注目の労使交渉 MLB機構側がfWARに基づく年俸の支払いを提案か

「ジ・アスレチック」によると、メジャーリーグ機構は選手会との労使交渉のなかで、年俸調停制度の廃止に向けて新たな提案を行ったようだ。29.5歳でFA資格を得ること、年俸調停制度を廃止することなど、大筋の内容は今年8月に提案されたものから変わっていないが、今回の提案では「FA資格を得る前の選手の年俸を総合指標WARに基づいて計算すること」が加えられたという。WARには複数の種類があるものの、メジャーリーグ機構はデータサイト「ファングラフス」が算出する通称「fWAR」を使用することを提案したようだ。

特定のウェブサイトが選手の年俸に対して直接大きな影響を与えるのは極めて異例のことと言える。メジャーリーグ機構の提案では、単年のWARだけでなく、通算のWARも査定の対象となり、直近のシーズンのWARが重視されるような仕組みになるという。また、3年以上、4年以上、5年以上など、メジャー在籍期間も年俸決定の際に考慮する要素となるようだ。しかし、WARの計算方法は適宜アップデートされているため、選手会は「球団によってWARの値が操作される可能性がある」とこの提案に難色を示し、ある代理人は「この提案が採用される可能性はゼロだ」と話している。

簡潔に言うと、年俸査定にWARを使用することで、評価が高くなる選手と低くなる選手に偏りが生じてしまう。たとえば、リリーフ投手はWARを稼ぎにくいため、WARに基づいて査定されると不利になる。その一方で、守備によってWARを稼いでいる野手にとっては有利な仕組みとなるだろう。また、「fWAR」では投手は主に奪三振、与四球、被本塁打に基づいて評価されており、打たせて取るタイプの技巧派投手に不利な仕組みとなる可能性が高い。

メジャーリーグ機構は今回の提案について「球団と選手の双方にとって不快な年俸調整制度を廃止するための方法」もしくは「FA前の若手選手の年俸をアップする方法」という大義名分を立てているが、同時に「29.5歳でFA資格を得る」という条件を受け入れさせようとしている。トップクラスの選手は若くしてメジャーデビューし、29.5歳までにFA資格を得るケースが多いため、選手会がこの提案を受け入れる可能性は極めて低いとみられている。

メジャーリーグ機構は「分配」の方法を変えることで若手選手の年俸をアップすることを狙っているが、選手会は若手選手の年俸をアップするために他の選手の利益が損なわれてしまうのでは意味がないと考えている。年俸調整制度以外にも話し合わなければならない項目は山のようにあり、このまま議論が平行線を辿るようであれば、12月上旬からのロックアウトが現実味を帯びてくる。残された時間はあと3週間。タイムリミットは刻一刻と迫っている。

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