2018年「合同会社」の新設法人調査

 2018年(1-12月)に全国で設立された法人(以下、新設法人)は9年ぶりに前年を下回ったが、「合同会社」は2万8,940社(同7.4%増)と過去最多を記録した。新設法人に占める割合も22.5%と前年比2.13ポイント上昇し、法人格別では唯一増加。2013年(1万4,434社)の2倍に増えた。
 「合同会社」の特徴は、設立の手続きが容易で、費用も安く、経営の自由度が高い。これが選択肢の大きな理由になっている。一時、大ブームとなった不動産投資案件ごとに合同会社が設立されたことも大きかった。「合同会社」は小規模のイメージが先行するが、株主総会などを開催する必要がなく、アップルの日本法人の「Apple Japan」、食品スーパーの「西友」など、外資系企業や大手企業が合同会社に変更するケースも増えている。
 「合同会社」は2006年5月施行の会社法で、従来の「有限会社」の廃止に伴い生まれた。ただ、歴史が浅いことから知名度や信用度の低さなどが課題として残される。

  • ※本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(対象345万社)から「合同会社」を抽出し、2018年1月‐12月に設立された新設法人と過去の新設法人データを分析した。
合同会社 新設法人年間推移

新設法人の4社に1社が合同会社

 2018年の新設法人のうち、「合同会社」は2万8,940社で、前年より1,994社増加した。増加率(前年比7.4%増)は、前年(同14.9%増)から7.5ポイントダウンした。不動産や太陽光発電などが1案件に1社設立する動きが背中を押したが、事業環境の悪化で減速したことが響いた。
 法人格の構成比は、「株式会社」が年々低下し2018年は68.1%だった。一方、「合同会社」は上昇が続き、2018年は22.5%と4社に1社が合同会社を選択している。

産業別 情報通信業が急増

 「合同会社」を産業別でみると、10産業のうち、7産業が前年より増加した。唯一、前年は減少だった農・林・漁・鉱業は増加(前年比9.6%増)へ転じ、建設業(同20.1%減)と卸売業(同8.1%減)、不動産業(同0.8%減)の3産業が減少した。
 構成比のトップはサービス業他が40.6%と他の産業を圧倒した。次いで、不動産業が20.6%、情報通信業8.9%、小売業8.2%、金融・保険業5.4%の順だった。

合同会社 産業別新設法人

業種別 不動産業や建設業が減少

 「合同会社」の業種別では、不動産が5,974社(構成比20.6%)でトップだった。しかし、前年から0.8%減と減少へ転じた。スルガ銀行の投資用不動産向け不正融資問題などから市況が悪化し、投資家が減少したとみられる。
 次いで、経営コンサルタントなど学術研究,専門・技術サービス業が3,820件(同13.2%)、ソフトウェア業など情報サービス・制作業が2,541社(同8.7%)の順。
 建設業は1,324社(同4.5%)で、前年から20.1%減と大幅に減少。震災の復興需要やオリンピック特需などを背景とした独立が目立っていたが、先行きを反映して減少したようだ。

都道府県別 北陸の増加が目立つ

 都道府県別では、最多は東京都の1万142社(前年比6.8%増、構成比35.0%)。次いで、神奈川県の2,158社(同6.3%増、同7.4%)、大阪府の1,890社(同3.9%増、同6.5%)と大都市圏が上位を占めたが、増加率は低位だった。
 増加率トップは、徳島県の前年比55.7%増。次いで、同じ四国の香川県の同37.4%増、岐阜県の同33.1%増と続く。一方、減少率では、佐賀県の同20.3%減が最大で、山梨県が同18.8%減、島根県が同15.6%減の順。
 地区別では、東北を除く8地区で増加した。増加率トップは、四国(571社)で前年比29.2%増。次いで、北陸(335社)が同24.5%増、中国(864社)が同10.8%増と続く。

 新設法人は9年ぶりに減少するなか、「合同会社」は年々増加をたどり存在感が増している。「合同会社」は、設立までの手続きが容易で、早く、費用も安価だ。このメリットを生かし個人企業からの法人化、案件ごとに設立する節税目的の「合同会社」が目立った。知名度や信用度では「株式会社」などの後塵を拝するが、ここにきて大手企業や外資系企業も「合同会社」の利用が増えており、認知度は徐々に上がっている。
 政府は、開業率を欧米並みの10%を目標としている。2019年6月の成長戦略実行計画案にも、事業承継に伴う第2創業や外国人起業家の創業支援、設立時や設立後の創業支援など、様々な起業に向けた支援策を講じている。
 ただ、合同会社の新設は大都市圏に集中し、建設や不動産など一過性の特需要素も強かった。今後、不動産市況が鈍化し、消費増税が実施されると「合同会社」の環境が一変する可能性も出てくるかも知れない。
 「合同会社」は設立時の過小資本を補うメリットもあり、活用次第では開業率アップの鍵になるだろう。それだけに税制改正など幅広い支援策とのタイアップが重要になってくる。人口減少が続く地方では商圏が縮小し、起業が難しい状況にある。そうした苦境を打開する一手として、「合同会社」が試金石になるかも知れない。

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