【参院選2022×「Z世代」】18歳で立候補は夢物語? 被選挙権の引き下げの是非

時事問題を議論する「社会科学部」の部長ユタカ(17)

 10日投開票の参院選は、選挙で投票できる「選挙権年齢」を18歳以上に引き下げてから5回目の国政選挙となる。

 改正後、2016年の参院選で10代の投票率は46.78%だったが、以後はこの数字を超えず、30~40%台前半と低水準が続く。

 参院選で立憲民主党や公明党などが、現状は衆院議員や市長選などは25歳、参院議員や知事は30歳から立候補できる「被選挙権年齢」の引き下げを公約に掲げる。

 本紙が参院選で政党公認の県内13候補に実施したアンケートでも、引き下げについて与野党を問わずほぼ全員が賛成し、「若者の政治参加を保障する上でも必要」、「海外の事例等も参考に議論を進めるべき」などと前向きな回答が寄せられた。

 韓国では昨年末に国会議員や自治体首長などの被選挙権が25歳以上から18歳以上に引き下げられ、英国でも2006年に下院で18歳以上に引き下げ、15年の総選挙では当時20歳の女子大学生が当選した。ただ、引き下げで若者の関心が政治に向くだろうか─。

◆政治触れやすくなる

 県内の私立高校で、時事問題を議論する「社会科学部」の部長を務める高校2年生のユタカ(17)は「出馬できる回数が増え、今より政治に触れやすくなる」と賛成だ。

 部活以外で、社会問題を語る場面は少ないが、「大学生も高校生も立候補できるようになれば、仲間同士で話し合える」と声を弾ませ、「適当で曖昧なことを言うし社会での経験もコネもないから最初は当選できないと思うけど、考えていることの質が高まれば若者も当選しやすくなる。議席の2割くらい、占められるといい」と期待する。

 大学3年で就活中のカリン(21)も引き下げに賛同し、「若すぎれば政治を動かす判断力は足りなくなる。『22歳以上』か『社会人経験○年以上』の条件があってもいいのでは」と提案した。

◆ハードルは多い

 「優秀な人なら18歳でも16歳でも全然いい。門戸を狭めている理由はない」。東京・目黒区議の改田和弘さん(28)は歓迎する。

 自身は43歳で米大統領に就任したJ・F・ケネディの伝記を小学生の時に読み、「多くの人のためになる、かっこいい仕事」と政治家に憧れた。大学卒業後はまちづくりに関わる一般企業に就職。「区議の平均年齢は50代後半。30年後の当事者が、今から責任を持ってまちのことを考えなければ」との思いで被選挙権を得た25歳で立候補した。

 「引き下げで同級生が選挙に立候補すれば絶対に投票に行く。投票率も上がる」

 「実現するか否かも含めて大いに議論すべきだ」。日本選挙学会理事の岩崎正洋・日本大学教授(政治学)はそう述べつつ、「18歳で成人と言ってもまだ子ども。出ることによる不利益を解消しないといけない」と指摘する。

 教壇に立ち、学生と日々向き合う中で、若者が政治参加しやすい環境づくりが重要と考えているが、若者を守る制度設計に難しさがあるという。

 若者候補者が注目されれば、誹謗(ひぼう)中傷を受けることもあろう。学生候補者は授業やテストとの両立や選挙資金をどう工面するのかといった問題もあり、「越えなければならないハードルは多く、実施時期を明確に示し中長期的に話し合う必要がある」とする。

◆もっと環境整備を

 昨年の衆院選で小選挙区での立候補者857人のうち、20代はわずか10人だった。当選したのは比例復活した福島の馬場雄基さん(29)のみだ。果たしてもっと若い人が、立候補できるだろうか。

 その馬場さんは、引き下げについて「決して政治的パフォーマンスになってはいけない。本気で取り組むなら、もっと環境を整えていかなければ」と強調する。

 今回の参院選でも、仙台市の高校生が選挙の仕組みなどを解説した自作ポスターを校内で張り出したところ、教員から注意されたという報道もあり、「そうした教育体制の中で立候補しても、失敗だけさせられて、むしろ若者をつぶすことになりかねない」と心配する。

 政治への入口を広くすることは大切だけれども、引き下げで若者の立候補が増えるのかは未知数。夢物語に終わらせないために、貴重な一票を持った当事者ができることは─。

 参院選は10日、投開票を迎える。

◆「現在のまま」「引き下げ」拮抗

 神奈川新聞「追う! マイ・カナガワ」取材班がLINE(ライン)登録した「マイカナ友だち」を中心に5月下旬に実施したアンケート(208人回答)では、被選挙権年齢の引き下げについて「現在のままでいい」が87人、「引き下げるべき」は83人と意見が拮抗(きっこう)した。

 「引き下げるべき」と回答した横須賀市の男性船員(27)は「政治に対してより自分事という感覚が強まる」、川崎市多摩区の文筆業の男性(66)も「選ぶ資格も選ばれる資格も対等であるべき」と強調した。

 「現在のままでいい」とした横浜市保土ケ谷区の30代の男性会社員は「代弁者としては極端に若い政治家にも不安がある」、葉山町の無職男性(66)は「政治家として信念を持って取組むにはある程度の勉強期間が必要」と声を寄せた。

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