ボルボのフラッグシップSUVが見せた安心のグランドツーリング
2018年の輸入車総販売台数は前年比でプラス1.1%となる30万8389台を記録した。メーカー別で見ると、1位メルセデス・ベンツ、2位VW、3位BMW、4位アウディ、5位MINIとドイツ勢が並ぶものの、台数で見てみるとメルセデス・ベンツ/BMW/アウディは減少しているのだ。その一方で、ドイツ以外のブランドは前年を大きく上回っている。その一つが6位のボルボである。ちなみに2018年のボルボの新車受注台数は、1996年以来22年ぶりとなる新車受注台数2万台超えとなった。
受注台数増加の要因は、2014年7月ボルボ・カー・ジャパンの社長に木村隆之氏が就任以降、マーケティングや商品バリエーション、売り方などを全て見直し、「安全」、「スウェーデン」を強調した戦略が功を奏しているのはもちろん、日本カー・オブ・ザ・イヤーを2年連続で受賞(2017-2018:XC60、2018-2019:XC40)するなどニューモデルが高い評価を得ていることが大きい。その中でも2018年のイヤーカーとなったXC40は、現在もバックオーダーを抱えている状況だ。
ただ、このクルマを忘れていないだろうか? 新パワートレイン「Drive-E」と新プラットフォーム「SPA」を初めて全面採用した新世代ボルボ第一弾として2016年に日本に導入されたSUVシリーズのフラッグシップ「XC90」だ。日本では惜しくもアワードは逃しているが、「北米トラック・オブ・ザ・イヤー」、「モータートレンドSUVオブ・ザ・イヤー」を含む62の賞を受賞しているのだ。
ちなみにXC90も、2016-2017日本カー・オブ・ザ・イヤーで、インポートカー・オブ・ザ・イヤーを獲得したアウディA4と僅か7点差で2位だった事はあまり知られていない。
そんなXC90の魅力を再確認するためにロングツーリングを実施。筆者も何度か参加をしている北海道~東京約1300kmを走る“超”ロングツーリングである。スケジュールは1泊2日で、初日は北海道の新千歳空港~函館、2日目は朝7時40分の青函フェリーに乗船し青森到着後は東京まで自由……と言うアバウトなスケジュール。クルマならではの「移動の自由」を存分に味わえるが、その一方で編集部の力量も試される(笑)。
2.5トン近い巨体を的確に走らせるプラグインハイブリッド
今回の旅のパートナーはXC90のフラッグシップ「T8ツインエンジン」。ボルボ初のプラグインハイブリッドモデルで、前輪は320ps/400Nmを発揮する2Lターボ+スーパーチャージャーが、後輪は87ps/240Nmのモーターが駆動を行ない、システム出力は407ps/640Nmを誇る。
実は今回、筆者は仕事の都合で最初から参加できず函館から合流。新千歳空港から函館まで道のりはK副編集長とSカメラマンに委ねたが、聞くと天候悪化で高速道路は通行止めでほぼ下道だったそうだ。途中、何度か吹雪でホワイトアウト状態も経験したと言うが、そんな状況下でもボルボ自慢の安全・運転支援システム「インテリセーフ10」はロストすることなく作動、不安なく走れたそうだ。運転支援システムはどれも同じように見えるが「性能差」は確実に存在する。筆者が一歩抜きん出ていると感じるシステムは、ボルボとスバル、そしてメルセデス・ベンツだ。
2日目の朝、ホテルから函館フェリーターミナルに向かう。ドライブモードはバッテリー容量がある時は純粋な電気自動車として走るPureモードにセレクト。2トン超えの車体を軽々と走らせる力強さはもちろんだが、静かなのでタイヤのグリップ状況を音で確認する事も可能なのだ。モーターの特性の一つ……応答性の良さも相まって、低μ路での走行はむしろ内燃機関モデルよりもコントロールが楽である。
