極端な“内弁慶”、長打力と救援陣のテコ入れ… データで今季を振り返る【中日編】

中日の得点と失点の移動平均グラフ

チーム打率はリーグ2位 唯一広島に勝ち越しも長打力不足の打線

 中日は6年連続Bクラス、前人未到の1000登板を達成した岩瀬仁紀、中継ぎ投手として史上初のリーグMVPに選出された経験もある浅尾拓也、球団生え抜きで史上4人目の2000本安打、球団新の378盗塁を記録した荒木雅博といった貢献者の引退、森繁和監督の退任など、終盤は寂しいニュースが相次ぎました。

 終始浮上のきっかけがつかめなかったペナントレースにおける得点と失点の移動平均を使って、チームがどの時期にどのような波だったかを検証してみます。移動平均とは大きく変動する時系列データの大まかな傾向を読み取るための統計指標です。

 グラフでは9試合ごとの得点と失点の移動平均の推移を折れ線で示し、

得点>失点の期間はレッドゾーン,
失点>得点の期間はブルーゾーン

 として表しています。
 
 ブルーゾーンの比率が多く、連勝も5連勝が最高で、大きな波に乗り切れない状況を表すグラフとなっています。

 攻撃陣は平田良介、京田陽太、大島洋平、ビシエド、アルモンテ、高橋周平、福田永将がほぼ固定のオーダー。規定打席到達者7人は12球団最多です。その中でもビシエドは首位打者と最多安打の2冠を達成、8月にはセ・リーグ新記録の月間47安打を樹立しています。またセ・リーグ打率ランキングでは3位に平田、5位にアルモンテが入り、チーム打率.266は実はリーグ2位です。

 特に広島戦では打率.280を記録、セ・リーグで唯一、14勝11敗と広島に勝ち越しています。ただ本塁打97、ISO.115はリーグ5位と、長打力に欠ける打線であることは否めません。

高い守備力、先発投手陣も安定 しかし救援陣が…

 守備では失策52は12球団最少、グラウンド上に飛んできた打球のうち野手がアウトにした割合を示すDER69.9%はセ・リーグ1位と守備力では安定の数字を示しており、広いナゴヤドームに適した守備陣を擁しています。惜しむらくは盗塁成功率の低さで、61.6%は12球団最下位。wSBは-5.03と盗塁での得点損失が少なくありません。

 さてチームが大きく浮上できなかった最大の要因である投手陣について分析してみましょう。防御率4.36、WHIP1.41、FIP4.52はリーグ最下位で、開幕前から不安視されていた投手力の整備ができないままシーズンを終えてしまいました。

 ただ、先発投手が6イニング以上投げて自責点3以下に抑えるクオリティスタート(QS)が17試合で13勝のガルシア、5勝止まりではありますが13QSと先発としての役割は果たしていた吉見一起、QS率52.9%の小笠原慎之介などを擁する先発投手陣の防御率は4.08、QS率も49%で、これらはリーグ2位の数値です。ただ大問題は救援陣で、防御率4.93は12球団ダントツの最下位。リーグワーストの逆転負け38回を喫してしまうなど、救援陣が大炎上を起こしてしまう試合展開が目立つシーズンとなりました。

 そんな投手陣ですが、本拠地ナゴヤドームでの防御率は3.39で実はセ・リーグチームの本拠地防御率の中では最も優秀な成績なのです。先発防御率3.39、救援防御率3.38とほぼ同等の成績、QS率も58.8%と安定し、本拠地勝ち越し、ナゴヤドーム広島戦9勝3敗の要因にもなったと言えそうです。

 ということは、ビジターでの投手陣の炎上ぶりが思い浮かぶわけで、特に神宮球場でのヤクルト戦の惨状は目に余るものがありました。

6月28日 9回裏 6-3から5失点でサヨナラ負け
7月21日 9回裏 5-4から3失点でサヨナラ負け
9月4日 9回裏 9-3から6失点で延長に突入、12回裏3失点でサヨナラ負け

