【国内トップドライバーオフインタビュー山下健太】英会話勉強のおすすめはワイルドスピード。チャンピオン獲得に向け手に入れた強力体制への思い

 新型コロナウイルス禍において、国内レースの開幕が遅れている。そんな中、国内のトップドライバーたちはどのように“おうち時間”を過ごしているのか。普段の生活の様子やトレーニング事情、そして来たる開幕戦に向けての意気込みについてリモート取材を行った。
 第2回は2019年のスーパーGT GT500クラスでチャンピオンを獲得し、2020年はスーパーフォーミュラとWECに参戦する山下健太に話を聞いた。山下は年明けにドイツに居を移していたが、現在の状況を受けて一時日本へ帰国中とのこと。困難な状況ではあるが日本での暮らしを満喫しているようだ。

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Q:スーパーフォーミュラの富士テスト以降、自粛期間に入りましたが、どのような生活をされていますか?山下健太(以下:山下):WECのセブリングが中止になってしまったあと日本に帰国し、スーパーフォーミュラのテスト以降は実家で過ごしています。本来だとドイツに住みながら英語を学んでいるはずだったのですがそれができなくなってしまったので、いまは英語を学ぶことを中心に毎日を過ごしていますね。でもそれだけでは気分が滅入ってしまうので、シミュレーターを本格的に始めようと思い機材等をそろえて準備している最中です。

Q:英語の勉強はどのようにやられているのでしょうか?山下:正直、どうすれば英語を話せるようになるのかが分からないんです(苦笑)。とりあえず、いまは対面でのレッスンが受けられないのでオンラインレッスンを受けています。画面を通してですが、身振り手振りもちゃんと伝わるので特に問題もなくできています。あとは勉強のために映画も見ていますね。

Q:どんな映画を見ているんですか?山下:やはりクルマ系ということで『ワイルドスピード』がいいですね。過去に一度、吹替バージョンを見ているものだとだいたい内容が分かります。そのうえで、今度は英語バージョンで見るとなんと言っているのかが分かるんです。好きな映画だと楽しみながら勉強もできるので、これはおすすめですよ。あとは『フォードvsフェラーリ』も見ましたね。最後、ケン・マイルズが死んでしまうシーンは泣きました。他にもNetflixやAmazonプライムなども見られるようにしたので、いろいろな映画や動画を駆使して勉強しています。

Q:英語の勉強とシミュレーター以外で何か新しく始めたことはありますか?山下:特には何もないですね。ドイツにいたときは料理もしていたのですが、日本に帰ってきてからは実家にいるので甘えています。

Q:ドイツではどんな料理を?山下:炊飯器をもらっていたので、毎日ご飯は炊いていました。あと苦労したのがお肉ですね。日本では薄切りのお肉が売っていますが、ドイツには厚切りのお肉しかないんですよ。野菜炒めが好きなのでよく作っていたのですが、厚切りのお肉を頑張って薄く切っていました(笑)。ソースも日本と違ってあまりいいものがないので自分で調味料をいろいろ混ぜて作っていましたね。ドイツに行く前に比べれば料理の腕は少しだけ上達したかなと思います。日本ではコンビニとかスーパーに行けばできあがっているお惣菜が売られていてすごく便利ですよね。でもドイツにはそれがなかった。あらためて日本の環境の良さと、日本食のおいしさを実感しました。

■本格的なシミュレーター環境を手に入れて感覚を養う

Q:冒頭でシミュレーターを本格的に始めるというお話しがありましたが、グランツーリスモSPORTは以前からやられていましたよね?山下:そうですね。グランツーリスモSPORTはやっていましたが、逆に言うとそれしかやっていなかったという感じです。今回はグランツーリスモSPORTよりも実車に近いiRacingにチャレンジしてみようと思っています。過去にシミュレーターショップでやらせてもらう機会があったのですが、月に一回やるか、やらないかぐらいの頻度でした。だからこれからは自宅で毎日シミュレーターをやって、少しでも運転する感覚が衰えないようにしたいと思っています。

Q:さまざまなソフトウェアがあるなかで、なぜiRacingをやろうと思われたんですか?山下:最近iRacingのオンラインレースに参加させてもらう機会があったのですが、とてもクオリティが高かった。少し当たったらすぐ壊れたりしますし、一番驚いたのはラグの少なさですね。シミュレーターはパソコンを使用しているのでどうしてもラグが発生してしまう。グランツーリスモSPORTだとそのラグの影響で、少し動きがカクカクしてしまう部分がありますが、iRacingほぼ実車と同じ感覚でスムーズに動くんです。クルマの走らせ方もリアルに近いと感じたので、とてもいい練習になると思います。

山下が自宅で準備を進めているというシミュレーター環境を撮影してくれた。

Q:いつ頃から練習は開始できそうですか?山下:まだ一部届いていない部品があるのと、なかなか組み立てに時間がかかっていますが、できるだけ早く始めたいですね。いままでグランツーリスモSPORTをやっていたときは普通のテレビ(一画面)と椅子でやっていましたが、今回は三画面にして、ちゃんとシミュレーター用のシートを手に入れました。(編注:インタビューを行ってから数日後、シミュレーター環境が整い、その様子を早速自身のSNSで公開している。)

Q:シミュレーターでの練習以外に、自宅でトレーニングもされていると思います。どのようにやられていますか?山下:できるだけ動かないといけないとは思っていますが、少し怠けちゃうんですよね(苦笑)。家でやるときはオンラインのジムみたいなものを見つけたので、それをやっています。本格的なジム器具などはないので体幹トレーニングですね。あとは自宅にランニングマシンがあるので、それでたまに走ったりしています。

