「目的」が見えない

 最初の“違和感”は自民党総裁選の最中だったと記憶している。彼は、政治を志した理由を〈世の中を動かしているのは「政治」ではないか、とある時気がついた〉と語った▲菅義偉青年の若き日の気づきは間違いではないだろう。ただ、世の中をどんな方向に動かそうと考えて政治の世界に飛び込んだのか-が語られなかった気がするのは記憶違いだろうか▲首相に就任して1カ月目。菅氏は「念頭に置いているのは、やるべきことをスピード感を持って躊躇(ちゅうちょ)なく実行に移すこと」「できるものから改革を進めて、国民の皆さんに実感として味わっていただく」と話した▲改めて読み返してみて、どの言葉にも「方法」だけがあって「目的」が見当たらないことに気づく。そこがどうにも気になる▲口癖のように強調する「縦割り行政の打破」もまた、目的ではなく、方法に過ぎない。「餅は餅屋」という言葉がある。縦割り自体は行政の高度化や専門化に伴う必然的な現象である。肝心なのは縦割りを打破した社会が向かう先だ▲臨時国会の週明け召集が決まった。番頭役の加藤勝信官房長官が「菅内閣がどのようなことを目指すか、しっかり示したい」と話しているのは興味深い。目的が見えないことの自覚と不安と危機感が“身内”にもあるのかもしれない。(智)

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