【高校野球】消えた千載一遇の甲子園のチャンス…昨季道大会準V校が新たに抱く戦うことの意味

札幌国際情報の有倉雅史監督(中央)と選手たち【写真:石川加奈子】

札幌国際情報は元日本ハムなどで投手だった有倉監督が率いる

1年前の悔しさを晴らす時が来た。昨夏の南北海道大会決勝で延長14回の末、北照に敗れた札幌国際情報。日本ハムなどで投手を務めた有倉雅史監督が指揮を執るチームは、2000年の札幌南以来となる公立校の南北海道大会制覇をあと一歩で逃した。当時のバッテリーとクリーンアップが残るチームは今夏、再び頂点を目指す。

エースで4番を務める原田航介主将(3年)は、バッグに厳島神社の必勝しゃもじを忍ばせた。前主将の冨樫晋士さんが昨夏、携えていたものを託された。「去年は3年生に決勝まで連れて行ってもらいました。あの悔しさを晴らさないといけない。(自分たちが夏の甲子園)102回目の出場チームだったという形で終わりたいです」と夏季大会に向けて表情を引き締めた。

投打で活躍した昨夏の決勝戦のことはあまり覚えていないという。前日の準決勝東海大札幌戦での128球1失点完投に続き、決勝も延長14回179球を一人で投げた。2点を追う土壇場の9回裏には自らの2点適時打で同点に追いつき、1万2000人の観衆の多くを味方につけた。だが、3-3で迎えた延長14回表2死二塁から内野の失策で決勝点を失い、力尽きた。1995年の開校以来初の甲子園、21世紀初となる公立校の南北海道制覇にあと一歩だった。

そんな大仕事をしたにも関わらず「記憶があやふやなんです。それだけ高ぶっていたのかな。もしかしたらビデオを見ていないからかもしれないです」と原田は苦笑いした。いまだに振り返るのが辛いのだろうか。そう尋ねると「そういう訳じゃないんです。感傷に浸りたくなくて。もう、自分たちの代が始まっているので」と答えが返ってきた。雪辱だけを考えて過ごした1年間だった。

1年春からベンチ入りした原田は、札幌から200キロ以上離れた様似町の出身だ。中学時代に在籍していた日高リトルシニアのチームメートである久保田廉太朗捕手(3年)、秋田真内野手(3年)とともに、札幌国際情報を受験した。当初は札幌の私立強豪校への進学も考えた。迷った末、プロの世界で8勝を挙げ、人間力野球を掲げる有倉監督の下で成長することを選んだ。短い高校生活の中で、少しでも多く試合に出たいという思いもあった。

札幌国際情報受験を決めた原田は早速、塾通いを始めた。「推薦で受験したのですが、落ちたら一般入試を受けるつもりでしたし、入学してから勉強についていけるように」と準備を怠らなかった。有倉監督は「うちの強みはそこかな。声をかけられたからという理由ではなく、自分で決めて、勉強して入ってくる。だから(高校で)伸びるんじゃないですか」とうなずく。

札幌国際情報の秋田真、原田航介、久保田廉太朗(左から)【写真:石川加奈子】

今年5月20日の甲子園大会中止の発表はショックだった

入学後は順調に成長。最速は139キロながら質の良い直球と変化球を低めに集め、打者との駆け引きに優れた道内屈指の好投手になった。2年生だった昨季は春の全道大会4強、夏の南北海道大会準優勝へチームをけん引。「元々いろんなことをちゃんと考えてやる子」と厚い信頼を寄せる有倉監督は「背負えるだけ背負わせる」と昨秋からエースと4番に加えて主将に任命した。

一方、原田とともに日高リトルシニアから入学した久保田と秋田は「私立を破って公立で甲子園出場」という野望を抱いていた。ともに1年秋からクリーンアップを任され、昨夏の決勝では、原田、秋田、久保田の2年生トリオで計5安打と活躍した。

バッテリーとクリーンアップがそのまま残り、昨秋は優勝候補に挙げられた。だが、準々決勝で敗退。1、2回戦で先発した原田は、この試合6回から登板して無失点に抑えたものの、2-4で札幌龍谷学園に敗れた。優勝するには7日間で5勝必要と組み合わせに恵まれなかった。原田は「それは関係ないです。力不足で負けました」と言い訳せず、最後の夏に全てを懸けた。

それだけに、今年5月20日の甲子園大会中止の発表はショックだった。「代替大会があることを信じました。これまで一生懸命やってきたことを最後まで頑張らないと意味がない」と原田は必死に前を向いた。

「何のためにやっているのかと2、3日は練習に身が入りませんでした」と当時の心境を明かした秋田は「このままじゃ終われないと思い、大学で野球を続けることにしました。夏季大会では(去年の)3年生の分もありますし、甲子園に出場するチームだったと証明したい」と力強く言い切る。久保田も「一番の目標はなくりましたが、先輩たちから見て、借りを返せるように。優勝して笑顔で終わりたいです」と1学年上の先輩の悔しさを背負って戦う覚悟だ。

3人が入学してからチームは4度全道大会に出場し、計7勝を挙げた。日高リトルシニアトリオが道内トップ級の強豪校に押し上げたように見えるが、有倉監督は違う見方をしていた。「去年の夏の3年生の頑張りはすごかった。大会に入ってからも毎日怒られていた子たちが、あそこまでやるとは。高校生が持っている力は本当にすごい」と大会を通して急成長した当時の3年生を称賛する。

本来底力が発揮されるはずの甲子園を懸けた最後の夏が、今年はコロナ禍によって失われてしまった。「そういう経験ができないことは残念ですが、この1か月でどういう風に変わっていくか」と指揮官は現3年生の意地を懸けた戦いが新たな力を引き出す可能性に期待している。

チームは7月5日、昨夏南大会決勝で敗れた北照と練習試合を行った。「あの負けから始まっているので、ただの練習試合ではなかったです。区切りとなる試合でした」と原田は言う。涙を飲んだ1年前の借りを返す20-1の大勝。コロナ禍で止まっていた時間が本格的に動き始めた。あとは一気に頂点まで駆け上がるだけだ。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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