toddle 2ndアルバム『Dawn Praise the World』再発記念復刻インタビュー「希望と絶望が交錯する日々のなか、すべてを讃えるように世界を照らす朝の光のような音楽」

安岡秀樹の脱退を受けて始まったアルバム制作

──今回のセカンド・アルバムは、ドラムの安岡秀樹さんから脱退の意志を告げられたことが制作の発端だったそうですね。

田渕:そうなんです。秀樹君が故郷の高知に引っ越すことになって、それを聞いた時にアルバムを録ることを決めたんですよ。秀樹君には「レコーディングが終わってから高知に帰ってよ」って言って。

──秀樹さんの帰郷がなければ、このアルバムが生まれることはなかったわけですね。

田渕:その通りです(笑)。

──でも、ぼちぼち新曲も溜まってきた時期だったんじゃないですか?

江崎:そんなことは全然(笑)。

田渕:アルバムを作ることが決まってから、“やんなきゃ!”って作っていった感じですね。6曲目に入ってる「Step With the Gloom」は、ファースト・アルバムに入れる入れないって言ってた昔からある曲なんです。ファーストを録った後に出来た曲は、2曲目の「Sack Dress」しかなかったんですよ。

──吉村さんは、本家であるブッチャーズのレコーディングと並行して、toddleとswarm's armのプロデュースにも携わるという八面六臂の大活躍で。

吉村:でもまぁ、全然大丈夫でしたよ。

田渕:最後のほうが結構ギュウってなりましたけど。

吉村:ああ、まぁねぇ。でも好きな作業だから、そんなに大変なことっていう感じじゃなかった。

──それにしても今回のアルバム、余りに素晴らしすぎて、どこから話を訊いていいのやら…。

吉村:俺が一番最初に売り込みに来たんだよ、Rooftopに(笑)。自分で焼いたCD-Rを持って。メンバーにすらまだ焼いてあげてなかった時期でね。「よろしく頼むぞ!」と(笑)。

──はい、しかと頼まれました(笑)。でも、急いで作ったようなアルバムにはとても思えぬ出来ですよね。何か方向性みたいなものはあったんですか?

江崎:作ってる時は意識してなかったですね。

田渕:頑張って曲を作れるだけ作った感じです(笑)。

小林:秀樹君の引っ越しの話が出たのが、去年の5月くらいだったんですよ。それで年内までにアルバムを作ろうっていう話になって、最後に出来た曲は録りのギリギリの12月くらいまでやってたので、半年くらいは制作期間があったんですよね。

江崎:でも、実際に曲を作り始めたのは9月くらいじゃなかった?(笑)

──(笑)じゃあ、構想も含めて半年くらい。

田渕:2曲作ったくらいから曲が増えなくて、それからポコポコポコ…って出来ていった感じで。

吉村:そうだよね、一緒に始めたブッチャーズですら曲が結構出揃ってたのに、toddleは曲が全然なくて。でも、個人的にMTRを使ったりしてやってるみたいだったから、俺から見たらわかんないけど、バンド内での分担作業はできてるのかなぁって思った。そういう、ひとつの作品を作る意識みたいなものはちゃんとあったよね。

──秀樹さんと作る最後の作品という部分で、気負いみたいなものはありました?

江崎:それはなかったかなぁ…(笑)。

吉村:ヤツの人間的になかったよね(笑)。

──作業はブッチャーズのレコーディングとほぼ同時進行だったんですよね。

吉村:うん。ブッチャーズの合間に歌録りとかもして。俺が調子悪い時は時間がもったいないから、「ちょっと来て」って呼んで1曲録ったり。

江崎:「ブッチャーズの応援に来い」って吉村さんに言われて行ったら、ひさ子ちゃんがいて、“あれ!?”って(笑)。

──2作目ともなると、作業自体は比較的スムーズに行ったんじゃないですか?

田渕:(小林に)演奏を録るのは早かったよね?

小林:うん。前もそんなに悩まなかったよね。

吉村:曲のグレードは確実に上がったよね。とにかく曲がいいよ。

“ミルフィーユとんかつ”並みのサービス増(吉村比)

──ブッチャーズの『ギタリストを殺さないで』もそうなんですけど、今回はエンジニアの植木清志さんの存在がかなり大きかったんじゃないですか?

