私たちが定年を迎える頃、退職金はもらえるの?

将来の老後の生活に思いを巡らせたとき、資金面でその中心的な役割を担うのは退職金です。

日本企業では、古くから終身雇用のもと、若いころの賃金を低く抑える代わりに多額の退職金を用意するという報酬制度を整えてきました。

退職金制度にはさまざまな役割があります。働く人にとってみれば、定年後も豊かに暮らすためには退職金は欠かせません。また、企業としても、報酬の支払いを定年退職時まで留保しておくことで、それを社員が熱心に働くためのインセンティブとすることができるのです。

拙著「統計で考える働き方の未来―高齢者が働き続ける国へ」(ちくま新書)では、労働の実態、高齢化や格差など日本社会の現状、賃金や社会保障制度の変遷等を統計データから分析することで、これからの日本人の働き方を考えています。

その中では、退職金の過去から現在に至る趨勢を分析しています。今回は、著書の内容をもとに、退職金の現在の状況を確認し、その将来を予想していきましょう。


退職金が急減している!

退職金の額は過去から現在に至るまでにどのように推移しているのでしょうか。厚生労働省「就労条件総合調査」では、5年ごとに退職金の平均額を調査しています。これによれば、2003年の大卒者の定年時平均退職金額は2,499万円ありました。

しかし、その後、退職金額は減少を続けます。2008年には2,280万円、2013年には1,941万円、2018年に1,788万円へと急減しているのです。この10年間で退職金は平均で実に492万円も減少しています。

企業が退職金の減額を続けているのは、なぜでしょうか。それは、バブル崩壊以降、企業が高齢社員に多額の退職金を用意する財務上の余力を失ったからです。

多くの企業が確定拠出年金に移行するなどの改革を行いましたが、運用利回りも長期的に低下を続けるなかで、退職金は事実上減少してそれに歯止めがかからないままになってしまっています。

また、転職が一般的になりつつあるなかで、キャリアの最終期に報酬を手厚く支払う退職金制度が競争優位性を持たなくなっていることも指摘できます。

若い頃は低い給与水準で我慢してもらい、定年時に多額の退職金を支払うことでその回収をさせる――。優秀人材の確保が求められる中で、こうした報酬設計はもはや破綻してしまっているのです。

将来、十分な退職金はもらえるか?

さらに、高齢者雇用の負担感の高まりから、近年、早期退職による退職金を上乗せする動きも広がっています。

勤続年数別に退職金額の変遷をみると、直近で、勤続年数が20年から29年の労働者の退職金が増えている様子がうかがえます。長期勤続者の退職金を引き下げると同時に、40代後半から50代前半までの早期退職者の退職金を増額することで、企業は高齢社員が会社に居続けないように暗に促しているのです。

このような状況のなか、私たちが歳をとる頃に、十分な退職金はもらえるのでしょうか。

将来の退職金の額に思いを巡らせば、おそらくそれは難しいでしょう。将来、経済成長率はますます鈍化し、積立金の利回りも低下を続けるのは間違いありません。

少子高齢化によって多くの企業で若手社員が足りなくなり、高齢社員に豊富な退職金を用意するぐらいなら、若手社員の賃金アップに振り向ける企業も多く出てくると思われます。

確定拠出年金の運用の工夫などできることをしよう

私たちが老後を迎える将来、退職金で老後の生活をまかなうだけの資金を得ることはもはやできないのです。人によっては住宅ローンの残債を返すだけで退職金がなくなってしまうという人も多く出てくるでしょう。

では、そのような状況下において、私たちはいま何をすべきなのでしょうか。対策の一つとして私がまずあげたいのは、確定拠出年金など私的年金をしっかりと活用するということです。

最近では、企業型の確定拠出年金を導入する企業も増えていて、その対象となっている方も多くいます。にもかかわらず、少なくない人がその運用商品を自らよく吟味せずに、そのまま放置してしまっています。

確定拠出年金において、利回りが高い商品の比率を増やすことで、将来の受取額を充実させることは十分に可能です。機関投資家などに比べ、若手・中堅の一般社員が資金運用上最も有利な点は、長期の運用ができることです。

確かに、新興国をはじめとする海外債券・株式などはリスクが高く、場合によっては急激に資産が減少することもありうる商品です。しかし、こうしたリスクの高い商品は、長期的にみれば、日本国債など安全資産よりも高い利回りが実現することが期待できる商品なのです。

もっとも、リスクが高い商品の比率を高めるタイミングは良く考えなければなりません。足元では、新型コロナウイルスの感染拡大によって実体経済が急速に冷え込んでいるにもかかわらず、資産価格は高水準を維持しています。金融市場と実体経済とが乖離した状態が続くかは不透明で、今後、再び急速な調整を強いられる可能性もあります。

最後に、まだ見ぬ老後のために、過度に貯蓄をすることはやめておきましょう。将来の老後の消費も大事なものですが、いま若い頃に自分のために行う消費、家族のために行う消費もまた尊いものなのです。老後にお金に困ったら、その時にまた働けばいいのですから。

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