株で3000万円の損失も、分譲マンション23戸オーナーの「投資遍歴」

株などの投資経験がある人でも、意外と知らないのが不動産投資の世界です。2008年から不動産投資を始め、東京23区内に分譲マンションを23戸保有する依田泰典さんに、株と不動産の違いについて伺いました。


怪しい業者から勧誘された

――投資との関わりは株式投資からですか?

はい。会社員になる前の年に株を買い、それが投資との初めての接点でした。その時に買ったのは入社予定だったソニーの株で、1年くらい保有して90万円くらいの利益が出ました。
それで「投資は面白い」と感じたのが始まりです。当時はITバブルの頃で、新興市場の株が上がっていました。そこを狙って、上がったら売り、次の銘柄を買い、また上がったら売って新しいのを買う回転売買でしたので、多い時で1ヶ月で5,000万円分くらい売買したこともあったと思います。

今だから言えますが、昼休みもご飯を食べるのもそっちのけで、株価をチェックしていました(笑)。
ただ、入社して数年経つと仕事が徐々に忙しくなります。そのため、これも今だから言える話なのですが、株式投資に詳しい友人に証券会社のIDとパスワードを伝えて、株価が本当に気になったときには株を売買してもらったりしていました(笑)。

――出だしから数年、順調に資産を増やしたのですね。

そうですね。ただ、そもそもバブル相場でしたし、売買しているのは値動きが荒い新興銘柄です。上がる時だけでなく下がるスピードも速く、大きく損したこともあります。1つの銘柄で3,000万円を超える損失が出て、「なんでこの株を買ってしまったんだろう」と後悔して、泣いたこともありました。

――不動産投資との接点は?

2005年に会社に怪しげな不動産会社から営業電話がかかってきました。今は少なくなったと思いますが、当時は会社に営業電話がかかってくることが結構あったのです。その時はまだ株に熱中していたのですが、不動産投資に興味がないわけでもなかったので、とりあえず話を聞いてみたんです。

ただ、会ってみると、とても怪しいんですよ(笑)。「不動産は年金代わりになる」「団信(団体信用生命保険)を使えば生命保険代わりになる」など、言っていることはわかるのですが、表面的な説明で、この時は自分には響きませんでした。リスクをとって物件を持つ意味や不動産に投資する本質が全然見えなかったのです。早く買わせようと急かしますし、「儲かります」「買ったほうがいいです」と推すにもかかわらず、営業マン本人は「僕はローンが通らないので」という理由でやっていません。他にも数社の営業マンから話を聞きましたが、どこも怪しく感じて、結局、この時は買いませんでした。

カギを手にした時にスイッチが入った

――物件購入に至ったのはいつですか?

リーマンショック後の2008年です。リーマンショックで手持ちの株が大きく下がったことと、そのころは相場が荒れていて、日経平均の上げ下げを見て一喜一憂するのが苦痛と感じるようになったのです。そこで、あらためて不動産投資について話を聞いてみようと考えました。不動産業者の一括サイトで資料請求して、8社くらいから話を聞くことにしたのです。

――そのうちの1社から初めて物件を買うわけですね。

はい。サイト経由の業者は物件のパンフレットだけ持ってくる営業マンが多かったのですが、「この人から買おう」と思った人は、国交省や日銀、口問題研究所などのデータを資料に見やすくまとめていて、不動産投資について細かく説明してくれました。怪しい業者から話を聞いている時は、何度説明を受けても食指が動かなかったのですが、彼の説明を聞いてみると、投資する理由が納得できたのです。どんな営業の人と会うかは重要ですよね。その人は僕と同じ歳くらいで、今も付き合いがあります。

――どんな物件を買ったのですか?