Q:いまやっているトレーニングの内容としてはオフシーズンのものに近い感じでしょうか?山下:そうですね。そもそも僕、今年のオフがなかったんですよ。2019年の年末までWECのレースがあり、年末年始はドイツへの引っ越し準備。落ち着いたと思ったらすぐ2月にはアメリカでレースだったので(笑)。だから感覚的にはいまがちょうどオフシーズンみたいな感じですね。

Q:なるほど。まだ自粛期間が続きそうですが、メンタル面はいかがですか?山下:たぶん、メンタルはそんなに弱くない方だと思うので大丈夫だと思います。自粛期間ですが、もともとインドア派なのであまり変わらないですね。

山下健太(KONDO RACING)

■チームメイトが最大のライバルになりそうな予感

Q:実車のお話もうかがいたいのですが、3月24、25日に行われたスーパーフォーミュラ富士テストの手応えはいかがでしたか?山下:少し速さが足りなくて、ずっと下位に沈んでしまいましたね。内容に関してはKONDO RACINGは冬が速くて、夏が微妙な結果になる傾向があるので、それを補おうといろいろ試していました。あと、今年から阿部(和也)エンジニアが来てくれたので、いいテストができたかなと思うところもあります。

Q:Q:昨年、スーパーGTで阿部エンジニアと組んでタイトルを獲得しましたが、阿部エンジニアが作るスーパーフォーミュラのセットはどのような感触ですか?山下:去年までとは全然違うと思います。まだレースをしていないので分からない部分もありますが、もしかしたらいままでが少し特殊なセットだったのかもしれないと感じています。昨年のスーパーGTで阿部エンジニアとやらせてもらって非常に乗りやすいクルマだったので、今年のスーパーフォーミュラも期待できると思います。

Q:変化という部分でいくと、昨年までのタイヤ2スペック制から今年はソフトタイヤだけの1スペック制に変わります。山下:そうですね。コンパウンドは変わっていないと聞いていますが、乗っている感じは少し変わったように感じましたね。少し硬めの方向にいっているのかなと。特にリヤタイヤが少し違う気がしました。

Q:レース展開としてはどのように変わると思いますか?山下:昨年はだいぶ運に左右される部分が大きかったですが、今年はガチンコ勝負的な感じになるのかなと思っています。ただ決勝に関してはセーフティカーのリスクも少ないので、早めにピットインしたほうがいいでしょうね。おそらく全車がミニマムで入るような感じになるかもしれません。ただその方が運に左右されることは少ないのでいいと思います。

サッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)

Q:今年は2019年の全日本F3王者であるサッシャ・フェネストラズ選手とチームメイトになります。山下:サッシャは速いです。この前のテストも常に上位にいましたしね。

Q:ドライビングスタイルは似ているんでしょうか?山下:まだちゃんと比較していないのでなんとも言えませんが、少し違うような気がしています。僕は基本的にブレーキで突っ込まない派なんです。コーナーで車速を落とし切らずに走っているので、普段だとコーナーの立ち上がりは他車より速かったりするんですが、富士のテストでは立ち上がりもサッシャの方が速かった。レースになってみないと分からないですが、サッシャは手強いなと思います。

Q:チームメイトが最大のライバルですね。山下:はい。でもふたりでいいクルマを作って、チームとしてもいい結果が残せたらと思います。

Q:一方で今年はWECにも参戦されていますが、こちらはレースの再開が8月まで延期になってしまいました。山下:そうですね。ル・マン24時間も9月に伸びてしまいました。こちらもだいぶ時間が空いてしまいますが、WECは一発の速さというよりも、安定して長く走りましょうという感じなので、いつ乗っても大丈夫かなと思っています。それよりもスーパーフォーミュラの方が尖ってるというか、ドライビング的にもバシッとやらないといけないので心配ですね。

Q:では今年のスーパーフォーミュラとWECはそれぞれどんなシーズンにしたいですか?山下:今年は阿部エンジニアが来てくれて、環境的には非常に強力な体制になりました。参戦4年目になるので、チャンピオンを絶対に獲るという気持ちでやっていきたいです。WECではチームメイトにジェントルマンドライバーの方がいるので優勝は少し厳しいですが、すべてがうまくいけば3位表彰台には届くと思っています。だからまずは表彰台を目指したいです。僕自身としては予選とファーストスティントを担当してるので、スタートから前に出られるような走りを目標にしています。

Q:ファンも山下選手のレースを楽しみにしています。山下:大変な状況が続いているので僕らもストレスがたまっていますが、それ以上にファンのみなさんもストレスを抱えていると思います。でも状況的にはみんな同じです。いまを頑張って耐え切って収束したときには、サーキットで僕らのレースを見てもらえればうれしいです。

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 2019年のスーパーGT最終戦での関口雄飛(au TOM’S LC500)との白熱したバトルが記憶に新しい山下。普段のおっとりとした雰囲気からは想像もできないようなアグレッシブな走りで観る者を夢中にさせる魅力を持っている。さらに「いつドイツに戻れるか分からない」と語りながらも、勉強のため英会話に取り組む意欲も見せている。今シーズン、スーパーGTへは参戦しないため、国内のレースで山下の走りを直接目にする機会は減ってしまうが、阿部エンジニアとのチャンピオンコンビで挑むスーパーフォーミュラでどんな戦いを見せてくれるのだろう。

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