〈朝鮮経済トレンドウォッチ 7〉社会主義の復元と管理方法の刷新 経済管理改善の今

社会主義の優位性は、自由競争による労働と資源の恒常的な浪費から免れることのできない資本主義生産の無政府性を克服して、社会的労働と経済資源を計画的に、効率的に活用することのできる社会経済的条件が備わっているところにある。

しかしこの優位性は自ずと発揮されるのではない。社会主義経済を建設しその優位性を発揚させる過程は、社会主義制度の本質的要求と各段階の経済状況に応じて、最適な経済事業体系(=経済運営システム)と企業管理方法を見出し不断に完成させて行く過程である。

金正恩総書記が朝鮮労働党第8回大会の結論で述べたつぎの言葉は経済管理問題がいかに重要かを物語っている。「新たな国家経済発展5カ年計画遂行の成敗は、経済管理をいかに改善するかにかかっています」

責任管理制と担当責任制

朝鮮式経済管理方法の完成を目指す現行方針のもとで2010年代の半ばから本格的な導入の段階を迎えたのが責任管理制と担当責任制である。

社会主義企業責任管理制とは、工場、企業所、協同団体が生産手段の社会的所有にもとづいて実質的な経営権を保持し創意をもって企業活動を展開して、国家にたいして担っている任務を遂行し、勤労者に生産と管理における主人としての責任と役割を全うさせる企業管理方法である、と定義されている。

1947年から実施されてきた独立採算制における経営上の相対的独自性ではなく、実質的な経営権を企業に与えたことが責任管理制のポイントである。

「企業法(2015年5月修正補充)」の31~39条によると実際の経営権の内容には、計画権、生産組織権、管理機構および労力調整権、製品開発権、品質管理権、人材管理権、貿易および合弁・合作権、財政管理権、価格制定権と販売権がある。

実際の経営権がどのように行使されているのか見てみよう。

企業は政府機関から示達される計画(国家指標)を実行するほかに、自ら計画(企業所指標)を立案して実行することができるようになった。企業所指標の計画は、国からの供給によってではなく、自らの責任で資金を調達し、他の企業との独自の契約(注文契約)で資材を調達することによって実行されるのが通常である。

また、注文契約によって資材を調達する場合は、価格決定権を行使して、国定価格ではなく双方が協議して定めた価格(合議価格)でやり取りされることが多い。

企業所指標の計画を達成して獲得した利益の国家納付率は低く設定されていて、一定の利益を資金の調達先に還元したのち企業に留保され、財政管理権を行使して新規の設備投資や従業員の福利厚生等に自らの決断で振り向けることができる。

いまだにあらゆるものが足りていない朝鮮経済の現状下で企業に付与されたこのような権限は、創意と工夫をこらして生産を正常化させ企業経営を再興するうえで応分の役割を果たしている。

製品開発権を付与したことによって従業員参加の新製品開発が盛んになった

責任管理制が事業所に経営上の権限と責任を付与する制度であるのに対して、担当責任制は、小集団や個人が担当する生産要素(生産ライン、圃田、売場など)の管理と運用の実績を報酬と結びつけることによって効率アップと資源節約を促す制度である。(〔表〕責任管理制と担当責任制を参照)

現在まで圃田担当制をはじめ、号棟担当制(温室農場)、号園担当制(果樹園)、売場担当制(商店)などの存在が確認されている。圃田担当制が的確に実施されれば、分配における悪平等を是正し労働による分配を徹底させることで増産意欲を刺激する役割が十分に期待できることが実証されている。

〔表〕責任管理制と担当責任制

社会主義の復元と刷新

経済管理方法を改善し完成させるための今日の動向をみると、原則的であると同時に先端的でもある。

2019年12月末に開催された朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会では、苦難の時代に導入した過渡的で臨時的な活動方式を、正常な発展を目指している今日に至ってまで踏襲する必要などないとして、国家の統一的指導と戦略的管理機能の復元、内閣責任制・内閣中心制の強化を全面に打ち出した。党第8回大会においても、今年2月の党総会においても、国家の経済指導機能を蔑ろにする本位主義や機関特殊化を厳格に懲罰することが宣言された。

