原爆資料館が臨時閉鎖 平和行事や講話も延期、中止 長崎の被爆者ら「命が第一 やむを得ない」

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、長崎市は10日、長崎原爆資料館(平野町)などの臨時閉鎖に踏み切った。期間は28日まで。被爆の実相を伝える同館がこれほど長期に閉鎖されるのは、1996年の開館以来初めて。被爆75年の節目の今年は、新型コロナの影響で平和関連行事や被爆体験講話の中止、延期なども相次ぐ。高齢化した被爆者からは「残念だが命が第一。やむを得ない」と複雑な声が漏れる。
 10日午前10時、同館入り口に「長崎からのメッセージ」が掲示された。自分が当事者だと自覚すること、結末を想像し、行動に移すこと-。新型コロナも、核兵器も、世界規模の問題に立ち向かう時の根本は同じだとのメッセージだ。「みんなに考えてもらう契機になるよう『被爆75年』をいろいろな方法で発信していきたい」と篠崎桂子館長は話す。13日には市役所の外壁に被爆75年の周知看板も設置する。
 新型コロナの感染拡大は市の75年記念事業なども直撃している。2017年のノーベル平和賞授賞式で被爆者として初めて演説したカナダ在住のサーロー節子さん(88)が5月に市内で予定していた講演会は延期。4、5月に米ニューヨークの国連本部で開催予定だった核拡散防止条約(NPT)再検討会議も延期となり、高校生平和大使らの派遣も取りやめになった。
 長崎原爆被災者協議会(長崎被災協)は、被爆体験講話を7月末まで中止。田中重光会長は、一連の状況を「仕方がない」と受け止め、「大半の修学旅行は秋以降に延期された。子どもたちが長崎で平和を学べるように、そのころまでには終息のめどが立っていてほしい」と願うように話す。
 修学旅行生らに被爆体験を話している田中安次郎さん(77)も「(中止の間を)充電期間に充て、勉強し直している。新型コロナで世界的に命への意識が高まっている今、早く皆さんにお話ししたい」と語った。
 新型コロナの終息が見通せない中、8月9日の平和祈念式典に関し、田上富久市長は開催方針を示す一方、式典の参列者数や開催時間などについて「規模縮小を検討していく必要もある。5月中に内容を固めたい」としている。
 市は同館を含め、47の市有施設を10日から一斉閉鎖。29日以降の対応については状況を踏まえて判断する。

 


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