金属行人(10月31日付)

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 鉄鋼輸出は開拓だけでなく継続していくことが難しい。メーカーや商社の事情、現地市場や通商条件の変化、そして顧客の戦略にも左右される。そんな世界で15年以上にわたり続いている中国向け冷延鋼板の商売がある▼劇的に変わった中国市場にあって、この中国企業との取引は脈々と受け継がれてきた。来月には節目を祝う式が行われるが、中国側は当時、新日本製鉄で取引を始めた時のグループリーダーも招いている。中国の故事・飲水思源から来る「井戸を掘った人を忘れない」の典型だろう▼「井戸を掘った人」の逸話は、日中国交回復をめぐるエピソードでよく登場する。この国交正常化に当たり、中国政府は戦後賠償を求めなかった。日本側はODAといった経済援助、上海宝山製鉄所での協力といった支援を通じ、東洋らしい関係修復を見出してきたのが「井戸を掘った先人達」の知恵である▼翻って30日に韓国最高裁で下った徴用工をめぐる新日鉄住金への判決はどうか。1965年の日韓基本条約で請求権は「完全かつ最終的に解決」したものであり、当時の請求権資金や新日鉄などの技術供与を得て誕生したのが今のポスコである。「共に井戸を堀り、一人で水を飲む」ようではいけない。