【高校野球】明石商・中森、絶妙だった変化球の使い方 データで楽しむ夏の甲子園【6日目・第3、4試合】

大会6日目の試合結果

中京学院大中京、序盤は苦しんだスライダーを狙い打って7回に集中打

 夏の全国高校野球選手権大会第6日(11日)の第3、第4試合は、いずれも4-3のスコアで決着しました。セイバーメトリクスの指標で各校の戦いぶりを振り返ってみます。

 指標の説明は以下の通りとなっています。

OPS 出塁率+長打率 1を超えると優れている
wOBA 各プレーの得点価値を累積して算出した打撃指標
O-swing% ボールゾーンに来た球をスイングした割合
Z-swing% ストライクゾーンに来た球をスイングした割合
Swing% スイングした割合
O-contact% ボールゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Z-contact% ストライクゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Contact% スイングした際にバットにボールが当たった割合
Zone% ストライクゾーンを球が通過した割合
SwStr% 空振り率

WHIP:1イニングあたりに許したランナーの数
P/IP:1イニングあたりに投球した球の数
GB/FB:フライに対するゴロの割合

○中京学院大中京4-3北照

【中京学院大中京】
打率.273 OPS.732 wOBA.363
O-swing% 36.2% Z-swing% 60.6% Swing% 44.7%
O-contact% 50.0% Z-contact% 95.0% Contact% 76.5%
Zone% 43.4% SwStr% 10.5%

【北照】
打率.226 OPS.584 wOBA.267
O-swing% 30.8% Z-swing% 67.6% Swing% 48.7%
O-contact% 66.7% Z-contact% 88.0% Contact% 81.1%
Zone% 48.7% SwStr% 9.2%

【中京学院大中京・不後祐将投手】
5回2/3 打者数22 投球数96
WHIP 0.88 P/IP 16.94 GB/FB 3.67
ストレート57.3% スライダー12.5% カットボール15.6% カーブ11.5%
Zone% 50.0% 空振り率 10.4%

【北照・桃枝丈投手】
8回 打者数40 投球数152
WHIP 1.75 P/IP 19.00 GB/FB 1.70
ストレート34.2% スライダー54.6% チェンジアップ11.2%
Zone% 43.4% 空振り率 10.5%

 結果的には7回に2本の二塁打と3本の単打で4点を挙げた中京学院大中京が接戦をものにしました。6回までは北照の桃枝投手の変化球にタイミングが合わず空振りしていました。桃枝投手はスライダーで13.3%、チェンジアップでは23.5%の空振りを奪っています。またO-swing% 32.6%とボール球に手を出す傾向も見受けられました。

 6回に先制された中京学院大中京ですが、7回の攻撃ではコントロールが甘くなった桃枝投手のスライダーに狙いを定めて安打を連ね、一気に試合の主導権を握りました。

 北照は、中京学院大中京の3投手から各1点ずつ奪う効果的な攻撃で試合終盤まで互角の勝負をしましたが、ビッグイニングを作ることはできず夏の甲子園初勝利には手が届きませんでした。

明石商、外角攻めにコツコツ対応してシーソーゲームを制す

○明石商4-3花咲徳栄

【明石商】
打率.300 OPS.777 wOBA.413
O-swing% 14.0% Z-swing% 63.9% Swing% 43.4%
O-contact% 42.9% Z-contact% 93.5% Contact% 86.8%
Zone% 59.0% SwStr% 5.7%

【花咲徳栄】
打率.188 OPS.538 wOBA.278
O-swing% 34.8% Z-swing% 60.9% Swing% 48.1%
O-contact% 65.2% Z-contact% 88.1% Contact% 80.0%
Zone% 50.4% SwStr% 9.8%

【明石商・中森俊介投手】
9回 打者数36 投球数135
WHIP 1.00 P/IP 15.00 GB/FB 1.08
ストレート 46.7% スライダー25.2% チェンジアップ16.3% フォーク8.1%
Zone% 50.4% 空振り率 9.6%

【花咲徳栄・中津原隼太投手】
6回 打者数2 投球数91
WHIP 1.50 P/IP 15.17 GB/FB 2.14
ストレート68.1% スライダー20.9% シュート7.7%
Zone% 56.0% 空振り率 5.5%

 シーソーなら6回ほどギッコンバッタンと揺れるほどの、まさにシーソーゲームを繰り広げた明石商と花咲徳栄ですが、打撃指標で見ると大きく明石商に傾いていることが分かります。

 花咲徳栄の投手陣は70.5%もの割合で外角に球を集中させ、アウトサイドの球の出し入れで揺さぶりをかけようとした様子が伺えます。しかし明石商打線はO-swing%「14.0%」とボール球に手を出さず、空振り率も5.7%とコツコツ当てて応戦してきました。5回以降、得点に絡んだヒット6本のうち5本は外寄りのストライクゾーンに入ったボールをしっかり打ち返していました。

 明石商の中森投手は多彩な球種で、花咲徳栄打線を被打率.188に抑えました。チェンジアップでは18.2%の空振りを奪取。さらに7回、本塁打で同点に追いつかれた後、この試合2安打と好調だった2番打者、橋本選手に3球フォークで空振り三振を奪うなど、勝負所での変化球の使い方が絶妙でした。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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