贅沢に味をしめ、節約ができないシニア夫婦。楽しみも諦めず老後破綻を避けるには

今回の相談者は、無職の61歳男性。定年後、旅行で贅沢を知ってしまい、結局現役時代と同じ支出のまま生活している相談者。減ってゆく老後資金に不安を覚えているといいますが……。FPの横山光昭氏がお答えします。

再雇用を希望せず、60歳の定年で退職しました。退職金も2,000万円もらえ、これまでの貯金と合わせて2600万円の老後資金がありましたし、自分は60歳から企業年金が月に約10万円、妻が趣味でやっている商売の収入が月に11万円ほど、合計で21万円ほどあります。

現役時の生活費は約40万円かかっていましたが、これからは仕事に出かけることもありませんし、お金のかかる趣味もありません。節約して暮らせばこの21万円ほどの収入で年金受給が始まるまで暮らしていけると思っていました。

ですが、今までの妻への感謝と自分へのねぎらいの意味も兼ね、クルーズ船の旅行に行ってから、生活が変わってしまいました。いままでろくに旅行に行ったこともなかったのですが、29日間の旅程で、スイートの部屋に泊まりました。一人約110万円。夫婦で220万円、それに加え100万円ほど旅行で使ってしまいました。食事も設備もイベントも素晴らしく、贅沢を満喫できたのですが、帰宅後もその気分が抜けず、思っていたような節約した生活ができなくなってしまったのです。

結局、支出は現役時と同じ程度のまま。不足する生活費は、老後資金を切りくずして出しているので、老後資金がどんどん減っています。このままでは、いつまで老後資金が持つのだろうかと心配です。どのようにすると生活費を半分に下げられ、これまで計画していたような暮らしができるようになるでしょうか。

【相談者プロフィール】

・相談者(61歳 無職)、妻(58歳 自営業)子どもは独立ずみ

・毎月の手取り収入:相談者企業年金約10万円(20年間の有期)、妻約11万円

・貯金:2100万円(60歳時点より約500万円減った金額)

【支出状況(総支出額:35万円)】

・住居費:0円

・食費:10万1,000円

・水道光熱費:1万9,000円

・通信費:2万1,000円

・生命保険料:2万7,000円

・日用品代:1万2,000円

・娯楽費:3万5,000 円

・小遣い:4万円

・嗜好品(タバコ):1万5,000 円

・その他:3万8,000円

・国保・国年:4万2,000円


横山: 定年後は働くことを選択されなかったのですね。よく、定年すると自然とお金がかからなくなるとか、このくらいで収められるなど楽観視した話をされる方がいるのですが、実際はうまくいきません。どうすると支出を改善できるのか、一緒に考えてみましょう。

「何とかやっていける」の根拠は?

「退職金がでたから、老後資金は十分ある。つつましく暮らしていけば、何とかやっていけるはず」とおっしゃる方にお会いすることがあるのですが、実はこの「何とかやっていける」には根拠がない場合が多いものです。実際にかかる生活費のことも把握しておらず、老後の収入では生活費がいくら不足するのかの見当も付いていないのです。このまま老後生活に突入するのは、先行きが不確実で、恐ろしいことだとも思ってしまいます。まずは自分に、またはご夫婦に毎月いくらの生活費が必要なのかを大雑把にでも把握しましょう。収入と比較すると、その生活費はいくら不足する(補てんが必要)のか。それが出せると、老後の生活費としていくらあれば良いのか、ということがわかります。

生活費と臨時支出を把握する

相談者さんの場合は、毎月の収入がご夫婦で約21万円、支出は35万円です。この状況を続けるのなら、毎月14万円を老後資金から出さなくてはならず、これは1年で168万円が減っていく計算となります。単純に考えると、10年で1,680万円、20年で3,360万円が生活費の分として必要だということです。65歳から年金を受給する、妻が仕事を辞める、企業年金の受給が終了するなどで、必要な老後資金は変わってきますが、このような大雑把な見方でも、老後資金が全く足りていないことがわかります。

しかも、先ほどの計算は生活費分だけで、介護医療費やリフォーム代など臨時でかかる支出は含まれていません。生活費も、将来必要となる臨時支出も残していきたいとなると、早急に生活費を圧縮することを考えていかなくてはなりません。

老後資金不足でできることは節約だけなのか

相談者さんのように老後資金が不足する見込みが強い方の場合、節約することは効果的ですが、それだけでは人生の楽しみがないと考える人もいるでしょう。実はできることとは節約だけではなく、収入を得ることも検討する余地があることです。

老後資金を十分に残していくには、
1、収入を増やす
2、支出をコントロールして減らす
3、運用をする
という3つがあります。

定年後は無理をして運用することはありませんが、今ではシニアの働き口もありますから、一度退職しても働いて収入を増やすことはできそうです。

赤字になる金額すべてを働いて稼ぐと考えると、負担感が大きくなりがちです。ですが、パートやアルバイトなど、時間を短くしたり、働く日数を少なくするなどしながら収入を増やすことは検討できるのではないかと思います。

節約して支出を減らすとともに収入を増やすことができれば、赤字額はぐっと減らすことができるでしょう。そうできると、老後資金が減るスピードが遅くなり、長持ちさせることができます。老後は豊かな生活を送るためにも、収入と支出のバランスが取れるようにして行くことが大切です。

今、支出を減らすには

クルーズ船での旅行以降、節約ができないということですが、減らすことができない支出、減らしても構わない支出がどれかを奥さんと検討してみましょう。あれもこれも必要であると言われると何も変わらないのですが、支出を振り返ってみると、意外と「なぜ、こんなことにお金を使っちゃったのかな」と思う支出もあるはずです。そういった支出が少なくなるように、ご夫婦で意識できるとベターですね。

具体的には、食費は金額から見ると明らかにかかりすぎです。ご病気で治療食を外注しているなどご事情がある場合は別ですが、そうではない場合、無駄にしている食材はないかなどを振り返り、買い物の仕方を変えてみましょう。1週間の予算を決めてみるというやり方も、効果が出るケースが多いです。また、通信費はスマートフォンなどの使い方から、契約プランを見直すと支出が減ることが多いです。

優先順位を話し合ってみる

他に娯楽費なども減らせるところがないかみてみましょう。全てが必要な支出だと思える場合、どれが一番大切な支出なのか、順位をつけてみましょう。優先順位がわかると、優先順位の高くない支出は、カットできたり、支出の頻度を下げたりできるものです。そのようにして支出のコントロールをしていけば、これから先、赤字額が少ない暮らし方ができるようになる可能性が高まります。

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