衆院選2021 世界の投票所から学ぶ投票しやすい環境づくりのヒント(原口和徳)

衆議院議員総選挙は31日に投開票日を迎えます。

総選挙の投票率は前々回(52.66%)が戦後最低、前回(53.68%)が戦後2番目に低い水準となるなど、投票に参加しない有権者が増加しています。また、投票率の向上に向けては、インターネットによる投票の導入などの投票環境改善に関する提言を目にすることもあります。

世界を見渡してみると投票環境についても様々な違いがあります。日本よりも投票率の高い国々の取り組みや特色ある制度を参考に、投票しやすい環境作りのヒントを探ってみましょう。

(投票率は民主主義・選挙支援国際研究所(The International Institute for Democracy and Electoral Assistance)のデータを参照しています。また、有権者登録制度のある国の投票率は投票年齢人口を母数とした投票率を採用しています)

郵便投票

アメリカ大統領選挙(投票率62.36%。2020年)やイギリス総選挙(62.04%。2019年)では、郵便投票が広く用いられています。

アメリカ大統領選挙では全投票の内43.1%が郵便投票で行われており、最も多く使用された投票手段となりました。また、イギリス総選挙では、全投票の内22%程が郵便投票となっています。

なお、郵便投票は新型コロナウィルス感染症対策としても活用されています。

アメリカでは、前回大統領選挙(2016年)や中間選挙(2018年)において、投票総数の中で郵便投票が占める割合は25%弱でしたので、投票総数に占める割合が20%も上昇しています。また、オランダ総選挙(74.92%。2021年)では70歳以上の有権者に郵便投票を行うことが認められました。

図表1_アメリカでの投票方法の利用状況

日本では東京都議会議員選挙(7月)に間に合わせるタイミングで新型コロナウィルス感染者の方が郵便投票を実施できるようになったことが注目を集めましたが、郵便投票は各国で一般的な投票手段となっています。

投票所の設置場所

投票所の設置場所についても工夫されています。

イギリスではレストラン(14か所)、サッカーやラグビーのスタジアムといったスポーツ施設への設置(250)、大学(140)、病院(10)などへの設置が行われています。また、期日前投票でインターネットを用いた投票をすることができることで有名なエストニア(56.45%。2019年)もショッピングモールなどに投票所が設けられることがあります。

日本でも期日前投票所を大学や商業施設に設置する事例が増えてきていますが、他の用事と一緒に投票できる環境を増やしていくことで、投票のために出かけることの負担を減らしていくことが期待されます。

また、投票所の近くに屋台を出すなどして、投票をイベント化してしまうことも考えられます。

日本では投票所は数多くあるものの、公共施設の一角に設けられることも多く、コンビニエンスストアなどと比べると目に付きにくい状況です。屋台などが人を集めることで、おのずと目に付くことになりますし、オーストラリア(80.79%。2019年)のようにボランティアによって投票所でサンドイッチが振る舞われることが定着し、時の首相が「オーストラリアの民主主義はソーセージのジュージュー焼けるにおいがなければ成り立たない」と自国の特徴的な文化として紹介している事例もあります。

子どもたちの活躍

投票所では子どもたちも活躍しています。

日本でも、高校生がボランティアスタッフとして投票事務に参加することがありますが、アメリカでは有償スタッフとして選挙権をもたない高校生が投票所の運営に参加する制度化された仕組みがあります。

例えば、ロサンゼルスでは、研修と投票所の運営(3日間まで)で最大380ドルなどの対価を得ながら投票所の運営などに参加します。また、これらの活動は進学時の学生の対外的なアピールにも活用されます。

キューバ(80.82%。2018年)ではもっと小さな子どもたちも活躍しています。

5年に一度行われる総選挙では、小学校4年生から中学3年生までの子どもたちがスタッフとして投票所の運営に参加し、投票所での案内などにあたっています。

なかでも、投票箱の脇に二人ずつ立ち、有権者が投票用紙を入れると「投票しました」と不正がなく投票されたことを報告する活動を行っていることは特徴的です。

また、実際の選挙とは異なってしまいますが、コスタリカ(59.92%。2018年)では子どもたちが大規模な模擬選挙を投票所の運営も含めて実施しています。

18歳選挙権の導入に前後して、日本でも主権者意識を涵養するために投票所に子どもを同伴することが案内されるようになりましたが、「公正な選挙の実現の一端を担っている」といった自覚をもつことのできる経験をすることも、より強く有権者の責務としての「投票」を考えるきっかけとなりそうです。

インターネットを用いた投票

インターネットを用いた投票に関心のある方もいるかと思います。

インターネットを用いた投票を全国規模で導入している国はエストニアしかなく、導入を検討、試行したものの撤退せざるをえなかった国の方が多い状況にあります。新型コロナウィルスをめぐる対応でも、デジタル化の遅れやシステムの不備が多数指摘されている日本の状況では、インターネットを用いた投票を実施したくても「日本よりも社会のデジタル化が進んでいる国々ができないことを日本が実現できるのか」と思われる方が多い状況かもしれません。

可能性がある取り組みとしては、在外投票に限って導入してみることが考えられます。在外投票を対象としてインターネットを用いた投票を限定的に行うことは、アメリカやオーストラリアなどでの事例がありますし、実施対象が限られることで考慮・検討すべき事項も限定することができます。

在外投票をめぐっては、「泊りがけでないと投票することができない」「投票用紙の取得、返送に1万円の費用が掛かる」などといった投票のしにくさを報告する事例が多数ある状況です。インターネットを用いた投票には、国外で活躍される方々の「投票する権利」を守ることも期待されます。

投票所投票日の増加

台風などの特殊な事情を覗けば、日本では投票所が混雑することは少なく、受付から投票まで数分で終わることが大半です。しかしながら、新型コロナウィルスの影響もあり、今回の総選挙では期日前投票所が混雑している様子が複数報じられています。

オランダでは、投票所での密が発生するのを防ぐために投票日を1日間から3日間に増やす対策を講じられました。

新型コロナウィルスの影響で期日前投票数が増える事象は他国でも見られています。アメリカでは総投票数に占める期日前投票の割合が1.4倍に増加しています。

投票所の開設期間を増やすことはコストの増加につながりますが、期日前投票のさらなる利用者数の増加などを見越した対策が求められます。

withコロナ時代の投票環境整備

来年には参議院議員通常選挙が予定されているように、これからも選挙は各地で行われていきます。

withコロナの中では投票率の向上に加えて、安全に投票できる環境の提供も求められます。既に様々な取組み、工夫が講じられていますが、各国の事例も参考に、より投票しやすい環境づくりが進むことが期待されます。

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