【高校野球】山梨学院打線、ボール球でも驚異のコンタクト率 データで楽しむ夏の甲子園【5日目】

大会5日目の結果一覧

関東一は土屋と谷が持ち味発揮、日本文理の2番手・長谷川はチェンジアップで空振り率42.9%を記録

 劇的なサヨナラホームランが飛び出すなど、熱戦が繰り広げられた夏の全国高等学校野球選手権大会第5日目。セイバーメトリクスの指標で各校の闘いぶりを振り返ってみます。

 指標の説明は以下の通りとなっています。

OPS 出塁率+長打率 1を超えると優れている
wOBA 各プレーの得点価値を累積して算出した打撃指標
O-swing% ボールゾーンに来た球をスイングした割合
Z-swing% ストライクゾーンに来た球をスイングした割合
Swing% スイングした割合
O-contact% ボールゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Z-contact% ストライクゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Contact% スイングした際にバットにボールが当たった割合
Zone% ストライクゾーンを球が通過した割合
SwStr% 空振り率

WHIP:1イニングあたりに許したランナーの数
P/IP:1イニングあたりに投球した球の数
GB/FB:フライに対するゴロの割合

◯関東一 10-6 日本文理

◯攻撃指標
【関東一】
打率.417 OPS 1.194 wOBA 0.521
O-swing% 26.8% Z-swing% 70.8% Swing% 47.4%
O-contact% 59.1% Z-contact% 86.3% Contact% 78.1%
Zone% 46.8% SwStr% 10.4%

【日本文理】
打率.265 OPS .699 wOBA .322
O-swing% 28.8% Z-swing% 70.1% Swing% 49.0%
O-contact% 47.8% Z-contact% 85.2% Contact% 74.0%
Zone% 49.0% SwStr% 12.7%

◯関東一 投手の各指標
土屋大和
4イニング 打者数22 投球数76 
WHIP 2.25 P/IP 19.00 GB/FB 1.00
ストレート46.1% スライダー30.3% チェンジアップ17.1%
Zone% 52.6% 空振り率 10.5%

谷幸之助
5イニング 打者数20 投球数81 
WHIP 1.20 P/IP 16.20 GB/FB 2.67
ストレート55.6% スライダー28.4% チェンジアップ9.9%
Zone% 45.7% 空振り率 14.8%

◯日本文理 投手の各指標
南隼人
4イニング 打者数27 投球数94 
WHIP 3.75 P/IP 23.50 GB/FB 0.62
ストレート43.6% カットボール44.7%
Zone% 46.8% 空振り率 6.4%

長谷川優也
4イニング 打者数18 投球数60 
WHIP 1.50 P/IP 15.00 GB/FB 1.17
ストレート43.3% スライダー31.7% チェンジアップ23.3%
Zone% 46.7% 空振り率 16.7%

 15安打1本塁打、OPS1.194と猛打で10得点した関東一高が二転三転のゲームを制しました。4得点を挙げた4回裏の攻撃を見てみると、土屋投手のストレートに狙いを定め、本塁打、二塁打2本と長打を生み出しました。また四死球3つも絡んだことで大きく得点を重ね、2点を先制されたビハインドをはねのけ試合の主導権を握るきっかけとなりました。

 また地方大会では交互に先発投手を担ってきた土屋、谷の両投手がこの試合では先発・土屋、救援・谷というリレーで登板しました。土屋投手はチェンジアップで23.1%、谷投手はスライダーで21.7%の空振り率とそれぞれの持ち味を発揮しました。特に谷投手は与四死球5とコントロールは不安定でしたが、GB/FBが2.67とゴロで丁寧に打ち取り、日本文理の後半の攻撃を押さえました。

 日本文理の2番手、長谷川投手はスライダーで15.8%、チェンジアップで42.9%もの空振りを奪取するなど変化球にキレを見せていました。

山梨学院の打線はストライクゾーンに来た球のコンタクト率95.2%

◯熊本工 3-2 山梨学院

◯攻撃指標
【熊本工】
打率.205 OPS .621 wOBA 0.304
O-swing% 22.6% Z-swing% 71.8% Swing% 50.0%
O-contact% 50.0% Z-contact% 89.3% Contact% 81.4%
Zone% 55.7% SwStr% 9.3%

