「現地を見ずに買う」のは言語道断、不動産投資初心者が見落としがちなこととは?

物件探し、融資の手続き、賃貸管理など、不動産オーナーはやることが多そうに見えます。これから不動産投資を始める人はどんなことに注意すれば良いのでしょうか。2008年から不動産投資をはじめ、分譲マンション23戸を持つ依田泰典さんにポイントを聞きました。


ターミナル駅の隣が狙い目

――これから不動産投資を始めようと考えている人は、まず「どこに買うか」で迷うと思います。依田さんはどんな点を重視しているのですか。

不動産投資の方法は人によって様々ですが、僕は区分投資ですので、最寄り駅から徒歩5~8分以内で賃貸需要が高い駅の物件を選びます。

ただ、賃貸需要は重要なのですが、青山、表参道、恵比寿などの誰もが憧れるような立地であることは必ずしも意識しません。一等地は地価は高い(資産価値も高い)のですが、その分、投資効率は高くなく、そういった駅から1、2駅ほど離れた駅や、ターミナル駅まで電車1本で行ける駅を狙います。

山手線沿線を例にすると、池袋、新宿、渋谷、品川、東京、上野といったターミナル駅から放射線状に電車が出ていますよね。これから物件を探すのであれば、その図を頭で描きつつ、ターミナルの隣や、簡単に行ける駅を見ていくのが良いと思います。

――ターミナル駅と比べると、1駅離れるだけでも物件の価格差がありますので、手に入れやすい分、これから投資する人のハードルも下がりますね。

そう思います。自宅用ならターミナル駅周辺で探しても良いと思いますが、賃貸では誰もが知るような大きな駅にこだわると、予算の問題でなかなか買えず、いつまでたっても不動産投資をスタートできなくなってしまいます。その点、少し離れた駅は価格的に手が届きやすくなります。

借り手側から見ても、例えば「上野に住みたい」「池袋で借りたい」という人は多いのですが、家賃が高い場合は隣の駅を探したり、不動産屋さんが隣の駅の物件を紹介することが多いのです。そのような需要はある程度見込めますし、「ターミナル駅は繁華街でうるさい」「勤め先と同じ駅は避けたい」と考える人なども結構多いのです。

――最初の物件を買った時からそのような戦略だったのですか。

はい。最初に買った物件は埼京線沿線で、池袋、新宿、渋谷、恵比寿に1本でアクセスできるところが良いと感じました。また、現地を見てみると、近くに都営三田線の駅があり、その路線を使うと大手町や日比谷などビジネスエリアにもつながっています。そのような点を見つつ、あとは物件の規模や駅の乗降客数などを見て選びました。

最初に物件を買った駅

この時に買った物件は購入から12年ほど経っていますが、家賃を下げていません。最近、この物件の駅前は再開発が決まりました。建物は経年劣化しますが、それでも家賃を下げることなく借り手がついています。誰もが知るターミナル駅にこだわらなくても、その近隣で探せば賃貸需要が高い駅はあるものなのです。

現地、現物を4回見る

――よさそうな物件を見つけたら何をすれば良いですか。

絶対に外せないと思うのは、現地に行って実際に現物を見ることだと思います。

物件を買う人の中には、図面、写真、収益シミュレーションなどのデータだけを見て買う人がいますが、賃貸需要を正しく把握し、適切な投資判断をするためには現地を見ることが大事です。

――現地、現物を見ずに買う人がいることに驚きです。

きっと株を買うような投資の感覚なのだと思います。
地方の物件の場合は「遠いので見にいけない」「見に行く時間がない」といった理由があるのかもしれませんが、近場でも見に行かない人がいます。

不動産屋がデータなどを一式揃えて、「任せてください」「現地に行かなくても大丈夫です」などと営業しているケースもあります。地縁がある場所ならともかく、不動産会社の情報だけで買うと失敗するリスクは高くなりますよね。

逆に、現地に行って賃貸需要などをきちんと把握できれば、空き家リスクなども抑えられるでしょう。あと、実際に街を歩いてみると、今まで気が付かなかった新しい発見があるかもしれません。

