなんだと思います。例えば男性から、「好きな人が男性で」という相談をされても、「へぇ、そうなんだね」と普通に聞けちゃうんです。普通だったら男性は女性を好きになるものだ、という気持ちもないので。
相談してきた人から、「普通そういう反応しないんだよ」って言われちゃうくらい(笑)。いい意味でフィルターがないんだと思います。
「相談した時に良いアドバイスをしてくれる」と周りから結構言われるんですけど、それはもしかしたら、男性だから女性だからということではない視点で、冷静にアドバイスできるからなのかもしれません。恋愛でも、最終的に大事なのは性別ではなく、人間性ですもんね。

――確かにそれは、お友達からしてもすごく頼りになる相談相手ですね!

結構自分、役に立っているんじゃないかな?と思ったりしますね(笑)。

――無性愛者である中山さんは、異性愛や同性愛・両性愛でいうところの“パートナー”という存在は必要とはしていないのでしょうか?

パートナーとなると、代表的なものだと「結婚」という形ですよね。実は、結婚自体には、少し前向きなんです。
というのも、以前、仲の良い友達が病気になった時、結婚のような法的な繋がりがないと不便だろうなと考えた時期があって。例えば、入院時に親族しかサインできないとか。
そういった不便さを実感した時、恋愛感情がなくても、結婚はしてもいいものなんじゃないかと考えたんですよ。支え合っていくための結婚って、いいんじゃないかなと思って。

以前、『スーパーフラットライフ』という舞台に出させていただいたんですけど、結婚がテーマだけど、恋愛の話じゃなかったんです。そういった題材の舞台に出させてもらった時にも、すごく考えさせられて。
法律で縛ることによって生まれる良い関係性があると知ったことで、自分も恋愛感情を人に抱けないけど、結婚はそんなに遠い話じゃないのかもなって思えましたね。自分も、結婚してもいいんじゃないかなって。
相手が自分に合う人だったら、結婚したらいいんじゃないかって思いますね。

――恋愛関係の延長線にある結婚ではなくて、病気の時などにお互いを支え合う、セーフティネットという意味での結婚ということですね。法律制度としての結婚を使用する、という意味合いの。

そうですね。でも、それってつまりは、自分にとっては家族愛なんだろうなって思うんですよね。
この人と家族になりたいと思える、家族愛を抱ける相手と結婚するということ。その気持ちがもし一般的な家族愛とは違うとしたら、もしかしたらその気持ちこそが、自分にとっての恋愛感情なのかもしれないです。
世間一般の恋愛感情とは違うとは思いますが。

――確かに、生まれながらの家族ではない全くの他人に対して、「この人と家族になりたい」と思うのは、大きな愛情が発生している状態ですもんね。そういう相手が見つかること自体、特別なことですよね。

そうだと思います。

――「世界人口の、なんと1%が無性愛者に当てはまる」といった論文もみられるほど、人口としては多いはずの無性愛者。もしかしたら、この記事を読んでいる読者の周りにも、公言していない、もしくは気づいていないだけで、無性愛者がいるかもしれません。もし、好きになった人が無性愛者だった場合、一体どういう態度や言葉をとればいいのか、どういう気持ちで割り切ればいいのか、悩んでしまう人もいると思います。中山さんの経験などから、そういった場合へのアドバイスはありますか?

無性愛者にもいろいろな人がいると思うのですが、自分は多分、結構重症な方で……。
軽度であれば、世間体に合わせて普通に恋愛できる方もいるみたいなんですよね。なので、その場合はわからないですが、あくまで自分の場合で言うと……。
告白をされて、お断りをした時、「好きでいさせて欲しい」と言われたことはけっこうあります。でも、自分はその状態も、つらかったんですよね。恋愛感情を向けられても、同じ気持ちを返せない。そのこと自体が苦しい。

どうしてもと言われたら、相手に合わせることもできないわけではないけれど、自分に嘘をつくことも、嘘の気持ちを相手に渡すこともつらくて。だから自分は、「返せないのにずっと好きでいいの?」と伝えています。
やっぱり、好きになってもらえないのに、ずっと好きでいるなんて、相手にとってもつらいことじゃないですか。お互いにつらくてメリットがない。
だから、厳しいことを言うようだけど、好きになった相手が無性愛者だったら、きっぱり諦めた方が絶対にいいと思います。どっちも幸せになれないし、どちらも我慢する恋愛は健全じゃないですよね。

「恋」は一方的な思いだけど、「愛」は相手を思いやることだと思うんです。相手のことが本当に大切で、愛情を持っているなら、諦めた方がいい。
これは自分にも経験があるのですが、「お互いが幸せになれないから、時間がかかるかもしれないけど、その気持ちは沈静させた方がいい」と伝えた時に、ちゃんと諦めてくれる人って、本当にすごくいい人だし、自分にとっても本当に貴重な人になるんですよ。だから、諦めさせちゃったけど、ゆくゆくは親友になれたりするんです。

――確かに、恋だけじゃなく、根っこに愛があったからこそ、中山さんを思いやって諦めてくれたわけですもんね。時間が経って恋がなくなっても、愛は無くならないから、親愛で結ばれる関係になれる。それはすごく素敵ですね。

はい、そういう気持ちで繋がれるのは、本当に嬉しいです。

写真/高野友也
動画制作/Lee
文/大久保亜季乃

★インタビュー後編はこちら

初のフォトエッセイ『無性愛』
中山咲月 著
2021年9月17日発売

Amazon限定カバーver.

発売記念【オンライン/対面】個別トーク会開催!

オンライン 2021年9月17日(金)HMV&BOOKS online
大阪 2021年9月18日(土) HMV&BOOKS SHINSAIBASHI ※延期いたします
東京 2021年9月19日(日) HMV&BOOKS SHIBUYA

詳細はこちらをご確認ください。
※緊急事態宣言の解除によりイベント開催予定となりますが、
国などの行政機関からの要請に準じて延期、または中止になる場合もございます。予めご了承ください。

中山咲月(なかやま・さつき)

1998年9月17日生まれ、東京都出身。モデル・俳優。
13歳でモデルデビュー、雑誌や広告で活躍。俳優として初出演した「中学聖日記」のジェンダーレスな役が話題に。2020年には「仮面ライダー ゼロワン」亡役に抜擢。2021年、日本の結婚観に一石を投じたオンライン演劇『スーパーフラットライフ』に出演し話題に。

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