【山梨学院】
打率.250 OPS .548 wOBA .273
O-swing% 15.9% Z-swing% 60.0% Swing% 39.9%
O-contact% 71.4% Z-contact% 95.2% Contact% 90.9%
Zone% 54.4% SwStr% 3.6%

◯熊本工 投手の各指標
蓑茂然
5イニング 打者数22 投球数90 
WHIP 1.20 P/IP 18.00 GB/FB 3.00
ストレート58.9% スライダー26.7%
Zone% 54.4% 空振り率 3.3%

村上仁将
7イニング 打者数28 投球数103 
WHIP 1.14 P/IP 14.71 GB/FB 0.92
ストレート52.4% スライダー25.2% チェンジアップ11.7% カーブ 10.7%
Zone% 54.4% 空振り率 3.9%

◯山梨学院・相沢利俊投手の各指標
11回1/3 打者数43 投球数140 
WHIP 0.97 P/IP 12.35 GB/FB 1.06
ストレート60.7% スライダー22.9% カーブ 8.6% チェンジアップ7.9%
Zone% 55.7% 空振り率 9.3%

 セイバーメトリクスの指標でみると、山梨学院のコンタクト率の高さが目立ちます。ストライクゾーンに来た球をスイングした際のコンタクト率95.2%もさることながら、ボールゾーンに来た球をスイングした際のコンタクト率71.4%はこれまでのチームの中でも突出している数値です。ストライクゾーンからボールゾーンに逃げる変化球にもなんとか対応し空振りせず、しっかりバットにボールを当てている様子が伺えます。

 試合はそれぞれ得点したイニングが1つのみの緊迫した投手戦となりました。11回終了しても2-2とあい譲りません。12回までで山梨学院の先発・相沢投手は134球を投じていました。そのうち71%は外角と徹底的にコントロールされた投球術で凌いできました。12回裏を乗り切れば13回からはタイブレーク制に入るという状況。1アウトをとって迎えるバッターは7番・山口選手。ここまでの4打席は全て凡退だったのですが、その初球はすべてストレートが投じられていました。そのことが山口選手の頭の片隅にあったのでしょうか、第5打席の初球、前の打席と同じようなコースに投げられたストレートをフルスイング。快心のスイングから放たれた打球はバックスクリーンに飛び込み、緊迫の試合に決着をつけました。

岡山学芸館は丹羽のアクシデント後に登板した中川がストレート主体で好投

◯岡山学芸館 6-5 広島商

◯攻撃指標
【岡山学芸館】
打率.333 OPS .761 wOBA 0.342
O-swing% 22.5% Z-swing% 56.3% Swing% 38.5%
O-contact% 56.3% Z-contact% 83.3% Contact% 75.0%
Zone% 47.4% SwStr% 9.6%

【広島商】
打率.258 OPS .681 wOBA .329
O-swing% 25.7% Z-swing% 63.4% Swing% 44.7%
O-contact% 72.2% Z-contact% 97.8% Contact% 90.5%
Zone% 50.4% SwStr% 4.3%

◯岡山学芸館・中川響投手の各指標
8イニング 打者数35 投球数130 
WHIP 1.25 P/IP 16.25 GB/FB 0.88
ストレート65.4% スライダー16.2% フォーク15.4%
Zone% 51.5% 空振り率 4.6%

 こちらも第1試合と同様、二転三転のゲーム展開でしたが、8回に4安打の集中打で3得点し、逆転に成功した岡山学芸館が甲子園初勝利を手にしました。その集中打において得点を決めた中川選手のヒットと岩端選手の二塁打はスライダーを狙い打ったものでした。

 岡山学芸館の先発、丹羽投手が打球を顔面に受け退場というアクシデントの中、緊急登板となった中川投手でしたが、65.4%の割合で投じられたストレート主体のピッチングで交代完了となりました。

 広島商の打線は山梨学院と同様、Z-contact%「97.8%」、O-contact% 「72.2%」の高コンタクト率で食らいついていました。しかし終盤8回、9回はじっくり球を球を見すぎたせいか2ストライクまで追い込まれてからのバッティングとなってしまい、効果的に安打を放つことができず敗戦となってしまいました。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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