長崎県小値賀の「松くい虫」被害 止まぬ枯死、気候も影響か

緑色のマツ林の中に、「松くい虫」により枯れて赤く変色したマツが見える=9月30日、小値賀町西部(同町提供)

 長崎県北松小値賀町で害虫によってマツの木が枯死する「松くい虫」(マツ材線虫病)の被害が、小値賀本島を中心に深刻化している。マツは防風防潮を目的に植えられたもので、被害は2017年度ごろから顕在化。町は19年度までの3年間で被害木を切り倒して燃やす駆除作業に7億円以上を投じたが、本年度も被害は発生。関係者は解決方法を模索している。
 同町は五島列島北部に位置し、本島を中心に約20の島で構成。総面積約25.5平方キロメートルの約4割を森林が占めており、本島中心部の並木道「姫の松原」などは景勝地としても親しまれている。
 町によると、松くい虫の被害に遭って駆除した本数は16年度298本だったが、17年度に2234本、18年度1万2059本、19年度9639本と急増。今年の状況について、担当者は「現時点で昨年同時期より被害が広がっているようだ」と話し、12月ごろにかけてさらに枯死が発生すると推測している。
 県内では小値賀の北に位置する佐世保市宇久島でも近年、被害報告が上がっている。県外では、佐賀県唐津市の「虹の松原」で1991~96年にかけて、年間1200~2300本が枯れたという。
 小値賀で被害が膨れ上がった要因ははっきりしないが、17、18年の夏は少雨高温のためマツの木にストレスがかかり、地中から水を吸う力が低下していたところに、松くい虫が追い打ちを掛ける形となったのではないかともみられている。
 県農林技術開発センター(諫早市)の担当者は「今年夏の台風でも根が揺さぶられて吸水力が落ちている可能性がある。感染への抵抗力が下がり、被害が拡大するのでないか」と気をもんでいる。
 小値賀町は松くい虫対策で、町職員らの手作業やヘリによる薬剤散布を実施してきた。しかし、本年度は新型コロナウイルス感染拡大防止のために県外事業者のヘリを呼ぶのを控えざるを得なかったことも、被害拡大への懸念を深くする要因となっている。
 町は松くい虫の抜本的な解決に向けて昨年、有識者を招いて検討会設置。今年4月に保全計画を策定した。
 計画では確実で効果的な駆除のため、マツ林を(1)守るべき林(2)育てるべき林(3)人為的樹種転換を図る林(4)自然樹種転換を図る林-の四つの区域に分類。短期方針として、防風防潮林としての重要性に合わせ処置の方法を変えるとした。
 具体的には、(1)は薬剤散布と薬液注入を併用し、木に侵入したセンチュウの増殖を防止。(2)はマツ枯れが発生しても防風効果が一定保たれるよう、マツ以外の樹種を合わせて植林する。 (3)は薬剤防除や伐倒駆除の後は、マツ以外の樹種を植林し転換を進める。(4)については、(1)や(2)への被害拡大を防ぐため薬剤防除や駆除の後は自然に任せるとしている。樹種転換の候補としては、以前から自生しているハマビワやツバキなどが考えられるという。
 町産業振興課は「防風防潮や景観上重要な場合以外は防除処置後はそのままにしたり、マツほど高さが必要がない場所は他の樹種に変えたりしていく方針。単年度でなく、計画的に被害を収束させていきたい」とした。


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