【高校野球】「野球を続けるきっかけに」 コロナ禍で誕生した全道準V札幌日大の異世代交流戦

札幌日大はウイン北広島と交流試合を行った【写真提供:ウイン北広島】

札幌日大は社会人クラブチームのウイン北広島と交流試合「思い出に残る試合にしましょう」

高校生VS社会人――。北海道でユニークな交流戦が実現した。昨秋の全道大会で準優勝した札幌日大が6月27日に同校グラウンドで社会人クラブチームのウイン北広島と交流試合を行った。試合は緊迫した投手戦となり、札幌日大が1-0でサヨナラ勝ち。森本卓朗監督の発案による交流戦には、野球人口拡大の願いが込められていた。

コロナ禍によって、異例のマッチアップが実現した。センバツの中止に続き、春季北海道大会も中止が決定した4月に森本監督が動いた。「もし、夏の大会がないなら3年生にとって区切りの試合になる。大会があるなら夏への力試しになる」と考え、ウイン北広島の中村監督に相談した。夏の甲子園開催も危ぶまれ始めていた時期だけに中村監督は「思い出に残る試合にしましょう」と快諾した。北広島市に拠点を置く両チーム。緊急事態宣言が解除され、部活動再開後の6月27日に開催にこぎつけた。

この間、夏の甲子園大会は中止になり、北海道独自の夏季大会が開催されることになった。個人面談を通して揺れ動く球児の思いに触れた森本監督は「甲子園というフレーズがあまりにも大き過ぎる」と実感したという。甲子園が中止になった途端、目標を見失う選手がいたからだ。

「すべて甲子園のためにという風にやっていると、甲子園がなくなった時にどうしたらいいか分からなくなるんですね。上を目指している子は、甲子園が通過点になっているので姿勢は変わらず、逆境でも諦めないことが今回分かりました。選手には個人の目標を持ってほしいですし、小さい頃からやっている野球をできる限り続けてほしいと思っています。野球をやる目的は野球を通して成長することですから」

3年生のために実施した今回の交流戦には、インターンシップのような意味合いもあった。「今の高校生は大学野球や社会人野球をなかなかイメージできないんです。接する機会がないので。実際に試合をすることによって、上で野球をやるビジョンが描けるようになるでしょうし、そういう機会をつくってあげたいと思っています」と森本監督。昨秋は北海学園大、今夏は旭川大と試合を組んだのも同じ狙いだ。

札幌日大・森本卓朗監督【写真:石川加奈子】

最速144キロ右腕「高校には圧迫感を持った打者はいない。いい経験になりました」

昨春関西遠征した際には和歌山大と練習試合を行った。その試合がきっかけで受験勉強を頑張り、今春国立の和歌山大に入学してプレーする教え子が良い例だ。「大学や社会人の方たちからすると、高校生とやるより、もっとレベルの高い相手とやりたいはず。それでも、野球界全体を考えて引き受けてくださった」と森本監督は賛同して協力してくれたチームに感謝する。現在の3年生19人中9人は卒業後も野球を続ける予定だが、もっと増えてほしいと願っている。

2018年の全日本クラブ野球選手権で4強入りしたウイン北広島との対戦は、高校球児にとって大きな意味があった。加藤愛稀主将(3年)は「高校生同士でやるよりも大きなプレッシャーがある中で、自分たちの現在地を試す試合になりました」と語る。将来プロ入りを目指す2選手にとっても有意義だった。4回1安打無失点と好投した最速144キロ右腕の小林駿太(3年)は「高校にはああいう圧迫感を持った打者はいないので、いい経験になりました」と話す。3打数無安打に終わった俊足の4番打者、明田圭喬(3年)は「技術不足で三振でしたが、ふだん経験できないことを経験させてもらって感謝しています。恩は大会で返したいです」と今夏の南北海道大会優勝を誓った。

雑誌「致知」を題材にしたミーティングを実施するなど高校野球以外の世界にも目を向けるよう指導している森本監督は、この交流戦を恒例行事にしたいと考えている。ウイン北広島の中村監督も前向きだ。「選手は負けられない重圧で、金縛りにあったみたい。高校生との試合は難しい」と苦笑いしながらも、「高校生の笑顔がうれしかったですね。お互いの心を磨く機会。野球を続けるきっかけになればいいですし、来年以降も大人の責任としてやらなきゃいけないと思っています」と続けた。

コロナ禍がきっかけで誕生した交流戦。異世代交流の広がりが、野球人口減少に歯止めをかける一助になればいい。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

© 株式会社Creative2