国家の経済運営システムの整備は、かつてのシステムへの単純な復帰を意味するものではない。情報技術を用いて経済の科学的運営をサポートする「国家経済情報システム」の開発が予定されている。内閣を頂点にすべての部門、地域、事業所をひとつのコンピュータネットワークで連結するこのシステムは、経済情報をリアルタイムで収集して総合、加工することが可能で、それにもとづく科学的な経済予測とスピーディーな意思決定情報をもとに経済指導を現場に接近させることができるようになる。このシステムが導入されて正しく活用されるならば、計画経済の面目躍如となるに違いない。

さらに意欲的に、進取的に

一方、社会主義の原則と本態を固守したうえで、学ぶべき管理方法があれば鋭意検討することが推奨されている。

世界各国で企業戦略を策定する際に活用されている「SWOT分析」が労働新聞2015年9月15日付に紹介され、民主朝鮮19年12月29日付には「管理人材育成とMBA教育」と題する記事が掲載されたほか、モトローラが開発してシーメンス、ダイソン、ボルボなどの有名企業も採用している顧客満足度を高めるための管理手法「シックスシグマ(6σ)」が学術誌『計量および規格化』(2020年1号)に紹介された。かつては資本主義企業の経営手法だとしてタブー視されたこれらの手法からも朝鮮の実情に即して適用できるものがないか積極的に物色しているのである。

起業家精神をもって新たな企業経営にチャレンジする人材も育ちつつある。

朝鮮との経済文化交流を20年にわたって行っているシンガポールの団体「朝鮮交流(Choson Exchange)」は、平安南道平城市を拠点に、次代を担う経営幹部を育成するためのスタートアップ講座、国家と地方の経済運営を担う人材向けの地域発展ワークショップなどのプログラムを系統的に実施し、人材の育成と諸外国のビジネスパーソンとの交流等の機会を設けてきた。

これらのプログラムを受講した人数は、この11年間(2010~20年)で延べ2680人にのぼる。参加者の中からは、プログラムを通じて磨きあげたビジネスプランと、そこで培った製品開発やマーケティングなどのノウハウを活かして、恩情茶を栽培、加工、販売する持続可能な経営モデルの創出に成功したものも誕生している。

朝鮮では今、党第8回大会が提示した経済管理改善の重点課題(原価削減と品質向上)の解決に向けて再資源化によるコスト削減や国家の品質管理システムの再整備に取り組んでいる。これまでも、これからも、社会主義の本態を守りつつ時代の発展に即応した最適でフレキシブルな経済管理方法を見出しブラッシュアップして行く過程は、踏襲すべき前例のない前人未到の道のりなのである。

コラム・経済政策まめ知識

経済・企業管理制度のあらまし

「国営企業場管理令(1946年11月30日採択)」によって、朝鮮で最初に採用された企業管理制度は支配人唯一管理制であった。これは、植民地時代に国家経済はおろか企業経営を経験した人材すら非常に稀だったことから、企業の管理権限を支配人に集中させるための措置であった。

社会主義的所有制度の確立(58年8月)は、支配人が単独で管理する企業体制を広範な勤労者が管理する体制に転換させることを要求した。生産手段の所有者になった勤労者大衆を経済管理の実際の主人にすること、これは社会主義経済管理の基本原理である。

1990年代の苦難を経て2001年10月、朝鮮では社会主義原則を堅持しつつ最大の実利を得ることのできる経済管理方法を見出すことを経済管理改善の核心テーマに据えた。

社会主義強国を全面的に建設する現段階を迎え、幾通りもの解釈が可能だった社会主義原則の内容が社会主義的所有と集団主義の2点に集約され、そのうえで科学的かつ実利的な経済管理方法を見出すことが朝鮮式(ウリ式)経済管理方法を改善、完成させるための基本要求に据えられた。

(姜日天・在日本朝鮮社会科学者協会副会長)

※2021年4月脱稿

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