吉村:そう、そこを含めて“チームtoddle”(☆ちーむ☆とどる)って呼んでるんだけど。清志と2人でtoddleのどこを伸ばしていくかっていうのを話し合って…言ってみれば、僕らはサービス業ですから(笑)。

田渕:なんか、どれかの音をちょっとでっかくしたら「サービスしといたぞ」って言われて(笑)。

吉村:音がこんもりしてるところでやってるから、どういうサービスかっていうのは判りづらいかもしれないんだけど、盛った上にまた盛ってるからね。

──ひつまぶしみたいなものですか?(笑)

吉村:いや、キムカツのミルフィーユとんかつみたいな感じかな(笑)。でもね、元にあるものは削らないでガッチリ受け止めていくわけ。音的なことを言えば、バンドの勢いをハードディスク・レコーダーに入れ込むんだけど、中域を丸いところで押さえたくなかった。もっとヒリヒリした感じにしたいって言うか。だから結果的にちょっと壁っぽいサウンドではあるんだけど、それはいいかなって。なんて言うか…“ガールズ・ロック”っていう感じ(笑)。このニュアンス、判るかな?

──吉村流のギタポじゃないんですか?

吉村:ギタポなんだけど、もっと基本的なところに返って。ヒリヒリした感じを出すことによって壁っぽく聴こえるかもしれないけど、丸くなるのは嫌なわけ。清志は中域が好きだから基本的に丸い音を出すんだけど、俺はそのもっと上を出すって言うか、今風な音の録り方に収めたくなかった。まぁとにかく、だいぶサービスしたもんねぇ。

田渕:ありがとうございます(笑)。

吉村:でもね、江崎のベースはどちらかと言うとちょっと削ったほうなの。元にあったものを。

江崎:最初から俺が盛りすぎてたんですよ(笑)。

田渕:でも、ベースもちゃんと立ってるよね。

吉村:だって俺、昨日toddleのCDを聴きながらベースのシミュレーションしてたもん、この取材用に。“いいなぁ、このベース”って(笑)。

──ははは。歌詞に目を向けると、全体的に憂いを帯びた印象を受けましたが。

小林:まぁ、ちょっとウェットって言うか、暗い明るいで言ったら暗い感じですよね。日々生きる上での諦めみたいなものって言うか…大人になって判った、“朝ってそんなにいいものじゃない”みたいな感じかなぁ…。

──アルバムのタイトルも愛さんが考えたんですか?

小林:何となくのイメージをチャコちゃんと出し合って、それをキュッとまとめるのをちょっと手伝いました。

田渕:曲のタイトルも、ぼくがいっぱいアイディアを出して、アイコンにその中から拾って何パターンか作ってもらったんです。ぼくは英語がさっぱり判らないんで(笑)。歌詞は日本語なんですけど、アルバムや曲のタイトルはある程度イメージの余白を作っておいたほうがいいなと思って。

──今回はメンバー全員で作曲に携わっているんですよね。

吉村:メンバー全員と、実は俺も関わってるんだけどね。辞書っぽい歌詞でね(笑)。

小林:聴いてみればどの曲かすぐに判ると思いますよ。ちょっと詩的な感じだから。

吉村:俺は彼らと一緒に作業するのが楽しいわけ。だからタイトルも「こんなのどう?」とか口出してみたり。

──作詞はいつも難航するんですか?

田渕:曲より詞のほうが後で出来るから、いつも最後になって詰まりますね。タイムリミットの問題で。ただ、今回は割と同じ時期にブワーっと書いたので、結果的には一貫したテーマがあるみたいになって良かったと思います。

──そのテーマというのは、絶望と希望が交錯する日常の中で、もがきながらもどっこい生きている姿を描くことなのかなと思いましたが。

田渕:もがいてますよー(笑)。地団駄も踏んでますし(笑)。

吉村:「Sack Dress」の歌詞とかは、みんなで唄ってるとシュールだなぁと思うんだけどね。判りやすくも判りづらいって言うか。この歌詞を真っ正面から受け止める人っているのかなぁって部分でね。

田渕:そうそう、“私はこれで正しい!”みたいな。

江崎:“私、何をやっても正しいわ!”っていう(笑)。

田渕:「何も感じない 動かない心」っていう歌詞を、ぼくが落ち込んでそういうことを言ってると思われたらちょっと困るな、って。(アイドル声で)“何も感じたくなんかな〜い!”みたいな(笑)。

──でも、仮に吉村さんが「何も感じない」と唄ったら“そんなわけないだろう”とうがった見方をしますけど(笑)、ひさ子さんが唄うと歌詞の言葉通りに受け止めてしまうかもしれませんね。女性だし、声に透明感があってまっすぐですから。

田渕:要するに、“私はなんにも間違ってないわよ”っていう顔をしてるような、自称“善良な一般市民”どもに向けて唄ってるんですよ(笑)。

吉村:夜の蝶に言ってることじゃないね。首にタオルを巻いてライブハウスに行ってるようなヤツらのことだよね(笑)。キッズじゃないんだよ。大人のくせにキッズの心を持ってて、そこで完結してるようなバカどもだよ。でも、そういう人はこの曲を聴いても判らないだろうね。