7時40分の青函フェリーに乗船、一路青森へ。最近は船上Wi-Fiも完備されているので仕事をすることも可能だが、これから先の長距離走行に備えて英気を養うことに(早起きして眠いだけと言う噂も……)。
昼前に青森フェリーターミナルに到着。「腹が減っては戦はできぬ」と言うことで、まずは人間に燃料補給だ(笑)。向かったのは青森フェリーターミナルの近くにある青森ご当地ラーメンである「煮干しラーメン」の人気店「長尾中華そば」だ。水とたっぷりの煮干しだけでとった「あっさり」と、鶏豚ベースの白湯スープとたっぷり煮干しスープを合わせた「こく煮干し」の2トップ。筆者は3回目の来店なのであっさりとこく煮干しのWスープの「あっこく麺」をセレクト。煮干しが前面に出ながらもえぐみのないあっさりした旨みがたまらん!! ちなみに東京(神田)、仙台にも出店しているので、お近くの方は是非。
豪雪地帯である八甲田山系でも安心の走り
お腹も一杯になり、次の目的地を目指す。実は筆者、どうしても立ち寄りたい場所があった。青森市南部にある八甲田山系の火山性温泉「酸ヶ湯」(すかゆ)だ。昨年の冬に別の取材で近くまで行ったものの、帰りの新幹線の時間の関係で泣く泣く入湯を諦めたが、今回は東京までクルマなので時間の制約は(日が変わらないうちに帰りたいが)ない。
酸ヶ湯がある八甲田山は、明治期に陸軍が雪中行軍訓練を行ない、山岳遭難史上最大の199人の死亡者を出した難関の地。標高が上がるにつれて道は狭くなり、道路脇は高い雪壁に覆われる。そんな悪条件で大きなボディを持て余すかと思いきや、見切りのいいボディと視界の良さ、更に心地よいダルさを持ちながら正確性の高いハンドリングに、まるで1サイズ小さなクルマに乗っている印象だ。
もちろん2トン越えの車両重量のため、無理は禁物だが、重さを活かしたトラクションの良さに加えて、重いバッテリーをクルマの中心かつ低い所にレイアウトしているため、コーナリング時の姿勢などはガソリン車よりも安定しているように感じた。
実は撮影用にフラットな圧雪路の広場で派手な走りをトライしてみたが、クルマの動きが穏やかなのでコントロールがしやすい。ちなみにバッテリー容量がある時のPureモードは後輪駆動用モーターのみの走行となるため、FRのような姿勢変化も少しだけ楽しめることも確認した。
酸ヶ湯温泉と言えば、総ヒバ造りの大浴場「ヒバ千人風呂」が有名だ。混浴なので色々期待しながら入るも、浴室は湯煙で何も見えず(泣)。名の通り強い酸性の湯で「療養に適した温泉」として、慢性皮膚疾患、腰痛や筋肉痛、神経痛、疲労回復、健康増進などの効果があるそうで、常に締め切りに追われている身である筆者の体と心を癒してもらった。
人間の感覚に自然な運転支援システム
しばしのリラックスタイムを楽しんだ後は、東京へ向かって出発である。東北道に乗る前に燃料を満タンにして燃費計をリセット。もちろん、全車速追従機能付ACC+車線維持支援機能(パイロットアシスト)はONだ。機能と言う意味では他メーカーにも似たシステムはあるが、制御と人の感覚のズレが最小限な上に、いい意味でシステムが頑張りすぎていないのもマルだ。ちなみに公式なアナウンスはないが、確実に初期モデルよりも自然な制御になっている。
これはフットワーク系にも同じ事が言える。T8は電子制御式4輪エアサスペンションが標準装備だが、初期モデルはキャラクターを考えるとやや硬めの味付け、かつバネ下のバタつきと路面からの突き上げも多めでエアサスの恩恵をあまり感じなかったが、最新モデルはリアサスがよりシッカリと仕事をしている印象。21インチもシッカリと履きこなしている。何を変えたのかはわからないが、恐らくSPA採用モデルが増えたことで、その知見が多かれ少なかれXC90にもフィードバックされているのだろう。