――どれくらい足を運ぶのが良いですか。

僕の場合は、少し極端かもしれませんが、最低でも4回は見るようにします。見るタイミングとしては、平日の昼と夜、休日の昼と夜です。例えば、山手線沿線でもオフィスが多い駅などは休日は人が少ないです。昼は賑わっているのに、夜になると急に人が少なくなる街もあります。そういう時に物件を見に行くと、ここは需要がないと誤解してしまうでしょう。それを避けるために、時間帯を変えて4回くらいは見たほうがいいと思います。

家電量販店で冷蔵庫を買う時ですら、実物を何回か見ますよね。車も実物を見るでしょうし、試乗もします。その点から考えても、冷蔵庫の何十倍もする物件を一度も見ずに買うのは勇気がいります(笑)。

購入より管理に目を向けよう

――不動産投資を始める人が見落としがちなポイントは何ですか?

不動産投資を、物件購入の前と後で区切ってみると、多くの人は前段階のことに注目します。物件選び、融資、金利、家賃設定なども、全て前段階に含まれます。
しかし、実際には購入してからが大事です。なぜなら、実際に物件が収益を生むのは購入後のことですし、物件は経年劣化していくため、資産としての価値をできるだけ維持することが大事だからです。

また、建物全体の管理も重要です。区分マンションの場合は自分の物件の資産価値や家賃のことを気にする人が多いのですが、専有部分が魅力的でも、建物のエントランスにゴミやチラシが散らかっていたら、借り手はおそらく内見してくれません。専有部分だけでなく、共用部分の価値にも目を向ける必要があるのです。そのための方法として、僕は自分が所有する建物の管理組合の活動に参加しています。

――空室や家賃滞納などのリスクはどう考えれば良いのでしょうか。

賃貸需要がある場所に物件を買えば、空室リスクについてはそれほど真剣に考えなくて良いと思っています。例えば、僕は東京23区内に所有物件がありますので、基本的には空室は出ません。もし23区内で空室が続いているのであれば、それは設定家賃が市場と乖離しているか、仲介業者さんとの連携がうまくいっていないことが原因である可能性があります。

入居者のリスクについては、物件の質と関係します。賃料が安いアパートなどはどうしてもリスクが高くなるでしょう。知人の投資家の話を聞いていると、夜逃げどころか、昼に堂々と逃げた人がいたそうですし、残置物が多い、設備を壊す、滞納が続く、いつ行ってもいないといった話も耳にします。

そういったリスクが心配であればサブリースという方法が検討できるでしょう。僕も23戸ある物件はほぼ全てサブリースにしています。一般的には、サブリースは家賃の85%ほどになってしまいますが、通常よりも良い条件を引き出しているのでキャッシュフロー上もプラスになっています。

――そのような手立てがあることを踏まえれば、不動産投資はそれほどハードルが高いわけではないですね。

はい。課題になるとすれば、あとは自己資金や融資などでしょう。

最近はフルローンやオーバーローンで買える一棟ものはなくなりましたが、区分マンションはまだまだあります。ただ、僕は、(複数の物件を保有する場合には特に)自己資金は準備したほうが良いと思っています。なぜなら、自己資金が多ければ借入金が減りますし、金融機関の金利は残債に対してかかるため、借入金が少ないほど金利負担が減り、残債が減るスピードも早くなります。

融資に関しては、誰もが融資を受けられるわけではありませんので、買いたくても買えないことがあります。ここが不動産投資の特徴だと思います。一般的な商品は、買いたい時に買えます。株などの投資も、少額で始められます。しかし、不動産投資は融資を受けて行うことが多いため、融資が下りず、始められないことがあるのです。

そう考えると、会社員であることや属性が高いことなどは不動産投資で有利に働く条件といえます。不動産投資に興味があり、属性的に融資が受けられそうなのであれば、一度真剣に不動産投資を検討してみると良いかもしれませんね。

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