アラフィフ子なし夫婦「甥っ子に資産を譲るにはどんな方法がある?」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、49歳、会社員の女性。子どもがいない相談者夫婦。甥っ子に資産を譲りたいと言いますが、どのような方法があるのでしょうか? FPの伊藤英佑氏がお答えします。

子なし夫婦です。甥っ子に資産を譲るために今からしておくことは何でしょうか。

【相談者プロフィール】

・女性、49歳、会社員、既婚

・同居家族について:夫(53歳)は同じ会社。月収、夫婦それぞれ70万

・子どもの人数:なし

・住居の形態:持ち家(戸建て)義父の土地に家を建てています。ローン無し。

・毎月の世帯の手取り金額:140万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:800万円

・毎月の世帯の支出の目安:50万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:なし

・食費:15万円

・水道光熱費:3万円

・教育費:なし

・保険料:5万円

・通信費:3万円

・車両費:3万円

・お小遣い:20万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:30万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:300万円

・現在の貯蓄総額:3,500万円

・現在の投資総額:0

・現在の負債総額:0


伊藤:ご質問ありがとうございます。

50歳前後で子どもがいないご夫婦が甥に財産を遺すためにどういう方法が考えられるかについて、甥の相続人としての権利関係、財産の残し方の方法と注意点、また付随する税金(相続税・贈与税)の問題について考えてみます。

ご夫婦が亡くなった場合に財産の相続権はどうなるのか、また、生前贈与や相続により財産を残す方法、甥姪を法定相続人にできる養子縁組についてなど、概括と注意点を見ていきましょう。

甥は法定相続人になるのか

人が亡くなった時、その人の財産は法定相続人に財産が相続されます。亡くなった人(被相続人)の遺言があれば遺言に従い財産が引き継がれます(遺贈)。

日本の法律では民法で、「法定相続人」として誰がいくらの割合で故人の財産を相続できるのかが定められています。故人の遺志で遺言による指定がない限り、相続が発生したらこの法定相続人間で遺産分割協議をして、遺産分割の方法を決めることになります。法定相続人全員の合意があれば、遺言の有無に係わらず法定相続人全員の合意で自由に変更が可能です。法定相続人が自ら不利益を負うので現実的かどうかは分かりませんが、遺産分割協議で法定相続人全員の合意があれば、甥に財産を全て残すということも可能です。

甥姪は法定相続人になるのかどうか、結論からいえば、ご相談者のように、子どもがいないご夫婦が両者とも亡くなったときに、親、兄弟も既に他界されていた場合は、甥姪が法定相続人となります(夫に先立たれた妻が亡くなった時、妻自身の甥姪で、夫の甥姪は法定相続人とはなりません)。

法定相続人の順位

誰が法定相続人となるのかは以下のように定められています。

法定相続人は「配偶者と血族」と定められており、まず配偶者は必ず相続人となります。そして血族は下記のように順位付けがされていて、同順位の方は複数いても全員が相続人とって同順位内でその法定相続分を按分することになりますが、先順位の親族がいる場合は後順位の親族は相続人となりません。

第1順位 子および孫などの代襲相続人
第2順位 両親や祖父母などの直系尊属
第3順位 兄弟姉妹および甥や姪などの代襲相続人(だいしゅうそうぞくにん)

※例えば第1順位の子が被相続人である親より先に亡くなっているけれども、子の子(被相続人から見て孫)が既に生まれている場合、子の権利は「代襲相続」として孫に引き継がれ、そういった相続人を「代襲相続人」と言います。ただし第1順位のグループでは孫が亡くなっている場合にひ孫、ひ孫も亡くなっている場合には玄孫と理論上は無限に引き継げますが、第3順位の兄弟姉妹の代襲相続は甥・姪までしか認められていません。

例えば、子がおらず、優先順位が上位である、親、兄弟も既に他界されていて、配偶者と甥のみがいる場合は、法定相続割合は、配偶者が4分の3、甥が4分の1となります。逆に、すべての財産が配偶者に法定相続されるわけではありません。

またご相談者の両親や甥の親である兄弟姉妹がご存命だったとしても、甥が直接ご相談者の相続人にはなれませんが、その両親や兄弟の相続を経て(生前に使い切っていなければ)最終的には財産は甥に相続されていくということになります。あとは、財産のうちどの程度を甥に遺したいのか、相続で残したいのか生前に残したいのか、また、ご相談者本人だけではなく配偶者の財産も遺したいのか、配偶者の甥姪に残したいのかどうかなどにもより手法が変わってきます。意識的かつ確実に甥に財産を遺したいのであれば以下のような方策を検討していくことになります。

甥に確実に財産を遺す方法1)遺言の作成

最もポピュラーな方法は、ご相談者が亡くなった際に備えて、法定相続分を超えて甥に遺したい財産の詳細を遺言として書面で意思表示しておくことです。遺言作成には、主に自分で作成する自筆証書遺言と、公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言などがあります。法的に有効な方法でないと他の相続人に異議を主張されて無効になってしまったり、また保管の問題もあるため、しっかり有効な方法を調べて準備をしましょう。法定相続人には法定相続割合の半分は遺留分という権利があり、もし遺言書を作成しても遺留分で揉める可能性がある場合、生前のうちによく話し合っておかなければなりません。すべての財産を配偶者や甥に残すなどの遺言は、他の法定相続人が遺留分減殺請求という手続きで請求ができる権利があるため、相続人に争いごとの種を残さないためにも、遺留分の侵害にも注意が必要です。

