ERC第2戦:18歳のオリバー・ソルベルグ、オストベルグやブリーンらを振り切り大会連覇を達成

 2020年ERCヨーロッパ・ラリー選手権第2戦『ラリー・リエパヤ』が8月15〜16日にラトビアで開催され、18歳のオリバー・ソルベルグ(フォルクスワーゲン・ポロGTI R5)が全10ステージ中6つのSSを制して完勝。10代中盤から武者修行したゆかりの地で、マッズ・オストベルグ(シトロエンC3 R5)やクレイグ・ブリーン(ヒュンダイi20 R5)、そして2018年ERC王者アレクセイ・ルカヤナク(シトロエンC3 R5)らを寄せ付けないスピードを披露した。

 開幕戦のターマック・ラウンド『ローマ・デ・キャピタル』でも、かつてのジュニアU28登録に相当するERC1カテゴリーでクラスウインを飾っているソルベルグは、この高速グラベルステージでさらに勢いを増す。モンスター・カラーのフォルクスワーゲン・ポロGTI R5はSS1から最速タイムでスタートを切ると、SS3でもベストタイムをマークする幸先の良い出だしを見せる。

 順調そうに見えたソルベルグだが、その一方でSS1序盤ではストール、SS4ではダストによる視界不良でスピンを喫しながら貴重なタイムを失っていた事実もあり、それがなければさらに大量リードの可能性もありつつ、後続に10秒のマージンを築いて初日4本のステージを走破した。

「とてもエキサイティングな日だった。朝のステージは僕の想像よりグリップが良くて、少し“のんき”な回転数だったからストールして5秒をロスした」と、最初のミスを振り返ったソルベルグ。

「逆にSS2は少し遅すぎた。滑りやすかったから、リスクを取りたくなくて慎重に行ったんだ。その分、SS3と4はハードにプッシュしたけれど、ホコリがヒドくて左にゆっくりとスピンした。そのダストのせいで復帰までに15秒は掛かったと思う」

 初日首位でサービスへと帰還したソルベルグに対し、SS2のベストタイムで食い下がったのは2018年ERC1ジュニア王者ニコライ・グリアシン(ヒュンダイi20 R5)で、ふたつのステージを終了した時点で首位ソルベルグとの差をわずか1.3秒にキープしていた。

 しかしロシアの若手は続くステージでリミットを越え、大クラッシュを喫してマシンが大破。わずかな望みを託してオーバーナイト・サービスで修復を試み、翌日の再出走に賭ける厳しい展開となった。

 そんな波乱のラリーを潜り抜け初日2番手につけたのは、WRC世界ラリー選手権で活躍してきたオストベルグで、来月のここラトビアで開催されるWRCイベントに向け、PH Sportのシトロエンでプラクティスに励んだファクトリー契約ドライバーは、初日から「いくつかの問題が発生」してタイムを失ったものの、きっちりとポディウム圏内を確保してみせた。

 その背後、3番手には開幕ウイナーのルカヤナクが続き、セットアップの問題と早めの走行順で「本来のスピードが発揮できていない」と不満を抱えながらも、ERCの選手権賞典外であるオストベルグを除けば、選手権タイトル奪還へのアドバンテージを拡大するのに充分な滑り出しとなった。

 さらにフィンランド出身の新星エーリク・ピエタリネン(シュコダ・ファビア R5)を挟んで、5番手にはMRFタイヤの開発を担うブリーンとチームメイトのエミール・リンドホルム(シュコダ・ファビア R5)が6番手に続く。

 WRCでも活躍した往年の名選手セバスチャン・リンドホルムの子息でもあるエミールは、今季ERC初出場のSS4ではソルベルグ同様スピンを喫しながら6番手のポジションで初日を終え、Team MRFのデータ収集に貢献する走りを見せる。

2020年はWRC2に参戦し、開幕から連勝を飾っているマッズ・オストベルグは、WRC戦再開を前にERCにテスト参戦
大人の走りでERC開幕のターマック戦を制したアレクセイ・ルカヤナクは、ここでも抑制の効いたドライビングで3位。実質ERC2位を獲得した
ストールやスピンで貴重な時間を失いつつも、初日から10秒ものリードを築いたオリバー・ソルベルグ

■翌日の主役もソルベルグ。マシントラブルが発生するも首位キープ

 明けた日曜は全6ステージ、87.66kmの勝負となったが、この日も主役を演じたのはソルベルグ。2003年WRC世界王者ペターの血を引く18歳は、オープニングのSS5こそわずか0.1秒差でオストベルグに最速を譲ったものの、そこから2本連続でSSベストを奪取し、ミッドデイ・サービスまでにそのマージンを22.4秒まで拡大していく。

 しかしSS8を前に彼のポロGTI R5はエンジンに不調を抱え、再びオストベルグがトップタイムを記録。そのままラリーを失う可能性まで懸念されるも、SS9で息を吹き返したソルベルグは安全策のクルージングを選択せず。残る2本でフルアタックを敢行し、ここでも連続ベストを記録。2番手オストベルグに20.1秒差を残し、2年連続の『ラリー・リエパヤ』制覇を成し遂げた。

「ラトビアのステージは本当に好きなんだ。でも2日目は簡単ではなく、SS8を前にエンジンが3気筒になってしまった。もしかしたら『ALS(アンチラグシステム)をオンにすれば解消されるかも』と思ったんだけど、全然ダメで。たぶん6kmぐらいは3気筒のまま走ったと思う」と、窮地を振り返ったソルベルグ。

「幸いにも6秒程度を失っただけで済み、本当に驚いたよ。エンジンがまた動き始めたのは本当に幸運で、そこからは全力でプッシュした。今季はもっと多くのラリー、おそらく(次戦の)アゾレスにも参戦するから、ERCのプログラムが続くことにワクワクしているよ」

 一方、後続には最終リザルトの“見た目上”大きな変動はなく、2位には2月以来のイベント参戦で「高速ラリーへの順応に重点を置いた」と語るオストベルグが入り、3位にはSaintéloc Junior Teamのルカヤナクが続くトップ3に。

「とても素晴らしいラリーになった。全日程を通じて全開だったし、プッシュしたおかげで良いポイントが獲れた。自分のパフォーマンスには満足している」と語ったルカヤナクは、ERCポイント対象外となるオストベルグの存在により、ERC2位でラリーを終えている。

 その後方4番手には、SS5で一時ブリーンが浮上したものの、SS7で左のリヤタイヤにダメージを抱え、そのまま12kmの走行を強いられて僚友リンドホルムの背後6番手にまで下がってしまう。しかし、そのリンドホルムがジャンプスポットからのハードランディングでコースオフを喫し、最終的に1.8秒逆転で4位ピエタリネン以下、5位ブリーン、6位リンドホルムと初日同様のポジションでフィニッシュとなった。

 続く2020年ERC第3戦は、大西洋の沖合に浮かぶ伝統のアイランド決戦『アゾレス・ラリー』が9月17〜19日のスケジュールで争われ、当初のカレンダーでは開幕戦に据えられた、緑豊かな田園地帯と火山帯の火口付近をいくナローなワインディング路が舞台の名物イベントは、今回で55度目の開催を迎える。

レグ2ではエンジン不調を抱えて3気筒での走行を強いられたオリバーだが、SS9で奇跡の復活
本来、開幕戦として予定されたアゾレス・ラリーからの参戦を予定していたエミール・リンドホルムが、Team MRFとの初戦で役割を果たす
WRCのフロントランナーや元王者を従え、史上最年少で大会連覇を果たしたオリバー。続く第3戦での走りにも注目だ

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