上場企業「新型コロナウイルス影響」調査 (6月10日時点)

 新型コロナウイルス感染は局所的にクラスターの発生などで、一進一退を繰り返している。緊急事態宣言が全面解除され、企業活動は次第に「平時」へと戻りつつあり、「ニューノーマル(新しい日常)」に対する対応が迫られる段階に入った。
 業種や規模を問わず、ビジネスモデルや収益構造の見直しが必要になっている。
 6月10日までに、新型コロナの影響や対応などを情報開示した上場企業は3,364社に達した。
これは全上場企業3,789社の88.7%を占める。業績の下方修正を発表したのは839社で、全上場企業の約2割(22.1%)に達し、839社のうち224社(26.6%)が赤字だった。
 下方修正額のマイナス分は合計で、売上高が6兆773億円、利益も3兆9,503億円にのぼった。一方、新型コロナウイルスによる影響が業績の上方修正に寄与した企業も29社判明した。下方修正と上方修正の企業差は28.9倍に及び、新型コロナの深刻さが浮かび上がった。
  2020年3月期決算の2,406社のうち、2,341社(97.2%)が決算短信を発表した。減益が約6割(58.8%)を占め、新型コロナで利益が押し下げられた。次期(2021年3月期)の業績予想では、「未定」とした企業が約6割(59.4%)に達し、流動的な経営環境を反映している。

  • ※本調査は、2020年1月23日から新型コロナの影響や対応など全上場企業の適時開示、HP上の「お知らせ」等を集計した。
  • ※ 「影響はない」、「影響は軽微」など、業績に影響のない企業は除外。また、「新型コロナウイルス」の字句記載はあっても、直接的な影響を受けていないことを開示したケースも除外した。前回発表は6月4日(6月3日時点)。

構造改革に取り組むRIZAPグループ 売上高・利益ともに下方修正

 情報開示した3,364社のうち、決算短信や月次売上報告、業績予想の修正などで新型コロナによる業績の下振れ影響に言及したのは1,465社だった。一方、「影響の懸念がある」、「影響を精査中」、「影響確定は困難で織り込んでいない」などの開示は1,246社だった。
 下振れ影響を公表した1,465社のうち、839社が売上高や利益の減少などの業績予想、従来予想と実績との差異などで業績を下方修正した。業績の下方修正額のマイナスは合計で、売上高が6兆773億円、最終利益が3兆9,503億円に達した。
 パーソナルトレーニングジム「RIZAP」を中心に、グループでアパレル事業などを多岐に展開するRIZAPグループ(株)(札証アンビシャス)は6月9日、2020年3月期連結決算の下方修正を発表した。前回業績予想から売上高で220億6,500万円、最終利益を65億4,600万円引き下げ、60億4,600万円の最終赤字に転落した。
 RIZAPグループは、積極的に進めてきたM&A戦略が行き詰まり、前期(2019年3月期)に減損損失などが嵩み194億円の最終赤字を計上。経営方針を転換し、当期は不採算店舗の撤退や業績不振の子会社の売却など構造改革を進めてきた。
 第3四半期(2019年4-12月期累計)までは計画を上回る営業利益をあげていたが、新型コロナウイルス感染拡大でパーソナルジムなどの臨時休業やインバウンド需要の高いアパレル小売部門の売上減が直撃、2期連続赤字を余儀なくされた。

業績下方修正額の推移0610

2020年3月期決算、未公表は2,406社中65社

【2020年3月期決算】
 6月10日までに、2020年3月期決算の上場企業2,341社(3月期決算の上場企業の97.2%)が決算短信を公表した。決算作業や監査業務の遅延などを理由に、65社が未公表となっている。
 決算発表した2,341社のうち、最多は「減収減益」で878社(構成比37.5%)。次いで、「増収増益」が690社(同29.4%)だった。
 増収企業(1,189社、50.7%)と減収企業(1,152社、49.2%)は拮抗したが、利益面では減益企業(1,377社、58.8%)が増益企業(964社、41.1%)を17.7ポイント上回った。
 人件費などのコストアップに加え、新型コロナの影響を受けて減損や繰延税金資産の取り崩しによる損失計上が利益の下振れ要因となった。

【2021年3月期決算見通し】
 次期(2021年3月期)の業績予想は、2,341社のうち、約6割の1,392社(構成比59.4%)が、「未定」として開示していない。新型コロナによる経営環境の激変で、業績予想の見通しが立たず、算定が困難としている。一方、次期の業績予想を開示した949社のうち、最多は「減収減益」の401社で、約4割(42.2%)を占め、引き続き厳しい収益環境を予想している。

2021年3月期 業績予想0610

資金調達企業は178社、調達金額は総額約10兆円

 新型コロナウイルスの影響・対応を分類すると、店舗・拠点の休業、サービス停止を開示したのは285社だった。このうち、緊急事態宣言に伴う店舗休業や休業延長の公表が185社あったが、緊急事態宣言の解除や営業自粛要請の段階的な緩和で「営業再開のお知らせ」を追加的に公表するケースが増えている。
 金融機関などからの資金調達を公表した企業は178社で、調達額の総額は約10兆円にのぼった。トヨタ自動車の1兆2,500億円を筆頭に、1,000億円以上の調達は大手中心に26社。調達金額レンジでは、10億円以上100億円未満が約5割を占めた。事態の長期化に備え、運転資金の確保や手元資金を厚くする動きが広がっている。
 一方、その他(963社)のうち、新型コロナウイルスの影響がプラス効果になっていると公表したのは169社で、全上場企業3,789社の4.4%にとどまった。

新型コロナの影響が業績に寄与して上方修正は29社

 新型コロナウイルスの影響がプラス効果と発表したのは169社で、具体的な数値として従来業績を上方修正した企業は29社だった。
 業種別では、マスクや衛生用品、医薬品などの需要増で業績が向上した製造業が最多の9社、内食需要の高まりが売上の伸長に繋がったスーパーなどの小売業が8社となった。次いで、情報通信業も5社で、スポット需要を取り込んだことがわかった。
 売上高の上方修正額の最大は、「業務スーパー」を手掛ける神戸物産(東証1部)の241億円で、「外出自粛や在宅勤務の広がりによる内食需要の高まりで、主力事業の『業務スーパー』加盟店への出荷を押し上げた」ことが要因。
 また、当期純利益の上方修正額の最大は、「マスク関連商材及びミシンの売上が大幅に増加した」手芸用品小売の藤久(株)(東証1部)で17億2800万円。
 新型コロナの影響を受け、業績を下方修正した企業は839社で、上方修正した企業の28.9倍にのぼる。業績の上方修正を行った企業のなかには、新型コロナの影響によって受注が前倒しとなり、今期の売上が増加した企業、営業活動の制限が経費減少を招き、利益を上方修正した企業もあった。当分、上場企業も新型コロナにより国内外の不安定な経済活動を背景に、流動的な企業業績が続くとみられる。

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