日本で消えた爆買いは中国国内で進行中、二極化が進む中国消費の今

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、海外旅行が制限されたことで姿を消した外国人観光客、特に中国人観光客による爆買いの蒸発は国内インバウンド事業に大きな打撃を与えました。

しかし、ある程度新型コロナウイルスの感染がコントロールされた中国国内では、高所得者層の消費意欲が確認されています。コロナ禍の収束後、再びインバウンド需要の戻りに期待できそうです。


中国勢の爆買いに下支えされていた日本の消費

新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大する以前、中国は約2,768億ドル、日本円にして約29兆円(2018年)もの巨額の海外観光消費をしており、これは日本だけではなく旅行先の国々のインバウンド消費を押し上げていました。

2019年の訪日外国人旅行者数(除くクルーズ船)は約2,985万人、旅行消費総額は約4.7兆円でしたが、その内中国からの旅行者が占める割合はそれぞれ約27%、約36%と特に消費面での中国人観光客の存在感は大きいことが分かります。

中国からの訪日観光客による支出の半分近くが買物代であり、彼らが購入する化粧品等を販売するドラッグストアの他、家電量販店などがその恩恵を受けていました。

しかし、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大し、各国が入国・渡航制限措置を導入したことで、当然ながら海外旅行はほぼ0となり、インバウンド消費も激減。インバウンド需要を取り込んで成長していた産業には大きな打撃となりました。

爆買いの一部は中国国内で継続中

新型コロナウイルスの感染拡大と入国・渡航制限の導入により消えた中国人観光客の爆買いですが、中国人の消費意欲が蒸発したわけではなく、新型コロナウイルスの感染がある程度コントロールされたとみられる中国国内に場所を変えて継続しているようです。

中国の消費統計である小売売上高自体は1~9月期で▲7.2%と、中国全体の消費の戻りは鈍い状況です。しかし、一部の品目に目を向けると、力強い伸びを示しているものもあります。

それは自動車販売のほか、消費とは異なりますが不動産投資といった高所得者の消費・投資項目です。これらの品目は消費や投資全体のけん引役となっています。

また、大型店舗での消費が相対的に強く戻っており、これは都市部の中間層以上の消費の戻りを示すと考えています。上に挙げたような品目・店舗以外では、10月上旬の国慶節の連休期間にも中所得者層以上による消費行動の戻りが確認されました。

中国有数のリゾート地である海南島における国慶節連休中の免税店売上は前年同期比で倍以上に増加しています。国慶節以前から、免税枠が拡大された同地での売上は急増していましたが、これまでの伸びを大きく上回りました。

報道によれば、免税店での消費が増えた項目は化粧品やアクセサリーといったこれまで海外で購入していたと思われる商品群であり、これまで旅行先で購入していた品目をリピート消費する形で爆買いが国内へ場所を変えて行われているもようです。

中国国内で進む消費の二極化

1~9月期、中国の1人当たり可処分所得は実質で前年比+0.6%と小幅に増加しましたが、居住地別に見ると都市部では同▲0.3%と都市部の弱さが浮き彫りになりました。この背景には、農民工と呼ばれる農村部からの出稼ぎ労働者の多くが職を失っていることがあると筆者は考えています。

当局の発表によれば1~9月において、中国では900万人弱の新規就業が確認されたとしています。新型コロナウイルスが制御された後に雇用は回復しましたが、その裏で農民工の雇用回復は鈍く、昨年よりも380万人以上減少しています。

そうした雇用減少は農民工など低所得者層に集中しており、こうした層の雇用・所得の戻りの鈍さが消費全体の足を引っ張っていると思われます。

新型コロナ収束後、インバウンド需要の戻りが期待できるかもしれない

これまで述べてきたように、中国におけるコロナ禍の悪影響はその多くが低所得者層に集中している可能性があります。

その一方で、中間層以上、特に富裕層の消費意欲がそれほど落ち込んでいないということは、他国での新型コロナウイルスの感染が落ち着いて海外旅行が可能になれば、再び中国勢による爆買いといったインバウンド消費が戻ってくる可能性があると筆者は考えています。

既に、日中間のビジネスに限った往来の再開に向けた動きも出てきています。事態は新型コロナウイルスの感染状況次第であり、流動的な側面が強いものの、2021年にかけて国境を跨いだ移動が可能になれば、中国勢によるインバウンド消費の恩恵を日本が再び受ける可能性は高いでしょう。

<文:エコノミスト 須賀田進成>

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