【追う!マイ・カナガワ】訪問看護 スタッフの安全どう守る?(上)

女性管理者の仕事道具。血圧計や体温計、パルスオキシメーターを携行し、患者の自宅へ向かう

 埼玉県ふじみ野市の住宅で医師が殺害された立てこもり事件から2カ月。藤沢市の女性看護師(43)から、「事件では現場に医師ら複数の男性が向かっていたが、訪問看護では多くが女性1人で対応しています。不安があるので、ぜひ当事者の声を聞いてほしい」との依頼が「追う! マイ・カナガワ」取材班に寄せられた。取材を進めると、「事件を受けて患者や家族と距離を置こうかと悩んだ」「現場は命の危険と隣り合わせ」などと業界が抱える課題が浮き彫りとなった。

◆埼玉の事件に背筋凍る
 
 「事件のニュースを見て、思わずひやっとした」。投稿者の看護師から同市内で訪問看護ステーションを運営する女性管理者(57)を紹介された。話を聞くと、事件の状況と自身の体験を重ね合わせ、背筋を凍らせていた。1月27日の事件発生の前日、自らが担当する90代の女性患者が自宅で息を引き取ったのだという。

 女性は認知症が進行し、食事もままならない日が続いた。2人きりで暮らす息子が母の回復を望んだため、「栄養をつけて元気にしてあげたいなら、入院が必要です」と提案したが、息子は「このまま家で見てあげたい。入院はさせないで」とかたくなだった。

 終末期患者の在宅でのみとりでは積極的な治療を施さず、この方針には息子も同意していた。だが、衰弱していく母の様子に心境が変わったか、後日息子からは治療を懇願された。

 「やっぱり入院させたい」「今からでも遅くない。点滴をしてあげて」

 女性管理者は医師とともに「この状況では点滴も難しいです」と説得にあたった。諦めきれない表情のまま息子はうなずいた。女性は2日後に亡くなった。

◆神奈川でも現場に危険性

 埼玉の事件が発生したのは、偶然にもその翌日のことだった。

 ふじみ野市の事件で逮捕された男の母親は訪問診療で数年前から在宅クリニックを利用。1月26日に病死し、男性医師が死亡を確認した。男は翌27日夜に「線香を上げてほしい」とクリニック関係者7人を呼び付けた。

 自宅を訪れた医師に男は「生き返るかもしれない」と心臓マッサージを求め、断られると散弾銃を発砲。男性医師が死亡し、同行した理学療法士も一時重体に。男は「自殺しようと思い、医師やクリニックの人も殺そうと考えた」などと供述したとされる。

 取材班が、県内の訪問看護ステーションを束ねる団体に話を聞くと、現場の危険性が浮かび上がった。

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