若い人 できることたくさんある 長崎大RECNA 中村准教授メッセージ メクル第479号

「若い人でもできることはたくさんある」と話す中村桂子准教授=長崎市、長崎大

 核兵器を巡る状況(じょうきょう)は悪い方向に向かっているようです。これからの未来を生きる小中学生ら若(わか)い人たちは、この問題にどう向き合えばいいのか。世界の核問題を研究している長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA=レクナ)の中村桂子准教授(なかむらけいこじゅんきょうじゅ)にメッセージを寄(よ)せてもらいました。

  ◆自分と世界つながる

 「平和のために何かする」とか、「核兵器のない世界のために何かをする」って、とても大変で難(むずか)しいことのように聞こえるかもしれません。自分には知識(ちしき)もないし何もできない-、そう感じるかもしれません。
 でも、そんなことは全くありません。小さなことから、身近なことから、できることはたくさんあります。
 日本や世界で起きていることについて、新聞やテレビのニュースを見てみる。平和や核問題で活動している誰(だれ)かの会員制(かいいんせい)交流サイト(SNS)に「いいね」をする。自分の知ったことについて家族や友達と話をしてみる-。まずは、そこにある問題に目を向けてみましょう。
 環境(かんきょう)問題って難しく聞こえるけれど、皆(みな)さんは誰もいない部屋に電気がついていたら、急いで消すでしょう。水道の水が出しっぱなしだったら、「もったいない」と止めるでしょう。なぜそうするのかといえば、自分の行動が環境を守ることにつながっていると分かっているから。自分と世界はつながっていると自覚しているからなんです。

  ◆取り返しのつかない

 核兵器の問題も同じと言えます。世界には人類文明を滅(ほろ)ぼすことができるほどの核兵器が今も存在(そんざい)しています。そして、それらの多くが、ほんの数十分で使える状態(じょうたい)にあるのです。戦争が起きていなくても、警報(けいほう)システムなどの誤作動(ごさどう)によってミサイルが発射(はつしゃ)されてしまう可能性(かのうせい)もあります。核兵器を搭載(とうさい)した攻撃機(こうげきき)が海に転落するといった事故(じこ)も過去(かこ)には起きています。
 核兵器が一度でも使われてしまえば、取り返しのつかないことになります。まさに今、地球上の全ての人が大きな危険(きけん)にさらされているのです。環境破壊(かんきょうはかい)や人権(じんけん)、貧困(ひんこん)の問題などと同じように全ての人が当事者で、立ち向かうべき重要課題なのです。
 世界には「核兵器で相手を脅して、それによって自分の国を守れる」と考えている国々があります。自分では核兵器は持たないけれど「持っている国の核兵器に守ってもらおう」と考えている国もあります。実は日本も後者の一つです。長年にわたり、そういう考えに固執(こしつ)してきた国の姿勢(しせい)を変えることは大変ではあります。

  ◆考えも行動も変える

 でも、人々の考えも、国の行動も変えることはできます。例えば、数十年前まで飛行機の中で人々はたばこを吸(す)っていました。しかし、次第にたばこによる健康被害が人々の「常識(じょうしき)」になり、禁煙(きんえん)のルールが作られました。今は「核兵器で安全を守る」が当たり前と思っている国も、たくさんの人が「やめよう」と訴(うった)えれば変わっていきます。声を上げることが大事なんです。
 今年は新型コロナウイルスの感染拡大(かんせんかくだい)で、学校が休みになったり、外出できなくなったりして、皆さん大変だったと思います。今まで当たり前だった日常(にちじょう)が変わってしまう経験(けいけん)はショックだったことでしょう。
 そんな経験をした今だからこそ、想像力(そうぞうりょく)を働かせてみてほしいのです。もし核兵器が使われたら、当たり前の日常はあっという間に消え去ってしまうということを。核兵器が存在する限(かぎ)り、使われてしまうかもしれないってことを。
 解決法(かいけつほう)はただ一つ、核兵器をゼロにすることです。そして、それは十分に実現可能(じつげんかのう)なことなんです。


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