「Ode To Joy」のコンセプトはキャンディーズ

──愛さんも「Recollection」と「Dawn Praise the World」の2曲で清々しいボーカルを披露されていますね。

田渕:自分の中で“この歌詞は直接的で唄いづらいな”って思ったものでも、アイコンが唄ってくれると、不思議とそうは聴こえなくなるんです。さっぱりしてると言うか、そっけない感じがいいと言うか…うまい言葉が見つからないんですけど。

小林:自分では、家でCDを聴きながら一緒に唄ってる感じが一番いいと思ってるんですよ。鼻歌みたいに、何となく出ちゃった感じが一番いいんじゃないかって。だからなるべくそういう気持ちで唄えればなぁ、と。

吉村:2人とも唄い出しはもの凄くヘタなんですよ。でも、2、3回唄い直していくと急に凄い伸びがあって。アイコンが今言った、家で唄ってる感じとかも大事にしたいなぁと思ったんだけど、アイコンはそれがお風呂場的になっちゃってるんだよね(笑)。実際にアイコンからはそういう要望を受けたんだけど、お風呂場の一歩手前で抑えたほうがいいよ、って(笑)。

小林:でもね、夕方に外を歩いてて、どこかの家のお風呂場から歌声が聴こえてくることがあるじゃないですか? それが最高にいいなって思うんですよ。別に誰に聴かせるわけでもない歌っていうのが。

吉村:でも俺としては、同じ家にいる感じなら、パソコンの前に座りながらラジカセに合わせて唄ってる感じをもっと出したかったって言うか。パソコンの画面と近い感じでね。アイコンはそうでもないけど、ひさ子には結構何度も唄ってもらったよね。ブッチャーズでもそうなんだけど、今回はボーカルの加工をほとんどしてないんだよ。いいテイクを録るには音程的なこともあるし、たくさん唄ってもらうしかなかったからね。

田渕:確かに、前回のアルバムではこんなに唄わなかったですね。

吉村:やっぱり、ボーカルに関しては素直なところを引き出したかったからね。決してヘタなところを出そうとしたわけじゃなくて、良いところをちゃんと押さえたいっていう。

──上手く唄おうとして邪念が入ると良くない、というような?

吉村:いや、彼女達はまだそこまで到達してないね(笑)。

小林:チャコちゃんはカラオケに行くと歌がすごく上手いんですよ。でも、toddleになるとちょっと違ってて…ヘタって意味じゃないんですけど(笑)、ホントはもうちょっと楽に力を抜いた感じで唄えると思うんです。そこのハードルを高めにして、ちょっと無理めに唄ってると言うか。声も凄く大きく出したりとか。なんか“ちゃんと唄おう”っていう意識があるような気がして、それが凄くいいなぁって思う。

田渕:カラオケだと、元を唄ってる人がいるからそれをお手本にして唄ってる感じで、頭の中できちんとしたイメージができるんですよね。でも、toddleになるとお手本がないから、どこまでどう唄うかとか自分で判断がつけられなくなって、アイコンの言うように頑張ってる感が出てしまうと思うんですよ。

吉村:ホントに歌の上手い人は、目の前にあるローソクの炎を揺らさないで唄うんだよ(笑)。

──それじゃ金沢明子ですよ(笑)。でも、ボーカルの説得力はファーストに比べて格段に増したと思いますよ。

小林:歌の比重が前回よりも大きくなってると思いますね。録り方も違ったし、前は音ももうちょっと小さかったですしね。

田渕:あと、全然関係ないんですけど、toddleの歌をアイドル風に唄ってみたことがあるんですよ。そうしたら上手に唄えた気がした(笑)。

江崎:振り付けとか、凄く活き活きしてやってたもんね(笑)。

田渕:踊りながら唄うことはよくあるんですよ、レコーディングの時とかに。

吉村:でもね、ボーカルの調整はホントはもの凄く事細かくやってるんだよ。誰も知らない空白の2時間とかあったからね(笑)。エンジニアの清志と一緒に、「初めにこういう組み方で行こう」とか話し合って、それを俺が聴いて組み直して、それをまた清志が滑らかにしていって…。1曲に対して最低2、3回はそういう細かい作業をしてたんだから。

──それは随分なサービスをされていますねぇ…。

田渕:されてますねぇ(笑)。

吉村:それも時間があればいいんだけど、限られた時間の中でやるってなかなか大変なんだよ。で、女の子ボーカルの一番のサービスは最後の曲(「Ode To Joy」)ですよ。これはですね、キャンディーズをイメージしてます(笑)。ホントにそういうコンセプトでやったの。2人だけどキャンディーズみたいにやろう、って。

