コロナ禍で“賃貸脱出層”が増加!戸建て人気エリアは?冬ボーナス減でも住宅ローン組める?

新型コロナウイルスの影響で、住宅市場に大きな変化が起きています。リモートワークが長期間続いていることで、自宅で十分な作業スペースを確保できない人たちが住宅を買う動きが出ているのです。

実際にどのエリアの住宅が売れているのか、コロナ禍による収入減が住宅ローンにどう影響するのかなどを不動産・住宅情報サイト「SUUMO(スーモ)」の池本洋一編集長に聞きました。


リモートワークで増える“賃貸脱出層”

――コロナ禍で住宅に対する意識が変化しています

住まいへの関心が高まり、特に新築一戸建てが絶好調です。新築マンションは昨年に比べて供給数は減っているものの、依然としてニーズはあります。モデルルームの予約はいっぱいで出している物件はよく売れています。

なぜこれほどまでに売れているかというと、“賃貸脱出層”が増えているからです。リモートワークが浸透して、家の中ですごす時間が長くなり、今住んでいる家を手狭に感じたり、断熱、遮音性などの性能面に不満を感じたりする人が増えました。

特に売れているのは、すぐに入居できる物件です。中堅の住宅メーカーの中には6、7月の単月の成約件数が過去最高を記録した企業も出てきています。

――マイホームを購入する層に特徴はありますか

初めてマイホームを購入する人の比率が増えています。子どもが大きくなったら住居の購入を考えていた20、30代の「リモートワーク組」が、今の環境に耐え切れず、前倒しで購入しています。逆にランクアップの買い替えを考えている層は、様子見をする人が多い傾向です。

――リモートワークが追い風になったということですね。このような状態になることを予想していましたか

当初は考えもしませんでした。

ただ、予兆はあって、4月はモデルルームが閉鎖し見学できない状態が続いていましたが、スーモの資料請求数やPVが急増しました。4月の新築戸建ての資料請求数は前年同月比約1・5倍に跳ね上がりました。ゴールデンウイークあたりから「くるな」という感覚がありましたね。

住宅ローンは前年の年収が審査対象

――コロナ不況とも言われますが、リーマン・ショックの時との違いは何でしょうか。

今、住宅が売れている一番の大きな理由は、賃貸を脱出する人たちが買うことができているからです。なぜ買えているかというと、要因は2つあります。

1つ目は新築の分譲戸建てが非常に安く供給できているから。だから2LDKの賃貸に住んでいた人たちが、4LDKの戸建てを購入できている。同じエリアでは難しくても、これまで駅から徒歩5~10分の物件に住んでいた人が、15~20分の物件なら買えるとか、急行電車が停まるターミナル駅から1、2駅離れたエリアなら買えるということです。

2つ目は住宅ローンがしっかりつくこと。コロナ禍で急遽、家を買うことを思い立った人の中には頭金が少ない人もいると思います。今、住宅ローンは頭金がゼロに近くてもフルローンが組めます。

また、住宅ローン審査は前年の年収で見るので、新型コロナウイルスによる収入減の影響が出る前の額が査定の対象になります。また、超低金利でネット銀行なら0.5%、「フラット35」でも1%程度なので、購入を検討しているのであれば、買わない理由はないのではと思います。

――コロナの影響でこの冬のボーナスが減る人はどう影響しますか。

来年購入を検討していて今年の冬のボーナスが減った場合、今年の年収で審査されるので厳しい環境になると言えます。ほしい物件やエリアが明確に決まっていて、今年か来年で購入のタイミングを迷っているのであれば、ローンの審査対象になる時期を考えてほしいと思います。

東京→地方の動きは限定的

――人気のエリアに変化はありますか。

あります。今年1月と比べて、「SUUMOジャーナル」で、新築戸建て物件のPVが伸びているエリアに共通しているのは郊外ということです。

例を挙げれば、千葉県浦安市、千葉市、埼玉県吉川市などで、上位に東京23区は一つも入っていません。このエリアの共通点は、割安感がある郊外です。例えば、埼玉方面で人気のさいたま市は物件価格が高い。

一方、同じ埼玉県でも吉川市は3000万円代前半で戸建てが買える。「毎月の返済額がこのぐらいであれば買えるかな」と思えるエリアが強くなっています。ただし、房総半島や湘南といった一部の人気エリアを除き、あまりにも遠方でエッジがたっていないエリアのPVはむしろ減っています。

まとめると、全ての郊外エリアが絶好調というわけではなく、都心に通勤が可能な郊外エリアが人気です。

よく「都心から郊外へと人が流れている」という報道を目にしますが、間違った認識です。もちろん神奈川県藤沢市の海側や逗子、葉山といったピンポイントで人気の町はありますが、同じエリアの中で賃貸から戸建てに脱出しようとしている層が増えているとみるほうが自然だと思います。

来年、再来年の住宅市場はどうなるか

――ワーケーションという言葉が広がり始めていますが、リゾート地に物件を買う人は増えていますか。

別荘エリアは注目度が上がっています。1都3県を除外して問い合わせ件数の伸び率が高いところでは、山梨、栃木、茨城が増えています。東京近郊の北関東、甲信越エリアの問い合わせ数がかなり増えています。

当社からスピンアウトした、別荘地の戸建てやマンションのポータルサイト「別荘リゾートネット」では、5月のアクセス数は前年同月比の倍で、資料請求数も40%増です。

移住者コミュニティーも拡大傾向で、まずは賃貸で暮らしてみるという人が多いようです。これは会社の規模を問わず、リモートワークが浸透したことによる変化の一つだと思います。ただ、個人的には首都圏で暮らしていた人たちがリゾート移住する動きは限定的だと思います。

――来年、再来年の住宅市場をどう展望されますか。

コロナ禍によって年収が減ることでローン借入額が減少、購入できる人が減りマーケットは冷え込むと見ています。郊外の一戸建て購入は需要を先食いした感があり、来年以降は今年の夏ほどにはならないでしょう。ただ、テレワークの快適性を一度経験した人は戻れないので、自宅内にワークスペースを確保し一定の広さを求める動きは続くと思います。

また、コロナ禍で二拠点ニーズが高まりましたが、これは来年以降も続くと見ます。中途半端な郊外の広めの家を買うのではなく、資産価値が出る可能性が高い「都心狭め+広い田舎リゾート」を選ぶ人が増えるのではと予測しています。

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