記録更新は可能なのか? 巨人菅野、鷹千賀、楽天則本昂らに期待される9連続奪三振

ソフトバンク・千賀滉大(左)とDeNA・今永昇太【写真:荒川祐史】

江夏豊が記録したオールスターでの9者連続三振

三振は、投手にとって最高のリザルトだ。三振は振り逃げを除いて打者を完全に封じ込めることができる。昭和の昔からエースと言えば、三振をバッタバッタ奪うものだと言われてきた。しかし、データを見ると、昔の投手は、今の投手よりも奪三振数が遥かに少ない。

NPBで最高の先発投手に与えられる「沢村賞」の名前のもとになった巨人の沢村栄治は、ベーブ・ルース、ルー・ゲーリッグらの大リーグ選抜を相手に快投し「ミラクルなスクールボーイ」と言われた。しかし通算成績はこうなっている。

○63勝22敗765.1回554奪三振 防御率1.74 奪三振率6.51

防御率は素晴らしいが、奪三振率は意外なほど低い。2019年のセ・リーグの奪三振率は7.83、パ・リーグは7.47。数字だけを見れば、沢村は奪三振が多い「パワーピッチャー」ではなく「技巧派」に属することになる。

昭和の時代、球史に名前を残した大投手たちの奪三振率も意外なほど低い。

○金田正一
400勝298敗5526.2回4490奪三振 防御率2.34 奪三振率7.31
○稲尾和久
276勝137敗3599回2574奪三振 防御率1.98 奪三振率6.44
○杉浦忠
187勝106敗2413.1回1756奪三振 防御率1.98 奪三振率6.55

金田は巨人、長嶋茂雄のデビュー時に4打席連続で三振を奪っている。三振はいつでも取れそうな印象があるが、今の基準で言えば、3投手ともに「打たせて取るタイプ」になる。

日本プロ野球で、奪三振の概念を変えたのは江夏豊だ。江夏は、デビュー2年目の1968年に329イニングで401奪三振を記録している。これは今に至るも破られていないアンタッチャブルな記録。奪三振率は、10.97。イニング数をはるかに上回っている。これは、奪三振数が急増している今の基準でみても驚異的だ。圧巻は、オールスター戦での「9連続奪三振」だろう。

○1971年7月17日、西宮球場でのオールスター第1戦

1回
1番 有藤通世(ロッテ)空振り三振
2番 基満男(西鉄)空振り三振
3番 長池徳二(阪急)空振り三振

2回
4番 江藤慎一(ロッテ)空振り三振
5番 土井正博(近鉄)空振り三振
6番 東田正義(西鉄)空振り三振

3回
7番 阪本敏三(阪急)空振り三振
8番 岡村浩二(阪急)空振り三振
9番 加藤秀司(阪急)空振り三振

江夏豊の9者連続三振に挑んだのは江川卓、惜しくも8連続

セ・リーグ先発でマウンドに上がった江夏は、パ・リーグの名だたる打者たちをすべて空振り三振で切って取った。9人目の加藤秀司は、ファウルで逃れようとした。江夏は、捕手の田淵に「(ファウルを)捕るな」と叫び、最後は4球で空振り三振に切って取った。

巨人の江川卓が1984年のオールスター戦で、これに迫る「8連続奪三振」を記録した。この時は、9人目の打者の大石大二郎(近鉄)が、かろうじてバットに当てて二塁ゴロとし、タイ記録を阻止した。オールスター戦は1人の投手が投げることができるのは最長で3イニングと決められている。江夏の記録は、ルールが変更にならない限り今後も更新されることはない。

あまり知られていないが、公式戦での連続奪三振も「9」が最高だ。阪急の梶本隆雄が1957年7月23日の南海戦で記録した。3回裏、先頭の投手皆川睦男から三振を奪ったのを皮切りに、6回までに9人の打者を打ち取った。しかし7回裏、再び打席が回ってきた皆川に中飛を打たれて途切れた。

それまでの記録は、金田正一、大友工らが記録した7連続奪三振だった。これを2つも更新する大記録だった。選手たちはそのことは知ってはいたが、梶本本人もそれほどの価値がある記録とは考えず、投手の皆川に記録を阻止された。

梶本は江夏と同じ左腕。通算254勝の大投手。通算の奪三振率は6.30と高くないが、1イニング3者連続3球三振を2回も記録。これはNPB記録。梶本は三振にはこだわらなかったが、取ろうと思えばとることができる投手だった。

さらに翌1958年5月31日の西鉄戦では東映の土橋正幸が9連続奪三振を記録。また8連続奪三振は1960年に大洋の鈴木隆、1962年に東映の尾崎行雄、1990年に西武の潮崎哲也、1996年に西武に西口文也が記録している。

ここ10年では阪神能見、藤浪、巨人菅野、杉内、ソフトバンク森らが7連続奪三振

21世紀以降、フォーク、スプリットやチェンジアップ、スライダーなど空振りを奪える変化球が多投されるようになって奪三振率は向上している。投手、そして打者のレベルも年々上がっており、連続奪三振記録を更新するのは容易ではなくなった。

ここ10年では7連続奪三振が出ている。2011年には阪神の能見篤史とソフトバンクの杉内俊哉、2012年には巨人に移籍した杉内俊哉、2014年には阪神の藤浪晋太郎、2015年にはソフトバンクの森唯斗、2018年には巨人の菅野智之と楽天の松井裕樹が7人連続で三振に切って取っている。

しかし、記録が近づくと、打者は何としてもバットに当てようとする。安打にできなくてもゴロを打とうとする。7連続を8、9と伸ばしていくのは容易ではない。現在、奪三振が多い投手は、ソフトバンクの千賀滉大、楽天の則本昂大、DeNAの今永昇太あたりだろうか。

コロナ明けの開幕で、こうしたパワーピッチャーたちが連続奪三振記録にチャレンジすればシーズンは盛り上がることだろう。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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