一歩一歩

 「涙なくして調査はできない」とその研究者は語っている。被災した人々に常に目線を向け、災害にあえぐ姿が涙でかすんで見えたのだろう▲その研究者、長崎大名誉教授の後藤惠之輔さん(76)は雲仙・普賢岳災害のとき、ヘリ搭載の装置で大火砕流の跡の温度を測ったりと、世界初の調査も手掛けた。災害調査の数は100を超える。情熱と、被災地に寄せる思いなしに積み上げられない数だろう▲五島手延うどん協同組合前理事長の舛田安男さん(73)は、新上五島町の五島手延うどんの統一ブランド化を進めた。昔は各家庭だけで作っていたが、31歳のとき、うどん製造と販売での独立を決意し、やがて組合をつくり、知名度を上げて…。その道のりのどんなに険しかったことか▲長崎大名誉教授の山口康子さん(84)は実に44年間、文学講座で「源氏物語」を読み進めている。全54帖のうち44帖まで進み、古典文学の最高峰の“登山”は続く。ここまで来たのは「熱心な受講生の皆さんのおかげです」▲きのうの長崎新聞文化章の贈呈式で、お三方が喜びを語られた。どなたの道のりをたどっても「一歩一歩」という言葉が浮かぶ▲舛田さんは言う。「近年、2代目、3代目が製麺所を継ぐようになったんですよ」。築いた礎あってこそ、道は未来につながっている。(徹)

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