【交邦磨棒鋼センターのタイ合弁、KPBM社の戦略】小ロット・短納期「日本式」を水平展開 地域密着徹底、拠点増設も

 宮崎精鋼グループの国外市場における磨棒鋼拡販戦略が新たなステージに突入した。交邦磨棒鋼センターのタイ現地合弁会社「Koho Precision Bar&Metals(KPBM、社長・古市正興交邦磨棒鋼センター社長)」がこのほど稼働をスタートし、タイ一円での磨棒鋼販売に乗り出した。「みがき棒鋼のコンビニ」をコンセプトに、日本で手掛ける1本・1個単位での販売事業が現地でどのような広がりを見せるのか。グループのアンテナショップとしても重要な役割を担うKPBM社の戦略を探る。(タイ・サムットプラーカーン=佐野雄紀)

 KPBM社は今年3月に設立された。年々工業化が進展する中で部品メーカーや加工業者、設備業者が増加する一方、磨棒鋼の小口販売を手掛ける業者がいないことに着目。小ロットニーズの捕捉を狙って進出を決めた。

 日系メーカーが集積するアマタナコン工業団地にも近い、サムットプラーカーン県の工業プロジェクト区画内に約1650平方メートルの用地、約730平方メートルの建屋をレンタル。従業員8人体制で市場開拓に臨む。

 KPBMが標榜するのは小ロット、短納期というこれまで磨きをかけ続けたビジネスモデルの水平展開だ。この業態の移植を実現するため、随所に日本式の工夫を凝らす。

 交邦磨棒鋼センターの強みの一つが幅広いラインアップ。製品は5月から船便での入荷を始め、8月現在で丸棒や六角棒、四角棒、平鋼を合計600種類取りそろえる。

 接触部にゴム素材を使用し、きず対策を施した製品ラックは日本と同じもの。鋼材の番地管理方法も同様だ。なお合計重量で見ると、70トンと今のところ少量だが、今後鋼種・数量とも日本と同程度まで増やす構え。

 加工設備は超硬丸鋸切断機、バンドソーを1台ずつ置く。それぞれ本社工場、沼津工場にあったものを、グループで設備の製造販売や補修を手掛ける宮崎エンジニアリングがオーバーホールした。

 7月に初出荷を果たし、すでに日系ユーザー向けを中心に徐々に受注を獲得。中でも超硬丸鋸切断機による加工品は高精度、切断面の美麗さが好評を得ているという。まず月間数量100トン達成を目指す計画だ。

 販売拡大に伴って徐々に端材が生じ始めていることから、今後置場を広げて対応するほか、本社工場などで採用するバーコードによる管理方法を取り入れて歩留まりを高めたい考え。

 なお、工場建屋には5Sのほか会社方針を掲示して、現在6人在籍する現地スタッフへ高い品質を守る管理手法、交邦磨棒鋼センター式の行動指針の浸透を図る。

 一方、進出直後ということもあり、拡販に向けた知名度アップが課題となる。日系ユーザーであっても、現地スタッフが調達を担当することが少なくないため、タイ語のホームページ開設などを通じてPR強化に努める。

 武器とする即納体制を維持する工夫も必要だ。現在ピックアップトラック2台で配送、営業業務に当たっているものの、市街地を中心に渋滞が激しくジャストインタイムでの納入が難しいケースも想定される。

 ただKPBM社が目指す姿は、あくまでも需要家が利便性を感じられる「コンビニ」。小ロット、短納期の高いサービスを実現し続けるため、同社はユーザーに近い場所での事業展開を重視する。

 地域密着型ビジネスの展開に向け、今後需要動向を見極めながら今回開設した拠点と同程度の工場を複数箇所新設。タイムリーな配送を通じてファンを増やしながら、販売数量を段階的に伸ばしたい考えだ。

 潜在需要が未知数、不透明とも言えるタイで、順調な滑り出しを見せたKPBM社。今後の業容拡大に期待がかかる。

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