その他の注意点として、配偶者と一親等の血族(代襲相続人となった孫など直系卑属を含む)以外の親族への相続や遺贈では、相続税が通常より2割加算されます。そのため遺された財産の額が相続税の課税ラインである基礎控除枠「3000万円+600万円×法定相続人人数」を超え、かつ少しでも多く財産を甥に遺したいという場合には、このことも課題となってきます。

甥に確実に財産を遺す方法2)生前贈与や生命保険

他の方法としては、生前のうちに財産を甥に贈与する方法もあります。年間110万円までは贈与税は掛からず、遺言の場合と同様にある程度の範囲までは甥に確実に財産を譲ることが可能です。ただし、適正な贈与の手続きをして贈与をしないといけません。ご相談者が甥名義で口座や印鑑を作り、ご相談者ご自身で管理しているなどの場合だと、税務上は贈与が成立していないということになりますので気を付けましょう。

配偶者や直系血族・兄弟姉妹、または三親等内(甥は入ります)の親族で生計を一にする者へ、通常必要と認められる範囲で、必要な都度費消される形で贈与したお金は贈与税は掛かりません。生活費や学費や住宅購入費など、今まさに資金が必要な状況であればそれを支援するという方法もあります。また、甥を受取人に生命保険に加入しておくという方法も考えられます。

なお、現在の貯蓄は3500万円とのことですが、将来、ご質問者が亡くなったときの財産が基礎控除枠である「3000万円+600万円×法定相続人人数」を超える場合、遺言や生命保険で甥に財産を残すと、甥は法定相続人ではありませんので、相続税の2割加算の対象になりますので相続税の納税額が2割増しになります。死亡保険金は、法定相続人1人あたり500万円まで相続税が非課税になりますが、甥は法定相続人ではないのでこの非課税枠の適用はありません。もしご相談者の両親や甥の親である兄弟姉妹が、ご相談者の相続発生の時に既に亡くなっていて甥が代襲相続人となっている場合、甥は法定相続人となるので2割加算もありませんし、生命保険の非課税枠も活用できます。

甥に確実に財産を遺す方法3)養子縁組

甥と相互に我が子のように通じ合っているなら、甥を養子にするという選択肢もあります。

養子には、実親からの扶養や相続といった法律上の親子関係が維持される普通養子縁組と、実親との法律上の関係が完全に断絶される特別養子縁組の2つがありますが、特別養子縁組は実親が子供を虐待している、経済状況などにより監護者として子の利益を守ることができないなど、特殊な場合にのみ認められる制度のため、相続対策として行うのであれば普通養子縁組を採用します。

養子は、法律上は実の子の場合と同様に第1順位の法定相続人となります。養子は実の親(実親)と養子縁組の親(養親)の2組の親子関係が成立することになります。
すなわち、法律上はご相談者の法定相続人である子となりますので、相続順位が上がり、法定相続割合も増えます。相続税においても、相続税の基礎控除額が上がり、生命保険金の非課税限度額の適用もされることになります。

一般的には養子にすることまではなかなかしないと思いますが、相続対策としては強力な方法です。配偶者の法定相続割合が、配偶者と養子となった甥で1/2ずつになりますので十分な注意と慎重な検討が必要です。また、もしも養子縁組を解消するためには「離縁届」を役所に提出する必要がありますが、そのためには双方の合意が必要です。

最も多く財産を譲りたいなら全ての方法を採用

節税のことまで考えてなるべく多くの財産を甥っ子に譲りたいという場合、養子縁組をしつつ暦年贈与で生前贈与をし、トラブル防止を考慮しながら遺言書を作成するというお答えになります。ご相談者夫婦は、退職前で年間660万円貯金が増えており、現在の貯蓄や持ち家、今後の退職金や配偶者の父親から配偶者への土地などの相続の可能性も考えると、将来的に相続税の課税対象となる可能性は高いと思われます。

ただ課税対象となっても申告納税をすれば良いので、無理にまで節税をしたいわけではない、もしくは財産の一部を譲りたいだけなのだという場合は、養子縁組をせずとも相続時の状況によっては自然と甥は法定相続人となり得ますし、生活上の支援をしてあげつつ、次に、生命保険、遺言の作成、生前贈与を複合的に考えることがおすすめです。どの方法を採用するかは、ご相談者夫婦のライフプランとのバランスや、甥の人生でどのタイミングで大きな資金があるとより展望が開けるのかなど考えて、生前のうちに贈与するか将来に相続で財産を遺すのか決めれば良いのかと思われます。

実際に実行に当たってはより細かな検討が必要になります。そのため分からないことはきちんと専門家に具体的にご相談の上、方法の採用と手続きを行っていただければと思います。

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