田渕:最初2人で唄ってて、途中で1人出てきて、その後にまた2人出てきてぐるぐる回るっていう。

吉村:ただ、ひさ子がランちゃんなのはいいんだけど、スーちゃんとミキちゃんの2役をアイコンにやらせていいものかどうか、俺は凄く悩んだんだけどね(笑)。ブッチャーズでもトライアングルって言うか、3つのミックスっていうのを「『△』サンカク」のロング・ヴァージョンでやったことがあって。歌じゃなくて後ろの音だけど。それを今回、歌に活かしたっていうね。“これはキャンディーズ・ミックスだ!”と思って。だからキラッキラしてるんだよ。

田渕:まさに朝起きて、走り出した感じがしますよね。

小林:で、この曲の終わりがなんかズッコケちゃう感じなんですよね(笑)。ドラムが妙なリバースで、明後日の方向に行っちゃうみたいなイメージがあるんです。助走を付けすぎて止まれなくなる、って言うか(笑)。

田渕:この曲が最後っていうのが凄くいいと思うんですよ。「うわぁー!」って叫びながらどっかに行っちゃうみたいな(笑)。

江崎のベースに躍動感が増した理由

──江崎さんは今回、これまでになく自由にベースのフレーズを作れたそうですが。

江崎:そうですね。歌が唄いやすくなるようにとか、余りそういうことを考えずにやりましたね。自分が好きなように作っても対応できるような人達だったから。

小林:…私、余りベースを聴いてないもんね(笑)。

江崎:そうなんですよ(笑)。前は“聴いてるかな?”と思って気を使って弾いてたのが、“あ、聴いてないんだ”って解放された感じですね。

──ああ、だから江崎さんのベースがあんなに活き活きとしているんですね(笑)。

小林:でもホントに、演奏してる時は自分のことで手一杯だから聴けてないんですよ。それでCDになった時に“ああ、江崎君、いいベース弾いてるなぁ…”と思って(笑)。

江崎:ありがとう。アイコンの真横で弾いてるのにね(笑)。

吉村:ブンッブン言ってるからね。自分のバンドに江崎と射守矢(雄)がいたら、いろんなことができるのになぁ…って思うよね。この2人に佐藤(研二)さんがいれば、俺には無敵のトライアングルだよ(笑)。江崎はベーシストとして凄い好きなんだよね。今回のプレイも凄く良かったし、歌っぽいと俺は思う。でも、それを大事にしたいからこそちょっと削った部分もあるんだけどね(笑)。江崎がずっと弾いてきたRUMTAGからの音源も含めていろいろ聴いてきたけど、今回のプレイは凄くいいと思うよ。

小林:前のアルバムは、江崎君が入った時には出来上がってたベースレスの曲ばかりだったから、そこにどうベースを付けようかみたいな感じだったんですけど、今回は曲作りの段階から「ここはこういうのを弾いて欲しい」っていう感じだったから良かったですね。

──ドラムは今後どうなるんでしょうか?

田渕:今一緒にやってるジャガー君(ex.デラシネ)にツアーも回ってもらうんですけどね。

──これだけの会心の作が出来たからには、ライブにも期待大ですね。シェルターでバンド初のワンマンもあることですし。

江崎:ライブには是非来て欲しいですね。ライブに来ると僕ばかりに目が行っちゃうと思うんですけど、全体を万遍なく観ても楽しいですよ、と。

一同:(苦笑)

吉村:…失敗したな(笑)。

田渕:アルバムを買ってなくてもいいから、ライブには来て欲しいですね。それでいいなと思ったら物販で買ってもらえれば(笑)。

小林:バンドって次にいつその街に行けるか判らないし、好きなバンドが解散しちゃったりすると、観ておけば良かったな…って思うじゃないですか? だから、今回観に来てくれないと次にいつお目にかかれるか判らないので…。

──なんでそんなに後ろ向きなんですか(笑)。

江崎:でも、今のtoddleは今しか観られないからね。

小林:そう、だから今の私達を観て下さい(笑)。

──新作のレコ発ツアーって、その時にしか聴けない新作からの曲っていうのがありますからね。後になったらなかなか聴けなくなる曲が。

田渕:そうですよね。次のツアーの時はそのアルバムからの曲を隈無くやらないですもんね。…うーん、なんて言ったらライブを観に来てもらえるんだろう?

──やっぱり、「アイドル風の振り付けもやります」じゃないですか?(笑)

田渕:いや、それはちょっと…(笑)。

吉村:物販でCDを買ってくれた人には俺がサインするよ。プロデューサーだから“P”って書いて(笑)。

小林:じゃあ、買ってくれた人と吉村さんの写真を私が撮ります。あとは…あ、独りで来ても寂しくないライブですよ、とか。

吉村:独りで来た女の子は俺と江崎がエスコートするよ、階段のところから入口まで(笑)。

© 有限会社ルーフトップ