壮絶シーソーゲームも、八戸学院光星の打力が智弁学園を大きく上回る
12日に行われた夏の全国高校野球選手権大会第7日第3試合(八戸学院光星対智弁学園)、第4試合(高岡商対神村学園)を、セイバーメトリクスの指標で振り返ります。
指標の説明は以下の通りとなっています。
OPS 出塁率+長打率 1を超えると優れている
wOBA 各プレーの得点価値を累積して算出した打撃指標
O-swing% ボールゾーンに来た球をスイングした割合
Z-swing% ストライクゾーンに来た球をスイングした割合
Swing% スイングした割合
O-contact% ボールゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Z-contact% ストライクゾーンに来た球をスイングした際にバットにボールが当たった割合
Contact% スイングした際にバットにボールが当たった割合
Zone% ストライクゾーンを球が通過した割合
SwStr% 空振り率
○八戸学院光星 10-8 智弁学園
【八戸学院光星】
打率 .419 OPS 1.107 wOBA .478
O-swing% 25.3% Z-swing% 56.8% Swing% 40.9%
O-contact% 61.9% Z-contact% 95.7% Contact% 85.1%
Zone% 49.4% SwStr% 6.1%
【智弁学園】
打率 .222 OPS .683 wOBA .401
O-swing% 30.3% Z-swing% 61.6% Swing% 44.4%
O-contact% 33.3% Z-contact% 73.3% Contact% 58.3%
Zone% 45.1% SwStr% 18.5%
八戸学院光星の2投手の指標
○横山海夏凪 5回1/3 打者数26 投球数92
WHIP 1.69 P/IP 17.25 GB/FB 1.80
ストレート44.6% スライダー 34.8% チェンジアップ15.2% カーブ5.4%
Zone% 42.4% 空振り率 14.1%
○山田怜卓 3回2/3 打者数20 投球数73
WHIP 2.18 P/IP 19.91 GB/FB 2.00
ストレート47.9% スライダー 26.0% チェンジアップ24.7%
Zone% 47.9% 空振り率 23.3%
壮絶な得点の取り合いとなった試合に見えますが、打撃指標を見ると八戸学院光星のOPSが1.107に対し、智弁学園は.683と大きな打力の差が見られま
す。
八戸学院光星投手陣は、5回までは智弁学園打線に対して被安打2、O-swing%31.7%、空振り率18.3%と抑えこんでいました。ただ、6回裏は2四球2死球と自滅した部分はあるものの、打ち取った打球が味方の失策にイレギュラーで二塁打になったあたりが2本と、不運も重なって大量失点(7点)につながってしまいました。それでも、7回以降はエースナンバーを背負った山田投手が空振り率23%の快投で、被安打2、奪三振5と智弁学園に追加点を与えませんでした。
同点で迎えた9回表、智弁学園の3番手・西村投手は70%がストレートという組み立てで八戸学院光星打線に相対しました。2死満塁で打席に立ったのは今大会初打席の沢波選手。初球のストレートを読み切ったのが、内角のベルト付近に入った129キロを渾身のスイングで振り抜き、一塁強襲の2点適時打で再逆転に成功。勝利に大貢献の1打席となりました。
打撃スタイルは好対照 積極スイングの高岡商が、じっくり型の神村学園を破る
○高岡商 4-3 神村学園
【高岡商】
打率 .345 OPS .823 wOBA .357
O-swing% 48.5% Z-swing% 76.1% Swing% 59.8%
O-contact% 50.0% Z-contact% 91.4% Contact% 71.6%
Zone% 41.1% SwStr% 17.0%
【神村学園】
打率 .206 OPS .456 wOBA .242
O-swing% 18.4% Z-swing% 69.6% Swing% 48.3%
O-contact% 88.9% Z-contact% 95.8% Contact% 94.7%
Zone% 58.5% SwStr% 2.5%
高岡商・荒井大地投手の指標
9回 打者数37 投球数118
WHIP 1.00 P/IP 13.11 GB/FB 0.88
ストレート60.0% カーブ 22.6% スライダー 17.4%
Zone% 58.5% 空振り率 2.5%
神村学園・田中瞬太朗投手の指標
7回 打者数29 投球数103
WHIP 1.57 P/IP 14.71 GB/FB 0.91
ストレート31.1% スライダー 36.9% チェンジアップ18.4% カーブ11.7%
Zone% 38.8% 空振り率 18.4%
終わってみれば1点差の好ゲームでしたが、打撃指標で両チームを比較すると大きな差が生じていました。バッティングのタイプも両極端で、高岡商はO-swing%48.5%、空振り率17.0%とかなりストライクゾーンを広めに取って積極的にスイングしていくスタイル。一方、神村学園は6回まではO-swing%12.0%、Contact%100%と球をじっくり見極め、打てるボールを確実に捉えるスタイルで応戦していました。
高岡商の荒井投手はストレート主体の投球で、空振り率は少ないものの打たせて取るスタイルで完投しました。
守備陣も好プレーで荒井投手をバックアップしました。9回裏2死、神村学園・松尾将太選手がフライを打ち上げて誰もが試合終了と思った瞬間、二塁手がまさかの落球。これまで支えてきた守備陣のミスで一転してピンチに陥ります。1点差に迫られ、迎える打者は森口修矢選手。荒井投手の投じた118球目、127キロのストレートを打ち返した打球はセカンドの元へ。これを無事に処理して2年連続の3回戦進出を決めました。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。