「可能性は0.000何%」栃木・若松駿太をそれでもNPB復帰に向かわせる愛妻の言葉

BC栃木・若松駿太【写真:小西亮】

NPB復帰を目指す元中日10勝投手・若松が直面する岐路「可能性は0.000何%」

中日でかつてシーズン10勝を挙げた右腕が、NPB復帰に向けて岐路に立っている。ルートインBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスで2年目を迎えた若松駿太投手。今季は右肩痛で出遅れ、試行錯誤が続く。「挑戦するのは最後の年になる」と悲壮な決意で臨む一方で、自らの状態を見極めつつ現実的な選択肢も視野に入れている。

エースの姿は、まっさらなマウンドにはなかった。6月21日、埼玉武蔵ヒートベアーズとの開幕戦(栃木県営球場)。若松は6回から登板し、2イニングを3安打無失点に抑えた。「良くも悪くもですね」と、試合後に淡々と振り返る。独立リーグ1年目の昨季はチーム最多の13勝を挙げ、初優勝に導いた「シーズンMVP」の表情が、今ひとつ冴えない。

3月に右肩痛を発症。MRI検査も受けてみたが、明確な原因は分からなかった。中日時代も10勝を挙げた2015年以降のシーズンは肩痛に悩まされた時期もあった。それでも2018年限りで戦力外になった際、NPB返り咲きを目指そうとしたのは妻・沙苗さんの言葉があったから。「肘や肩が問題ないなら、野球を辞めるのはもったいない」。そのモチベーションの原点が今、少し揺らいでいる。

昨秋に2度目の「12球団合同トライアウト」を受験し、復帰への壁の高さをあらためて思い知った。時が経つほど、その望みが薄くなっていくのも分かっている。

「NPBに戻れる可能性は、正直0.000何%くらいだと思いますよ」

「さなにNPBの華やかな世界を見せてあげたい」との思いも…

もし今年もダメなら……。マウンドに立っていないふとした瞬間、不安が頭をよぎることもある。「野球は続けたい思いはあります」。中日時代に女房役だった杉山翔大捕手が在籍する沖縄初のプロ野球球団「琉球ブルーオーシャンズ」や豪州のウインターリーグ、台湾プロ野球……。国内外問わず、自身のキャリアや経験を含めて選択肢を思い浮かべることもあるが「どういう道を歩むにしろ、まずは今に集中します」と言い切る。

完全に0%だと自分の中で諦めるまでは、貪欲にいきたい。新型コロナウイルス感染拡大の影響で思うように練習できない時期は、自宅でトレーニング法を工夫。短時間で効果的にエネルギーを消費する話題の「高強度インターバルトレーニング(HIIT)」を取り入れ、汗をかいた。

開幕戦こそ中継ぎだったが、2試合目の登板からは先発に復帰。昨季と変わらず、安定感のある投球を見せている。秋まで与えられたマウンドで、示したいのは結果と内容の両立。まだ135キロ前後の直球のスピードを取り戻すことも欠かせない。高校や大学、社会人に比べて早く試合ができるようになっただけに「少しはスカウトに見てもらえる機会も多いかもしれません」と淡い期待も抱く。

NPBの大先輩の存在も、大きな助けになっている。今季から元ロッテの成瀬善久投手がコーチ兼任で加入。130キロ台の直球ながら多彩な投球術で球界を代表する投手になった左腕の姿を、自身に重ねる。「配球や考え方で成瀬さんが言っていることも分かるし、僕が思っていることにも共感してもらえています」。アニキ的な理解者の存在は心強い。

独立リーガーになってから結婚した愛妻には、栃木での慎ましやかな生活を支えてもらってきた。「さな(沙苗)にNPBの華やかな世界を見せてあげたい」との決意と、全盛期の姿に近い状態まで戻せないもどかしさとの間でもがく。まだ25歳の大谷世代。無名の高卒ドラフト7位から3年で2桁勝利を挙げた時のように、また自分の環境を一変させたい。(小西亮 / Ryo Konishi)

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