女性アスリート ひと昔前は“ないのが普通”の競技も 競技も人生も大切に 2020国際女性デー

選手と指導者が月経と体の関係を理解することは、健康に競技へ打ち込む環境づくりにつながる(写真はイメージ)

 3月8日は国連が定める国際女性デー。女性の地位向上や差別撤廃について考える日です。それが実現する先には、性別にとらわれず誰もが自分らしく生きられる社会があるはずです。一方で、多くの女性には毎月の月経(生理)があり、否が応でも「女性」である自分と向き合うことになります。現代の女性たちにとって、月経はどんな存在なのでしょうか。恥ずかしいもの? 邪魔なもの? ジェンダーフリーの壁でしかないの? そんな疑問を込めて、県内の布ナプキン専門店を営む女性やアスリート、働く女性たち、そして、彼女たちの月経の悩みに寄り添う産婦人科医に話を聞きました。

 ひと昔前の陸上女子長距離界。「生理がこないのが、よく練習している証拠」。こんな言葉を口にする指導者もいたという。それは、選手が運動量に見合ったエネルギーを取り切れずに、月経が止まった状態。現在はスポーツ界の月経に対する認識の甘さが問題視され、女性アスリートが健康に競技へ打ち込める環境づくりが進みつつある。
 では、女子選手が無月経になることの危険性はどこにあるのか。国立スポーツ科学センター(JISS)の「女性アスリート指導者のためのハンドブック」によると、まず健康管理における問題として「利用可能エネルギー不足」「無月経」「骨粗しょう症」の三つがあり、それぞれの発症は関連している=図=。
 エネルギー消費量(運動)に対して、摂取量(食事など)が不足した状態が続くと、月経に関わる女性ホルモン「エストロゲン」の分泌が低下。エストロゲンは骨の成長に大事なホルモンでもあり、その低下によって骨量が低くなる要因になると考えられている。無月経は疲労骨折のリスクを高め、将来的な骨の健康にまで影響を及ぼしかねない。

■食べて動く
 JISSの2014年の調査で無月経の割合を競技別に見ると、最も高かったのが体操。それに新体操、フィギュアスケート、陸上長距離、トライアスロンと続き、体脂肪率が低くなる傾向にある審美系や持久系の競技が上位を占めた。
 県内在住で日本代表も経験した30代の元体操選手は、幼いころから両親が営む体操クラブで指導を受けてきた。母親は栄養バランスや時間帯に応じた量などを工夫した食事を提供。「しっかり食べてしっかり動く」という指導方針のおかげか、中学時代に月経が始まり、止まることはなかった。
 だが、日本代表だった20代前半のころ、年下も含めたメンバーは「ほぼ生理がなかった」。一方で自身は月経痛がひどく、よく試合と重なっていた。でも、そんなときは痛みを我慢せずに適切な方法で鎮痛剤を飲むなど、月経とうまく付き合いながら競技生活を送った。今は1児の母となり、自らが学んだ体操クラブで子どもたちを育成している。

女性アスリート三つの主な症状

■ケアが重要
 長崎を拠点とする陸上長距離の実業団チームは、選手の月経に関わる体のケアを重んじている。月経が不安定だったり、一時停止の状態にあったりする選手は、定期的に婦人科へ通院、治療しながら練習する。
 割合的に見ると、その多くが高校卒業、大学卒業から数年内の選手たち。過去には大卒1年目ながら、初経がまだという選手もいた。女性コーチは「“生理はないのが当たり前”という感覚だった子もいる」と現状を憂う。
 ただ、体を絞ると走りが軽くなり、脚への負担が減って故障しにくくなるのも事実。そこでチームは、女性アスリートの負のスパイラルに陥らないように意識付けするとともに、骨密度を上げるトレーニングなども取り入れている。
 女性コーチは「選手として強くなるのは大事だけれど、その後の一人の女性としての人生も大切にしてあげたい」と思いを口にする。同時に「まずは大事な成長期に当たる中高生の指導から、月経と体について選手と一緒に理解しながら育ててほしい」と願っている。


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