 神宮での救援防御率は7.02、先発防御率も7.04でQS率もわずか8.3%。ビジターでの投手成績は以下の通りです。

◯神宮球場
防御率7.03 WHIP1.62 QS率8.3% 1試合被本塁打平均2.00

◯東京ドーム
防御率4.92 WHIP 1.32 QS率63.4% 1試合被本塁打平均1.36

◯横浜スタジアム
防御率4.67 WHIP 1.25 QS率53.9% 1試合被本塁打平均1.38

◯甲子園
防御率3.87 WHIP 1.71 QS率22.2% 1試合被本塁打平均0.67

◯マツダスタジアム
防御率5.01 WHIP 1.64 QS率30.8% 1試合被本塁打平均1.23

 まさに投手陣の内弁慶ぶりがわかるデータです。ビジターでの投手陣のマネージメントが来季浮上に向けての急務と言えそうです。

中日の各ポジションごとの得点力グラフ

根尾の指名は内野レギュラー陣へ大きな刺激、投手&捕手も効果的に補強

 次に、中日ドラゴンズの各ポジションの得点力が両リーグ平均に比べてどれだけ優れているか(もしくは劣っているか)をグラフで示して見ました。そして、その弱点をドラフトでどのように補って見たのかを検証してみます。

 グラフは、野手はポジションごとのwRAA(平均的な打者が同じ打席数立った場合に比べて増やした得点を示す指標)、投手はRSAA(特定の投手が登板時に平均的な投手に比べてどの程度失点を防いでいるかを示す指標)を表しており、赤ならプラスで平均より高く、青ならマイナスで平均より低いことになります。

 一塁手ビシエド、左翼手アルモンテ、右翼手平田がプラス評価です。守備や走塁では大きな貢献をしている大島ではありますが、強打者揃いのセンターにおいてはその攻撃力は平均以下という評価になります。また投手陣の大きなマイナスはお察しの通りです。

 ドラフトでは1位指名で4球団が競合した根尾昴をくじで引き当てました。岐阜県出身で、小学生のときドラゴンズジュニアのメンバーに選出、投手としてジュニアトーナメントに出場した経験のある根尾にとって、縁のある球団からの指名となりました。

 甲子園でも投手として出場しましたが、打撃でも打率.371、本塁打3、OPS(出塁率+長打率)1.087の強打を披露。さらにはショート、センターの守備で守備範囲の広さ、肩の強さ、足さばきの巧みさなど身体能力の高さをいかんなく発揮していました。根尾は入団交渉の席で遊撃手のポジションを狙うと直訴したとの報道がありました。前述の通り、今季の中日の内野は、セカンドに高橋、ショートに京田、サードに福田と規定打席に達したレギュラーメンバーがいますが、いずれも攻撃力の評価ではマイナスとなっています。ここに根尾がポジション争いに加わることで、競争原理が働き、得点力向上への起爆剤になることでしょう。

 当面の大きな課題である投手力補強として、2位に梅津晃大、3位に勝野昌慶を指名しました。特に3位指名の勝野は11月に開催された社会人野球日本選手権で、準決勝の完封を含め、2度の先発で2勝、19回1/3で自責点1、奪三振率9.31の好投でチームの優勝に貢献、大会MVPを獲得しました。窮状の中日投手陣にいち早く加わり、活躍が期待される逸材です。

 さらには、4位指名で高校球界屈指の捕手、石橋康太を指名。甲子園出場は1度ですが、高校だけでなく、アマチュア球界随一の素質を秘める捕手として注目を集めていた逸材です。夏の予選で5本塁打、走力は50メートル6秒3、遠投は115メートルを記録し、捕球から二塁への送球タイムが1.9秒台と走攻守にハイレベルな指標を残しています。長年攻撃力評価マイナスだった捕手のポジションに光明が見える絶妙の指名と言えそうです。

 今年の中日のドラフトは与田剛新監督の強運も含め、各ポジションに効果的に戦力を埋めるという意味で高評価のドラフトだったのではないでしょうか。(鳥越規央 / Norio Torigoe)

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ(2012年、2013年)などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
文化放送「ライオンズナイター(Lプロ)」出演
千葉ロッテマリーンズ「データで楽しむ野球観戦」イベント開催中

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