〈朝鮮経済トレンドウォッチ 8〉消費財の国産化・多様化・品質向上 暮らしで実感する経済発展

一国の経済の状況を知るにはGDP(国内総生産)やその成長率などの国内の生産統計から導き出される指標と共に、経営者や消費者の景況感も重要な指標となる。「短観」や「消費者動向調査」などがそうである。人間の「肌感覚」も経済状況を見る科学的な論拠となる。

21世紀に入って以降の朝鮮経済の変化と発展について疑義の目を向ける向きは少なくない。しかし、新型コロナウイルスにより中断せざるを得なかった2019年までの26年間、毎年欠かさず、時には年に複数回、短くて数週間、長ければ数か月の朝鮮滞在を繰り返してきた定点観測者である筆者にとってそれは、自明のことである。ましてや現地の人々にとっては生活の中で実感するリアルな現実であろう。

なぜなら、近年の朝鮮経済の発展と変化は、消費財(食品、衣類等)の国産化と多様化という、人々の生活に密接に関わる面で大きく表れていると思われるからである。

日本のスーパーと見まがうほどの品ぞろえ

国産し好品による輸入品駆逐

2000年代初頭までも店頭に並んでいる消費財の大半は外国製品であった当時、テソンタバコ工場の「金剛山(別名craven)」、大同江ビール工場の「大同江ビール」が発売されるや瞬く間に市場を席巻した。し好品であるタバコや酒類は、美味しさと価格で選ばれる。上記二つの製品は、味は勝り価格は安くと、両方を兼ね備えることで、外国製品に対する「ブランド信仰」を実力で破ったのだ。国産タバコ、酒類による外国製品の市場からの駆逐は消費財の国産化の号砲であった。

当時、安価だが粗悪、あるいは質は良いが高価な輸入消費財に対する人々の不満は大きくなっていた。人々の生活向上への国家的関心の下、消費財生産企業が新設され国内企業が生産するさまざまな商品が市場に出回り始めた。

タバコや酒類に続き、石鹸やシャンプー、歯磨きなどのトイレタリ―、菓子や清涼飲料、インスタント食品などの加工食品、革靴やスニーカーなどの履物類が次々と国内企業で開発・生産され販売されるようになった。それに従い、それらの分野における外国製品は売り場からどんどんと姿を消していった。

日用雑貨売り場にも、食料品売り場にも、衣類売り場にも、靴売り場にも国産ブランドの商品が所狭しと並んでいる様子は今では当たり前になった。

経済管理方法確立が起爆剤

消費財国産化及び多様化は、金正恩総書記の陣頭指揮の下、2012年より取り組みが始まった「ウリ式経済管理方法の確立」への動きによってさらに大きく加速した。企業は、新たに付与された計画権、生産組織権、製品開発権、価格制定権と販売権などの権限を行使し、独自の経営戦略の下で生産を行えるようになったことが起爆剤となった。

今般の消費財の国産化・多様化・品質向上にはいくつかの特徴がある。

それは第一に、複数企業による競争が好循環を生んでいるということである。これまではある分野の生産は、特定企業一社だけが抜きん出た実績を上げる「一強独占」であったが、現在は複数の企業が独自の経営戦略をもって同等に競合する「多強競合」の様相を見せているのである。

加工食品分野を例に挙げてみよう。食糧事情が徐々に安定していく中、主食ではなく菓子やパン、インスタント食品などに対する消費者のニーズは高まっていたが、それらの需要を満たしていたのは外国製品であった。しかし添加物などに対する安心・安全の観点から人々の不信感は少なくなかった。

そのニーズをくみ上げたのが、クムコプ体育人総合食料工場(以下、クムコプ食料工場)、船興食料工場、慶興銀河水食料工場などの新興食品加工企業であった。これらの企業は互いに競い合いながら新製品を開発・販売していった。これまでとの違いがここにある。

複数企業が同様の商品を販売することで、消費者は比較検討して商品を購入できるようになり、それによる企業間の競争は、消費者の細かいニーズに応えるための商品ラインナップの拡充や、品質の向上につながるという好循環を生んだ。ある企業は、毎週新商品開発のための品評会を行い、合格すれば生産ラインに乗せているという。その結果、現在販売されている製品は、チョコレートやキャンディー、ビスケット、ガム、パン、ケーキ、もちなどの菓子やハム、ソーセージなどの食肉加工品、疲労回復などの機能性飲料など30余種、700余品目にものぼる。各々の企業がそのような規模で商品を開発し生産を行っていることを考えると、商品の豊富さがわかろう。

ガム、もちなどの製菓売り場。パッケージデザインも洗練された

それは第二に、製品の品質を保証する制度的な枠組みが整備され、それに沿って生産が行われているということである。現在朝鮮では国際標準化機構(ISO)などの国際認証の取得が奨励されており、店頭に並んでいる食品などのパッケージには、国際規格に準じて制定された国家規格「国規」番号の表示が義務付けられている。現在の朝鮮においては「先質後量」(量より質)がスタンダードになっている。

それは第三に、製品そのものの品質だけでなく、パッケージデザインや広告が洗練されていることである。

例えば、スーパーマーケットの清涼飲料水売り場にずらっと並ぶ数十種のペットボトルを見ると、これが東京なのか平壌なのかわからないほどである。

ほんの10年前の武骨で単調な見栄えとは比べ物にならない、現代的なデザインのパッケージを見ると、人々の生活の彩りも大きく変わったことが実感される。

以上のような消費財の国産化、多様化が大きく進んだもう一つの要因として皮肉にも国連の経済制裁があることは間違いない。西側諸国では経済制裁による輸入制限が経済に大きな悪影響を与えると見通したが、朝鮮はこれを逆手に取り、なかなか進まなかった輸入依存を改める機会として積極的に活用したのである。自力更生のスローガンのもと、資源のリサイクル化などを通じた輸入財の国産化が図られ、消費財の国産化、多様化はさらに進んだ。結局経済制裁は消費の国産化、多様化を強力に進めるもう一つの起爆剤となったのだ。国連制裁が経済封鎖水準までに至った2018年以降も、消費財国産化、多様化にはいっそう拍車がかかっていたことは現地を訪問すれば誰もが確認できた事実である。。

消費財の国産化・多様化により、経済の変化・発展を肌で感じている人々にとって、昨日よりも良い今日、そしてより良い明日に対する希望と信頼は揺るぎないものとして刻まれているのだ。

コラム・経済政策まめ知識

国際認証取得で、ブランド価値上昇

現在朝鮮では、国内規格である「国規」取得とは別に、国際標準化機構(ISO)などの国際認証規格を取得する企業も少なくない。例えば本文中のクムコプ食料工場や国酒である「平壌酒」を生産している大同江食料工場は食品安全管理を実践するためのマネジメントシステム規格であるISO22000を取得しており、商品やサービスの品質向上を目的とした品質マネジメントシステム規格であるISO9001を取得している企業も大同江ビール工場をはじめ複数ある。

また、自社製品の商標をWIPO(世界知的所有権機関)に登録している企業も少なくない。現在「クムコプ」(食品)、「メボンサン」(靴)、「白鶴」(衛生用品)「ミンドゥルレ」(文房具)などを含む60余の企業が自社の商標を登録している。

WIPOに登録された商標の一部

クムコプ食料工場の副支配人は、近い将来海外進出を実現するためにも国際規格取得は必須であったと述べていた。

まさに、足は自国の地に据え、目は世界に向けているのである。

(朴在勲・株式会社コリアメディア企画研究部長)

※2021年5月脱稿

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