大沢誉志幸とデヴィッド・ボウイの重なり合う情景、君は一人じゃない! 1984年 2月25日 大沢誉志幸のアルバム「SCOOP」がリリースされた日

忘れられないシティポップ、銀色夏生と大沢誉志幸の「CAB DRIVER」

1979年、松原みきの「真夜中ドア」がシティポップと80年代の扉をこじ開けたのかも… と思っている。さておき、70年代後半から80年代初頭はフォークからニューミュージックへの変革期だったが、シティポップはそのニューミュージックから湿り気を抜いて、それでいて潤いがある音楽だった。

とにかく輝いていた!

地方少年からしてみれば「何か面白い事が起こっているこの波に乗り遅れるな!」って魂が叫んでる毎日だった。当時は派手な曲に耳が行きがちで、たとえば、大滝詠一『A LONG VACATION』のキラキラ、ワクワク、ドキドキ感。俺たちはお洒落な大人になって恋や仕事に大活躍する… そんな気にさせられる感じ。

そんな中で、どうしても忘れられない歌手と1曲がある。それが大沢誉志幸。有名過ぎるだろ!って感は否めない。しかし、僕の忘れられない曲はあまり有名ではない。その曲名は「CAB DRIVER」。彼のセカンドアルバム『SCOOP』のラストに収録されている地味な曲だが、一度聴いたら忘れられない銀色夏生の歌詞と大沢誉志幸のメロディ。

84年の大沢誉志幸に捨て曲なし!すべてが名曲だった2枚のアルバム

この『SCOOP』というアルバムには捨て曲がない。それどころか全て不朽の名作と言っても良い作品だ。そして「CAB DRIVER」という楽曲は、図らずも当時の僕の未来を予言したかのような曲に仕上がっている。まるで長編映画のラストシーンのようだ。

その後、大沢誉志幸は、80年代の若者なら誰もが知っている名曲「そして僕は途方に暮れる」を収録したアルバム『CONFUSION』をリリース。2月に『SCOOP』、7月に『CONFUSION』。どちらも名曲揃いで、84年の大沢誉志幸の才気と創作意欲は溢れんばかりだった。両アルバムに共通するのは、銀色夏生の情景を想起させる詩作の素晴らしさ。

同じく都会の孤独と哀愁を描いた、土屋昌巳の名曲「東京バレエ」(作詞は竜真知子)がリリースされたのは85年。これを思うと、銀色夏生と大沢誉志幸はことごとく時代を先取りしていたことになる。

見た目重要!音楽とファッションを融合させた大沢誉志幸

大沢誉志幸、彼のスタイルは新しかった。たとえば、セカンドアルバム『SCOOP』は河口湖スタジオでのレコーディングだが、サードアルバム『CONFUSION』はマンハッタンのザ・パワー・ステーションで行い、ファンクやソウルをいち早く取り入れていた。

そして、重要なのは見た目。

当時のシティポップ勢は、曲はメチャメチャ洒落てるのに見た目がフォークな人が多かった。ところが彼は違った。ルックスもイケてる上にスーツ姿だった。ジャズメンが着ているようなコンポラスーツを着てそうに思えるが、大沢が身にまとっていたのは当時大流行していたDCブランド。

ステージに上がるのにタイを締め、ハットまで被り最先端のスーツを難なく着こなしソウルやファンクを極東のキッズにも分かりやすく伝えてくれた。そう、音楽とファッションは融合するんだと。だから、僕の中では大沢誉志幸こそが “東京シティポップ” の代表なんだ!

デヴィッド・ボウイ「ロックン・ロールの自殺者」と重なり合う情景

そもそも僕にとって「CAB DRIVER」は何故特別な曲だったのか? 昭和も平成も終わり、50才を迎えた令和元年。仕事では常に最前線を志願してきたが、あと何年出来る? それ以上生きたなら何をする? 引退したらタクシーの運転手も悪くないぞ! そう考えたとき、デヴィッド・ボウイのアルバム『ジギー・スターダスト』の最終曲、「ロックン・ロールの自殺者(Rock'N'Roll Suicide)」が頭をよぎる。

 さあ 気をしっかり
 もう君は一人じゃない
 しっかりしよう
 もう君は一人じゃない
 さあ 手を出して 君は素敵だもの
 さあ 俺に君の手を差し伸べてくれ

それに重なり合うように、ふと浮かび上がる「CAB DRIVER」の情景。

 ずっと昔に一度だけ
 追いかけられた夢がある
 別れた人はもう 帰らない
 喜びはさりげなく通り過ぎる
 あなたはきっと ひとりじゃない

そうか!「CAB DRIVER」は、僕にとって「ロックン・ロールの自殺者」だったのだ。かつて栄光の時代を過ごし、駆け抜けた者が時代の波や流行に左右され、表舞台から姿を消すことになっても… これまで君が何であって、誰であって、いつどこにいたのだろうと… それでも君は一人じゃない。そんな内容を「CAB DRIVER」はリプライズしている。

カタリベ: inassey

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