2戸購入しました。当時は不況で融資がつきづらく、不動産業者も在庫を一刻も早く処分したいという意向だったので、安く買えました。僕は車を持っていませんでしたので、何かのオーナーになった経験がありません。なので、シンプルに不動産オーナーになったんだ、と思ったらとても嬉しくなったことを覚えています(笑)。車に乗る人は歩行者と運転者の2つの視点を持っていますよね。賃貸に置き換えると、それまでは借り手側の視点しかありませんでしたが、引き渡しを受け、物件のカギをもらった時に貸す側の視点が増えたのを感じました。それが僕の中で衝撃的で、スイッチが入ったのです。

――その後、物件数を増やしていくわけですね。

はい。自宅を買って、それからまた投資用物件を増やして、いまは23戸まで増えました。2017年からはベンチャー企業への出資を始めたこともあり、不動産は購入していませんので、実質的には10年で23戸購入したことになります。

所有物件のある街

株は売買、不動産は「経営」

――株と不動産を両方経験して、どのような違いを感じますか。

不動産投資は、投資という言葉がついていますが、実際には経営の感覚に近いと思います。投資対象として物件を持つというより、大家として賃貸不動産事業を経営する視点が重要だと感じます。

例えば、一般的に、株式投資では保有銘柄に対して自分の影響度合いが小さいです。株を買った会社について個人でどうこうできるわけではないので、買った後の値動きは市場や会社次第です。
一方、不動産は自分で工夫できます。ささいなことですが、入居者がつきやすいように内見のためのスリッパを用意したり、住む人が快適に暮らせるようにアクセントクロスに張り替えたり、細かなことから大掛かりなことまで、自分の物件だからいろいろできます。その伸び代が大きいと気がついたことで、僕は物件を増やしたくなったのです。

――買い方についても、不動産投資のほうが金額が大きく、融資を使うなどの違いがありますね。

そうですね。その点で大きく違うと感じるのは、株は市場で決まった価格で買うしかありませんが、不動産投資では交渉ができるということです。物件価格は不動産業者と交渉できますし、金利も金融機関と交渉できます。僕は手持ちの物件をサブリースしているので、サブリース料率などの条件の交渉もしています。交渉を有利に進めたり、相手と良い人間関係を作るという意味で、ここにも経営の要素があると感じます。僕の場合は、当初は交渉というより「お願い」と言ったほうが正しいかもしれません。相手のメリットも考え、値下げなど条件の改定をお願いして、最後には相手が「負けました」と言って値引いてくれたこともありました(笑)。

――それはなかなか高度な技術が必要かもしれませんね。収支や収益構造についてはどんな違いを感じますか。

もっとも大きいのは、株式投資をする人はキャピタルゲイン(売買益)狙いが多く、賃貸経営はインカムゲイン狙いが多いということです。株の場合、配当や株主優待を狙うのも良いのですが、まとまった収入にするためには数億円分の資金が必要です。ある日、減配や無配転落する可能性もありますし、会社が倒産する可能性もあります。
一方の不動産投資は、物件の価値さえ維持できれば、長期で安定的に家賃収入を獲得できます。株のように配当がなくなったり、会社が倒産することもありません。

――株と不動産は、ひと口に「投資」と括られることが多いのですが、投資対象だけでなく様々な違いがあるのですね。

はい。自分のお金を使って増やすという点は同じですが、株が合う人がいれば、不動産投資が合う人もいると思います。投資に興味がある人は、どちらもやってみると良いですよね。これから投資そのものを始めようと考えている未経験の人であれば、まずは少額でできる株を始めてみれば、投資がどういうものか勉強できるでしょう。すでに株をやっている人は、不動産を始めてみることで自分に合うかどうかわかります。僕自身、当初は株が良いと思っていましたが、不動産を始めてみたら不動産のほうが向いているのではないかと感じるようになりましたからね。

依田泰典(よだ・やすのり)
不動産投資家。ベンチャー投資家。ソニー在籍時に不動産投資を始め、東京23区に分譲マンションを23戸保有。不動産会社勤務を経て、現在は複数のスタートアップへ出資・経営支援をする等、幅広く投資活動を実践。

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