X JAPANの奇蹟!YOSHIKI の隣には天賦のハイトーンボイス TOSHI がいた!  TOSHIだからこそ成し得た究極の大作「ART OF LIFE」

ヘヴィメタル、ハードロックを表現する最適解 “ハイトーンボイス”

音楽ジャンルによって、歌唱方法の特徴が異なるのは周知の通りだ。ヘヴィメタルやハードロック(以下HM/HR)においては、男性シンガーでも女性に近い高い声域を駆使した「ハイトーンボイス」が古くから用いられ、逆説的な「デスボイス」が浸透した今もなお主流を占めている。

この選択には必然ともいえる理由がある。歪んだギターやツインバスドラムをはじめ、HM/HRならではの轟音に負けることなくヴォーカルラインを浮かび上がらせるには、バックの音像から突き抜けるハイトーンボイスを用いるのが、最も適切な選択と言えるからだ。

日本における80sジャパメタムーブメントにおいても、二井原実や人見元基など一聴でわかるハイトーンボイスを持った稀代のシンガーがその名を残した。そして、2022年10月10日に57歳の誕生日を迎えたX JAPANのヴォーカリスト、TOSHIが繰り出すハイトーンボイスも、唯一無二の声色でX JAPANの様々な ”現象” を彩ってきた。 ※現在のアーティスト表記はToshlだが、ここでは便宜上TOSHIと表記させていただく。

天賦のハイトーンボイス、TOSHIがYOSHIKIの側にいた奇蹟

TOSHIとYOSHIKIの出会いは幼稚園の頃に遡るが、2人は音楽を通じて共鳴し、小学校高学年の頃にはすでにバンドを結成している。当初はそれぞれが秘めた才能とは裏腹に、TOSHIはヴォーカルではなくギター、YOSHIKIがドラムや鍵盤楽器ではなくヴォーカルを担当していたのは興味深い。

中学になりYOSHIKIはようやくドラムセットに座ったが、TOSHIがマイクを握ったのはさらにしばらく経ってからだった。以前のコラム『80年代ジャパメタの既成概念を打ち壊した「X」の軌跡と奇蹟』で少し触れたけど、ネット上で散見されるこの頃のTOSHIの歌声を聴くと、拙く幼いながらもすでにX JAPANでのTOSHIに通ずる “あのハイトーンボイス” で歌っている事実に驚かされる。それは美しく強靭な歌声が、天から授かったものであるのを確認できるからだ。

TOSHIの歌声は一聴すると際立って高く聴こえるが、HM/HR系をはじめ様々なハイトーン系のロックシンガーと比較しても、"高さ" が特別なわけではない。むしろ実際の声域以上に聴き手に高く感じさせる "声質" に起因していると言える。そんな多くの人々の聴覚を捉える美声を持つTOSHIが、無限の才能を秘めたYOSHIKIと幼少期に出会ったのは、奇跡的な確率と言っていい。

YOSHIKIはXからX JAPANへと、HM/HRをベースにしながら間口を広げた様々な音楽を創造していくが、圧倒的な振り幅の大きさは、他のロックバンドにはない際立った特徴であり魅力となっていった。

全てを破壊し尽くす激しいメタル、感動の極限へと誘う美しく劇的なバラード、身体を揺らす荒ぶるロックンロール。全てにおいて激しいものは徹底して激しく、美しいものは徹底して美しく。YOSHIKIの創作と表現に対する拘りの姿勢が、どこまでも貫かれている。

そんなX JAPANの楽曲の数々を歌いこなせる、唯一無二のシンガーこそがTOSHIだった。

多くのロックファンが、カラオケで一度は(ネタでも)チャレンジしたであろう有名曲「紅」。実際に歌ってみると、ハイトーンが連続する声域自体の難しさに加え、起伏の激しい旋律は息つく暇を与えてくれない。

様々なシンガーによってカヴァーされているが、声域だけクリア出来ても、TOSHIの歌声とイメージとの結びつきがあまりに強固すぎて、どれを聴いてもしっくりこない。楽曲をパズルになぞらえれば、最後の重要なピースとして、TOSHIの歌唱だけがピタリとハマるべく創ったのではと思えてしまうのだ。

TOSHIだからこそ成し得た! X JAPAN究極の大作「ART OF LIFE」

そして、TOSHIがX JAPANのシンガーでなければ、完成しなかったであろう究極の作品のひとつが「ART OF LIFE」だ。アルバム形式で1曲のみ、30分近くに渡って繰り広げられる一大長編作は、YOSHIKIをフィーチャーしたジャケットが示す通り、彼の半生、生き様をそのまま投影した楽曲になっている。

静と動、破壊と構築を繰り返しながら、渾然一体となった音世界が大河のように次々と流れていくさまは、X JAPANが創造する音楽の究極形だ。YOSHIKIをはじめとする楽器陣の集中力の凄まじさは、言うまでもなく様々な形で賞賛を受けている。

それと同様に、あるいはそれ以上に称賛したいのが、強いプレッシャーの中で自らの身を削る思いで表現したTOSHIの歌唱だ。当時、喉のコンディションが決して良くなかったTOSHIは、手当を施しながら満身創痍の状態でレコーディングを続けたという。その期間は実に約8ヶ月にも及んだ。

YOSHIKIが創造する一大絵巻のように展開していく音世界の隅々まで把握して、TOSHIは丁寧にメロディと言葉を紡いでいった。それはYOSHIKIが頭に思い描くイメージを完璧に具現化していく、困難を極める作業だったに違いない。

とりわけ、TOSHIの悲壮なハイトーンボイスの絶唱で迎えるエンディングには、強く胸を打たれる。渾身の歌唱―― そんな生易しい表現さえも陳腐に聴こえてしまう、ただメロディをなぞるだけではない “魂の歌声” がそこには存在している。

YOSHIKIがX JAPANの音楽を創作する時にはTOSHIの歌声を真っ先に思い浮かべ、一方のTOSHIは、YOSHIKIが求めるものを忠実に理解しながら歌い尽くしてきた。そんな長年かけて培った音楽の絆があるからこそ、2人は様々な波風が立とうとも、最後には収まるべき場所へと戻り、未来へと突き進んでくれるはずだ。

カタリベ: 中塚一晶

アナタにおすすめのコラム 5月2日は hide の命日 − 今の時代を生きていたらどんなロックを奏でたのだろう

▶ X JAPANのコラム一覧はこちら!

80年代の音楽エンターテインメントにまつわるオリジナルコラムを毎日配信! 誰もが無料で参加できるウェブサイト ▶Re:minder はこちらです!

© Reminder LLC