実は途中何度か、「運転変わりましょうか?」と言われたが、本当に長時間運転していても疲れ知らずだった。その一つがシートの出来の良さである。整形外科医のアドバイスが盛り込まれたシートは座った時に体にかかる圧力が均一に設計されており、体への負担が少ない。確かに腕周りは比較的自由だが、腰回りはシッカリ支えられているので、どの席に座ってもリラックスしながら正しい姿勢を取ることが可能だ。ちなみにフロントシートに採用のマッサージ機能は家庭用のように強くはないが、個人的にはクルマ用としてはかなりのレベルだと思う。ちなみにあまり大きく謳っていないが、安全性もシッカリ確保した3列目を用意するSUVでもある。
そのまま休みゼロで東京まで行けるかも……と思ったが、人間の方が燃料切れ(笑)。サービスエリアでササッと食べる事も考えたが、東北道を降りて仙台市内へ。実はK副編集長、前回のボルボ・ロングツーリングで青森・八戸の「ヒラメ漬丼」のために、当初食べようと思っていた牛タンを諦めたそうだが、「やっぱり食べたい」と(笑)。立ち寄ったのは仙台市内には数多く並ぶ牛タン専門点の中でも有名な「利久」へ。肉厚の牛タン焼きとピリッとした南蛮味噌、さっぱりとした口当たりのテールスープ、麦飯にトロロ……。
ボルボファミリーでもピカイチのロングドライブ性能
ここからはノンストップで東京へ、最終目的地は前日に出発した羽田空港だ。ここまでは特に燃費を意識せず、標準となるハイブリッドモードで交通の流れに合わせた走行だったが、このままだとナビの残りの距離に対してメーター内の航続距離が足りないので、再びPureモードに切り替える。
バッテリー容量を使い切るとハイブリッド走行となるが、エンジン制御の変更に加えアクセルOFF時にコースティングを実施。更に前面投影面積を減らすために(=空気抵抗を抑える)ためにエアサス機能を用いて車高も下がる。ちなみにPureモードでも十分なパフォーマンスで2360kgの巨体を軽々と引っ張る。ちなみに走行中にエンジンの動力を使って駆動用バッテリーを充電するモードもあるが、燃費悪化が大きい上にバッテリー容量の1/3しか充電されないので、基本は外部からの充電がいい。Pureモードで燃費に気を使った走行をしてあげると、燃費は少しずつ上昇。
燃費走行は意外と大変だが、それを癒してくれるのがオーディオ。イギリスの高級スピーカーブランド「バウワーズ&ウィルキンズ」との共同開発で、その中でもコンサートモードはイェーテボリ交響楽団の本拠地でもある「イェーテボリコンサートホール」のベストポジションと呼ばれる伝説の座席の音響環境データを収集し再現。その音はカーオーディオの中でトップクラスと言っていい。オプションで価格は35万円(T5モメンタムは45万)と決して安くないが、選ぶ価値は十分ある。
そして、青森ターミナルをスタートしてから約13時間、羽田空港に到着!! 実は筆者はボルボの“超”ロングツーリングは3回目となるが、これまではいくらボルボは長距離向きとは言え途中で寝てしまうことがあったが、今回は寝ることなく到着……つまり、疲れが最も少なかったのだ。そういう意味も含めてXC90はボルボラインアップで最もグランドツーリング性能が高いと言えるだろう。
ちなみに最終的な燃費は10.9km/l。ちなみに別の日にガソリン車のT6で東京~大阪往復をした際の燃費は11~12km/Lだった。サイズや重量、パフォーマンスを考えればまずまずの値と言えるが、個人的にはディーゼルが必要かな……と思っていたら、そう遠くないタイミングでXC60/V90より高出力版の2Lターボ「D5」が追加されるそうだ。ボディサイズが気にならなければお勧めの一台だ。
[筆者:山本 シンヤ/写真:佐藤 正巳]