下落局面に強い!ESG投資のメリットと個人にもできる投資先は?

最近、「ESG投資」という言葉をよく耳にするようになりましたが、一体どんな投資を指すのでしょうか。そして、個人でも投資できるでしょうか。証券会社のアナリストとして、ESG投資を研究する著者が、その社会的意義やメリットを徹底解説します。


ESG配慮を投資プロセスに組み込んだ投資

ESG投資とは何でしょうか?これは、企業がどの程度、環境(E)、社会(S)、企業統治(G)の要素を配慮して経営しているかを考慮して投資先を選び、投資価値の向上やリスクの軽減を図る投資手法です。

ESG投資が始まったきっかけは、2006年に国連が機関投資家に対して、ESGへの配慮を投資プロセスに組み入れる「責任投資原則(PRI)」を提唱したことにあります。世界的に経済が発展していく一方で、気候変動や環境汚染などの環境問題、サプライチェーン上の児童労働・強制労働などの社会問題、企業の不祥事など企業統治の問題が浮上し、社会の持続可能性が懸念されました。

2008年米リーマンショック後、社会的な信頼を失った金融機関がそれまでの短期的なリターンだけを追求する投資方法を見直し、中長期的な持続可能性を求めるESG投資に力が入りました。

2015年の国連「SDGs(持続可能な開発)」の採択も後押し、世界のPRI署名機関は8月28日時点で3,328社に上ります。日本の署名機関は85社へ増加しましたが、ESG投資残高は先行する欧米に遅れています。今後の市場拡大余地は大きいと言えるでしょう。

コロナ禍で広がるESG投資

足元では、コロナの感染もESG投資への注目を高めています。コロナの感染収束や景気の見通しが不透明な中、目先の企業業績を見極めにくく、中長期的な成長に着目したESG投資が有効とみられています。

米国の有力企業約180社が昨夏のビジネス・ラウンドテーブルで、「株主至上主義」を見直し「ステークホルダー主義」に署名した影響も大きいしょう。株主の利益の為だけでなく、消費者や従業員、地域社会、取引先など様々なステークホルダー(利害関係者)への影響を考慮した経営を行うことになりました。

その後広がったコロナ禍では、リーマンショック時に大量解雇した企業が従業員を解雇しなかったばかりか、健康を配慮する対応まで行っています。日本でも、自動車や電機メーカーなどの異業種が、地域社会の為に不足した人工呼吸器やマスクを生産しました。今後、危機下で社会貢献できる企業か否かによって、投資対象としての評価が分かれる可能性が高まってくるでしょう。

ESG投資のメリット

もっとも、ESG投資の普及に先駆けて、グローバル展開する企業は環境や人権に配慮した経営を行っています。例えば、キットカットを販売するネスレは、プラスチックごみを出さない菓子包装や、児童労働を伴わないチョコレート原料カカオの調達等を実施しています。こうした企業は消費者や従業員とも良好な関係を築くことができ、それが企業への信頼・ブランドとなって商品の販売増に繋がり易いでしょう。

また、企業の長期にわたる経営において、経済環境や規制、労働環境、消費者の嗜好などに変化が生じることはリスクですが、ESGに取り組む企業はこうしたリスクを考慮した経営を行っています。

市場では、ESG投資家が長期視点から企業を選別するため、一時的な企業業績の悪化などで投資対象から外されにくく、長期的に安定した資金流入やリターンが期待できるでしょう。さらに、ESG投資は企業の社会的課題解決を後押しすることになり、社会貢献に繋がる投資であるとも考えられます。

GPIF選出のESG指数は市場平均を上回る

個人にできるESG投資として、まずはESG債があげられます。調達資金を環境分野に使う「グリーンボンド」、健康や教育問題の解決に使う「ソーシャルボンド」、両方を対象とする「サスティナビリティボンド」があります。投資家にとって、定期的な利息と元本返還がある点で通常の債券と同様の投資対象といえるでしょう。

より投資リターンを期待するならば、投資信託やETFへの投資が有効です。ESG優良銘柄に特化した投資信託であれば、運用会社が独自にESG要素で評価した銘柄を選出し、投資先としての採算性も考慮したバランスの良いポートフォリオへ投資できるでしょう。このほか、日本の年金資金を長期に亘って運用するGPIFが投資するESG指数(ETF)も注目されます。

GPIFが選定した5つのESG指数は、2020年3月までの3年間のパフォーマンスが全ての指数で親指数及び市場平均(国内株はTOPIX、外国株はMSCI ACWI(除く日本))を上回りました。必ずしもプラスのリターンが確約されているわけではありませんが、市場全体が下落する局面で、ESG関連指数は相対的に小幅な調整にとどまる傾向もみられています。

「なでしこ」選出企業への投資

個別株投資では、ESG優良企業に選出された企業への投資が一手となるでしょう。例えば、女性活躍の推進に優れた企業として、2012年から経済産業省と東京証券取引所が毎年発表している「なでしこ銘柄」があげられます。

女性を含めた多様な人材の確保はイノベーションに繋がるほか、男性も含めた働き方改革を推進することで生産性が向上すると期待されています。こうした考えから、多くのESG投資を行う機関投資家は、女性活用指標に注目し、投資判断に組み入れています。

「なでしこ銘柄」は、売上高営業利益率や配当利回りが市場平均値より高い傾向が見られています(20年3月時点)。また、2019年度の「なでしこ銘柄」株価指数はTOPIXを上回って推移しています。

かつてのエコファンドやSRI(社会的責任投資)は社会貢献に重点が置かれました。一方、ESG投資は、社会貢献を念頭に置きつつも、大手資金運用者の受託者責任という投資リターンに責任を持つスタンスが意識されていますので、一般にもなじみやすい投資手法といえるでしょう。

<文:シニアストラテジスト 山田雪乃>

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