山崎ハコが歌う情念の怖さ、映画「地獄」心だけ愛して 1979年 4月2日 山崎ハコのシングル「地獄 心だけ愛して」がリリースされた日

夢見が悪くなりそうな日本映画のタイトル

世の中には、怖い歌というものがある。心霊のような音声が入っている…… なんてオカルトソングは星の数。一方で、詞の世界観がおっかない曲もある。今回はそんなお話。

1979年、中学に入学して映画に夢中になったのは、以前のコラム『大人の世界のミステリー、洋画「ナイル殺人事件」の主題歌を歌っていたのは誰?』で記したとおり。希望に胸を膨らませた春、この時期に公開された日本映画は、とにかく凄まじかった。『白昼の死角』『復讐するは我にあり』『乱れからくり』『病院坂の首縊りの家』『俺たちに墓はない』等々、タイトルだけで夢見が悪くなりそうな映画が並んでいた。新緑がさわやかな季節に、いったい誰が、こんな映画を見に行くのか? うん、俺が行く!

と意気込んではみたものの、中坊の小遣いで見られる映画は限られているし、何より田舎の映画館では上映されない可能性もあった。見られないのはしょうがない。せめて映画の一端にでも触れたい…… というわけで、映画の主題歌をエアチェックする作業に専心することに。『白昼の死角』の主題歌「欲望の街」はダウン・タウン・ブギウギ・バンドによるものだが、ハードボイルドでかっこいいなあと思ったものだ。

山崎ハコが歌う映画イメージソング「地獄 心だけ愛して」

そんなある日、『地獄』なる、これまた悪夢的なタイトルの日本映画が公開されることを知る。監督はロマンポルノで鳴らした神代辰巳。主演は当時、ヌードも辞さない体当たり演技で売り出し中だった原田美枝子。怖いもののみならず、エロにも興味津々の中学生にはズッキン必至の映画じゃないか。

しかし、案の定、地元の映画館では上映予定がない。そこで例によって、主題歌をチェックした。劇中では流れないが、山崎ハコが歌うイメージソング「地獄 心だけ愛して」。愛の意味など知らぬ中坊でも、そこで歌われる情念の怖さにはおののいた。

 心だけ愛して 心だけ愛して
 私 もうできない
 堕ちて行く どこまで
 堕ちて行く あゝ堕ちて行く

“堕ちる” という言葉のコワさはもちろんあった。一方では、心だけ愛することができないのなら、ナニを愛するんだろ? ……という十代の妄想も膨らむ。ともかく、これはエロもグロも引き受けたいお年頃にハマった。

仰天したのは、そのシングルのB面に収録されていた「きょうだい心中」。これまた不穏過ぎるタイトルだが、”兄弟” を “きょうだい” と記すひらがな表記がそれを煽った。で、聴いてみると……。

強烈過ぎて困った! 情念だけでなく死臭も濃厚

興味のある方は、ぜひサブスクなどでチェックしてみて欲しい。歌詞は情念だけでなく死臭も濃厚。ひとつのストーリーとしてよくできているし、それがこの曲をおっかなくしている。

本稿を書くにあたり、久しぶりにレコを乗っけてみたが、聴き終えた後は、やはりしばらく引きずった。強烈過ぎて困ったあげく、ワム! を聴いて解毒したことは内緒にしておきたい。

とにもかくにも、山崎ハコというアーティストの存在は脳裏にこびりついた。おっかない人という印象とともに。なので、翌々年に公開された五木寛之の名著に基づく映画『青春の門』も、彼女がイメージソング「織江の唄」を手がけたことから、条件反射的に怖くてエロい映画と認識してしまった。

カタリベ: ソウママナブ

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