ダイアナ・ロスとシックのガチンコ対決、勝ったのはどっち? 1980年 6月20日 ダイアナ・ロスのシングル「アップサイド・ダウン」がリリースされた日

ダイアナ・ロスの偉大な記録、シングル1位獲得、その数 “18”

2019年の年末のことだ。日本でもお馴染み、マライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス(All I Want For Christmas Is You)」が、ビルボードのHot100(全米シングルチャート)でNo.1を獲得した。リリースされたのは1994年なので、なんと25年もかかったことになる。

これによってマライアのNo.1獲得曲数が “19” になり、彼女は女性アーティスト歴代単独トップとなったのだが、これがどのくらい凄いことなのかは、他のスター達と比較すれば明らかだ。例えば、マドンナのNo.1ヒットは12曲、ホイットニー・ヒューストンは11曲で、ジャネット・ジャクソンは10曲だが、残念ながらこれらの記録が更新されることはないだろう。

マライアに追い付く可能性があるとしたら、現時点では、14曲のNo.1を持つリアーナと、10曲のビヨンセ(デスティニーズ・チャイルド時代の4曲を含む)しかいないのではないか。

ところで、皆さんは、マライアの前にこの “偉大な” 記録を持っていたのが誰か、ご存知だろうか? そう、もちろんダイアナ・ロスである。

彼女は、1964年から69年の間にシュープリームスのメンバーとして12曲、70年から81年にかけてソロとして6曲がNo.1となっている。通算No.1獲得曲数は “18” で、まさに元祖 “女王” であった。もう殆ど半世紀前の話である。

最大のヒット曲「アップサイド・ダウン」プロデューサーはシックの2人

そんな彼女のキャリア最大のヒット曲が、80年にリリースされた「アップサイド・ダウン」なのだが、実はこの曲が世に出るまでには、紆余曲折があったと言われている。

「アップサイド・ダウン」が収録されたアルバム『ダイアナ』は、当時ディスコシーンを席巻していたファンクバンド、シックのナイル・ロジャース(ギター)とバーナード・エドワーズ(ベース)の2人をプロデューサーに迎えたことでも話題になった。なんでも、ダイアナ本人の希望だったそうだ。

その頃のシックと言えば、77年にデビューしてすぐに「おしゃれフリーク(Le Freak)」「グッド・タイムス」と立て続けにNo.1ヒットを飛ばし、まさに時代の寵児となっていた。

一方のダイアナは、76年に「ラヴ・ハングオーヴァー」でNo.1を獲得して以降しばらくヒット作に恵まれず、彼女にとって初めて経験する停滞気味な時期にあった。だからこそ、シックのような「時代の音」を取り入れて、流れを変えようとしたのかもしれない。

なんとモータウンから却下! ナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズの心中いかに?

だが、実はナイルとバーナードの2人がダイアナのような大スターと仕事をするのは、この作品が初めてのことだった。そのせいもあってか、彼らが完成させたトラックは、ダイアナと彼女の所属レーベルであったモータウンに却下されてしまう。

理由は、シック色が強すぎて、彼女の歌が前面に出ていないということであった。要するに “女王” であるダイアナが、若手バンドの一つに過ぎないシックの後ろに隠れる訳にいかなかったのだろう。

結局、モータウンは所属プロデューサーのラス・テラーナにミックスの手直しを指示。彼はほぼ一人でダイアナが望む形に仕上げたのだった。ショックを受けたシックの2人は、自分たちのクレジットを外すように申し入れたそうだが、最終的には「Produced by Bernard Edwards and Nile Rodgers」と書かれてリリースされた。

この一連のエピソードは、当時から色んな所で語られていたので僕も知ってはいたが、同時にとても不思議に感じていた。と言うのも、シック版を却下してまで作り直したモータウン版が、既に十分にシック感満載だったからだ。だから、一体オリジナルのシック版はどんなサウンドだったのだろう、というのが僕にとって長らくの謎であった。

日の目を見た “オリジナル・シック・ミックス” その力量は?

この謎が解明したのは、リリースから23年後の2003年のことである。アルバム『ダイアナ』がリマスター&リミックスされて “デラックス・エディション” として発表された際に、全8曲の “オリジナル・シック・ミックス” が日の目を見ることになったのだ。

実際にモータウン版とシック版を聴き比べてみると、全体的にシック版の方が曲が長い。サウンド的には驚くほどの違いはなかったが、やはりシック版の方はギターやベースがしっかり鳴っていて、まるでシックにダイアナがボーカリストとして加入したかのように感じる。

これがシックの作品だったとしたら、文句なく合格点だ。でも、2人がプロデューサーとしてダイアナの個性を際立たせるようなプロフェッショナルな仕事をしたかと言うと、本人たちが認めているように、正直まだまだだと思う。現に、後に2人がプロデューサーとして生み出した作品群ほどには洗練されていない。なお、僕は元々ナイルとバーナードの2人がプレーヤーとして大好きなので、圧倒的にシック版の方が好みである。

商業的には大成功、世界的プロデューサーになっていく2人

いずれにせよ、このアルバムからはダイアナのキャリア最大のヒット曲が生まれた訳で、商業的には大成功だったと言える。だが、ヒットの理由がモータウン版を採用したからかと言うと、必ずしもそうではないと思う。ミックス以前の楽曲の良さだったり、時代背景、彼らの知名度や組合せの意外さ、等々が重なってのことなのではないだろうか。

その後、ダイアナは82年に長年貢献してきたモータウンを離れ(89年に復帰)、ナイルはデヴィッド・ボウイやマドンナの作品で、バーナードはデュラン・デュランやロバート・パーマ-の作品で、世界的プロデューサーとして評価されるようになる。結局、この作品で得をしたのはダイアナ? それともシックの2人? 一体どっちだったのだろう。

Song Date
■ Upside Down / Diana Ross
■ 作詞・作曲:Bernard Edwards, Nile Rodgers
■ プロデュース:Bernard Edwards, Nile Rodgers
■ 発売:1980年6月20日

Billboard Chart
■ Love Hangover / Diana Ross(1976年5月29日 全米1位)
■ Le Freak /Chic(1978年12月9日 全米1位)
■ Good Times / Chic(1979年8月18日 全米1位)
■ Upside Down / Diana Ross(1980年9月6日 全米1位)
■ All I Want For Christmas Is You / Mariah Carey(2019年12月21日 全米1位)

Billboard(Album)
■ Diana / Diana Ross(1980年10月4日 全米2位)

カタリベ: 中川肇

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